24:他人事ではない
「まあ、今となってはこの来歴を忘れ、ただ好きな相手に告白するためのイベントと思っている若い魔法使いが多いのも事実じゃ。でもせっかく贈るなら、一生に一度の愛を誓うぐらいの気持ちで、花を贈りたいもんじゃのう」
ゼテクはそう言うと、この話を締めくくった。
自由に恋愛ができる世界からやってきた俺からすると、現実とは思えない悲恋だ。
だが他人事ではない。
もしカーネリアンを見つけ出すことができなければ、ベリルと俺は、かなりこじれた状態になるはず。
この話を聞いて、俺の中で抜けていなかった旅行気分が、一気に吹き飛ぶ。
なんとしてもカーネリアンを見つけないと……。
ベリルは「まずは餌を巻き、獲物がいるのか、動くのか、見極める」と言っていた。しかし、この昼食で、何か見つけ出すことは、できたのだろうか……?
ゼテクの周りには、沢山の魔法使いが集まっていた。
あの中にカーネリアンをさらった魔女は、いたのだろうか……?
魔女がいなくとも、魔女につながるような者がいたのだろうか……?
「拓海」
バーミリオンに名前を呼ばれ、我に返る。
「みんな食事が終わったから、宿に帰ろうって」
「!」
見渡すと皆、席を立ち始めている。
俺も慌てて席を立った。
◇
宿に戻る馬車の中で、驚愕する。
昼食の時、俺はただゼテクに話しかける魔法使い達を、眺めているだけだった。だが、ベリルとクレメンス、そしてクレメンスの三騎士は、違っていた。集まった魔法使い達の、表情の変化をチェックしていたのだ。
ヴァンパイアという言葉に対する反応。
メルクリオが胸倉を掴む前に、キャノスを見て反応した者はいなかったか。
バーミリオンを見て「おや?」という表情になった者は、いなかったのかを。
「何名か怪しい反応をしていたので、それは三騎士に命じて追わせています」
帰りの馬車に、クレメンスの三騎士の姿がない理由が分かった。
「リマとレイラ、ジャマールも動いている。リマとジャマールは魔術が効かない体質。魔法による変身を見破ることが可能だ。あの場で変身をしていた者は、何らかの秘密を抱えていると言えるだろう。だから変身していた者を追ってもらっている」
ベリルの言葉で、店を出ると同時に『ザイド』の三人が姿を消した理由も、これで解明した。
「ゼテクはホワイトタウンの役場に向かうと言っていました。非合法な手段になるが、4年前のカーネリアン様が誘拐された月に、何か動きがあった家がないか調べる、とのことでした」
バーミリオンはそう言うと、ゼテクと何を話したか、ベリルに報告した。
俺が考え事をしている最中に、ゼテクとバーミリオンが話した内容はこうだ。
テルギア魔法国では、不法入国者を減らすため、それぞれの家での魔法使いの動きを、把握するようにしていた。例えばゼテクの家族構成が5人だとして、新しく子供が生まれれば、届けを出す必要があったし、住み込みで召使いを雇った場合は、その雇った召使いの情報も届ける必要があった。
カーネリアンを連れ去った魔女の目的が殺害であれば、その場で殺していたはず。連れ去ったということは、今ものこのテルギア魔法国で、共に生活している可能性が高い。スピネルはカーネリアンが美しい青年だったから、そばにはべらせるためにさらったのでは、と推測していた。真偽のほどは定かではないが、そういう可能性もある。
いずれにせよこの国でカーネリアンが生きていくためには、当然、その存在を役所に届けておく必要がある。例えひっそり森へ潜んでも、役所は森にも足を運び、そこに暮らす者を確認する。役所からは、逃れようがない。
となるとカーネリアンがさらわれた4年前の12月もしくは1月に、カーネリアンの実年齢もしくはその前後の年齢で、新しい家族もしくは召使いなどの形で、役所に届けが出ている可能性が高い。
ゼテクはそれを確認するために役所へ向かうと、バーミリオンに話していた。
支払いを終えたゼテクが姿を消した理由、これも明らかになった。
パスタに舌鼓を打ち、白い花祭りからいろいろ夢想している間にも、皆、どう動くか考え、計画を練っていた。
俺はただ食事をして、話を聞いていただけで……。
バーミリオンとキャノスも一見何もしていないように見えたが、二人はただ、そこにいるだけで役目を果たせていた。もしあの場に魔女がいれば反応していたからだ。
ヴァイオレットはその存在が知られないことが重要だったから、あの場で何もしなかったことが正解。
となると俺ってホント、ただの穀潰しだよな……。
そんなことを考えていると、宿に到着した。
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次回更新タイトルは
『What is your name?』
『強引な美女』です。
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