14:衝撃の展開
その後はいろいろと苦労が待っていた。
暗殺組織『ザイド』は、人間で構成されている。
人間が暮らすポリアース国は、テルギア魔法国とは隣国という関係。だが無力な人間を、魔法使いは格下に見ていた。というか鼻にもかけなかった。
そのため人間は、魔法使いに対して、本能的に嫌悪感を抱いている。
その魔法使いが、『ザイド』の中で、三本の指に入る暗殺者を籠絡した。
しかも、魔術が効かない体質でもないのに、魔法使いを二人も手にかけた、凄腕のファティマを懐柔した。当然、どんな未来が待ち受けているか、それは火を見るより明らかだった。
だがゼテクは、『ザイド』の中に魔法使いがいる意味を、次々と示していく。
難易度が高いと言われていた標的が、次々に姿を消した。
そしてその標的が身に着けていた貴金属が、ファティマとゼテクのサインが入った封筒と共に、『ザイド』に届けられる。
この繰り返しで、ついにファティマとゼテクは、『ザイド』へ迎え入れられた。
こうしてファティマとゼテクは『ザイド』に所属し、正式に結婚。
そして二人の子供に恵まれた。そのうちの一人は、若くして任務に失敗し、命を落としてしまう。残った子供は、見事な腕の暗殺者に成長したと思われたが……。
その子供、すなわちリマとレイラの母親リリスは、二人を産んで間もなくすると、狂殺者に堕ちてしまう。出産という経験をしたリリスは、誰かの命を奪うという行為ができなくなっていた。それでも任務に従うしかなく、こっそり薬に頼るようになる。
薬の力で自身の理性のリミッターを外し、誰かの命を奪う……暗殺を行っていたのだ。通常その薬は、暗殺組織では、新米の暗殺者に一度だけ使われるもの。なぜなら理性のリミッターは、一度の使用で外れるからだ。薬を使い続けると、もはや寝ても覚めても殺しのことしか考えられなくなる。薬に溺れ、落ちた暗殺者、それが狂殺者だった。
薬に頼っている状態に、ゼテクもリリスの夫も気づけなかった。気づかれないように本人が隠蔽していたせいもあるのだが……。
ゼテクが気づいた時は手遅れだった。リリスの夫はリマとレイラを残し、妻と二人『ザイド』を去る。
後日、二人の遺体が発見された。
ゼテクは幼い孫を、亡くなった両親に代わり、ファティマと共に育てることになった……。
◇
ここまでがベリルが語ったことだ。
この話を聞き終えた俺は……。
衝撃を受けていた。
リマとレイラが両親とそんな別れ方をしていたことに。
でも、思い起こせば、『ザイド』がレッド家の配下に入る話をした時、ベリルが「住まいに仲間を呼びせることも許そう。ただし、狂殺者だけはダメだ。お前たち自身が手をこまねている災厄を、ブラッド国に持ち込むことは許さない。それは理解できるだろう?」そう告げた時、リマは狂殺者という言葉に反応するかのように、体を震わせていた。
きっと、母親のことを思い出していたのだろう……。
ベリルは見事な手腕で『ザイド』を配下に収めた。
これからベリルは『ザイド』をどのように活用していくのだろう?
『ザイド』は言わずと知れた暗殺組織だ。
でもベリルが敵を暗殺するようなことをするとは思えない。
戦うなら正々堂々正面から。それがベリルだと俺は思っている。
……『ザイド』をどうするつもりなのか。ベリルと二人の時に聞いてみよう。
気持ちを切り替え、ベリルに尋ねる。
「ということは、ゼテクは本当にリマとレイラの祖父で間違いないんだな?」
ベリルは力強く頷く。
「ああ。本人が語った話だし、その話しぶりに嘘はなかった」
変身ではなく変装をしていたゼテク。
これまでの老人姿の魔法使いは、変装をしていた姿。
それは理解できるが……。
「なぜあの若さなのか、それが気になるのかい?」
クレメンスが俺に声をかけた。
「うん。どう見ても、祖父という年齢には見えなかった」
俺の言葉にクレメンスは微笑む。
破壊力の高いイケメンスマイル。
「魔法使いもヴァンパイアと同じで、成長を止めることができるんだよ」
「‼ そうなのか⁉」
「うん。ゼテクのあの姿は20代後半ぐらいじゃないかな。多分、彼が一番輝いていた時代の姿なんだろう。なかなかの男前だ。ファティマが一目惚れした理由も分かっただろう?」
「それはもちろん……」
「ではなぜ老人の姿に変装していたのか、それが気になるのか?」
今度はヴァイオレットが俺に尋ねた。
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次回更新タイトルは
『そんなに顔を近づけたら』です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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