22:麗しのアン様
突然現れたのは、長身の美女だ。
金髪にグリーンの瞳、明るいカナリヤ色のドレスに包まれた、メリハリの効いたボディ。
すると。
「おおお、麗しのアン様。今日も一段とお美しく」
メルクリオの態度が一変した。
厚みのある体を器用に動かし、片膝を床についてひざまずく。そしてアンという美女の手を取り、その甲に恭しく口づけをする。さらに彼女の手の平に頬を摺り寄せ、うっとりした表情を浮かべた。
……メルクリオのデレデレの顔は、正直、気持ち悪い。
しかしアンは……。
「メルクリオ様、このような場所で甘えすぎですわ」
にこやかに微笑み、ゆっくりとメルクリオから自分の手をはずした。
「私達の席にいらっしゃいません? お母さまは買い物に出ているので、ゆっくり話せますわよ」
メルクリオは瞳を輝かせ立ち上がる。
……!
メルクリオの背が低く感じたが、そうではない。
アンはかなり身長が高かった。まるで元いた世界のファッションモデルみたいだ。
メルクリオが自身の左ひじを少し曲げると、アンは腕に手を添え、二人は歩き出す。
が。
メルクリオは、何かを思い出したように振り返る。
「ゼテク、食事がまずくなる。二度とその半端者を、この店に連れてくるなよ」
その捨て台詞にまたもベリルの瞳が赤黒く燃えたが、再びクレメンスがそれを制する。
なんとなく気まずい空気が流れ、集まっていた魔法使い達は、ゼテクに話しかけるのをやめた。そして一斉にそそくさと席に戻っていく。
俺はキャノスを見た。
俺以外のみんなもキャノスを見た。
キャノスは順番にみんなに顔を向け、手を軽くあげ「大丈夫です」と示す。
丁度料理も運ばれてきたので、俺達は席に腰を下ろした。
一発触発だったが、見知らぬ美女の登場で、なんとかやり過ごせた。
しかし、あの美女はいったい何者?
さっきの感じだと、悪い人……魔法使いなのか?……には見えなかった。
それなのになんでメルクリオのような最低のクズと、親しそうにしている……?
思案していると、ゼテクが申し訳なさそうに口を開いた。
「……すまぬのう。まさかメルクリオがここにいると思わなかった。グレースタウンに居を移したと聞いていたから、この店には来ないと思ったのじゃが……」
ゼテクが深いため息をつくと、バーミリオンが口を開く。
「明日からの3日間、白い花祭りが開催される。その祭りのために、あのクソ親父もやってきたのでは?」
「そうじゃった! そうか。どうりで宿の料金が高いと思ったら……。まあ、支払いはわしではないし、気にせずに応じてしまったが……」
「バーミリオン、白い花祭りって何?」
俺はバーミリオンを見る。
「ボクも宿のスタッフにたまたま教えてもらっただけで、来歴や詳細は知らない。でも毎年一月のこの期間に行われる祭りらしい。街中がデンドロビウムという白い洋ランの花で飾りつけられ、皆、街を出歩く時は、白い外套を着て3日間を過ごす。魔法で雪も降らせると聞いた。
デンドロビウムは色が豊富にあり、特に白いデンドロビウムには『純粋な愛』という花言葉がある。花祭りの最中は、デンドロビウムの花束が至るところで販売され、好きな相手にこのデンドロビウムの花を贈る。
花は男性から贈ってもいいし、女性から贈ってもいい。好き、というのは異性間のみならず、親子、家族、友人でも構わない。だからこの期間はみんな、気軽に花を贈り合う。『白い花祭り』と呼ばれているが、別名は『愛の花祭り』と言うそうだ」
「そうなのか! なんだか素敵な祭りだな」
当然俺は、ベリルにデンドロビウムの花束を贈ろうと思った。
「素敵な祭り……。今となってはそうなのじゃが、実際は悲しい過去から生まれた祭りじゃ」
ゼテクはそう言うと、皆に食事をするよう勧めた。そして自身も料理を口に運びながら、白い花祭りの来歴を語った。
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次回更新タイトルは
『 偶然の出会いから生まれた悲劇』です。
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