10:ホントやらしいんだから‼
話は脱線しまくったが、ともかく人数が多い、かつ陸路では何かと不便だった。
移動する度に宿や店の安全を確認し、長距離だから乗り物のメンテナンスも考えないとならない。
対して船であれば、一台用意すればそこにすべてが揃っている。
どこで食事をしようか、渋滞は大丈夫か、トイレ休憩をとらないと、などなどの心配もいらない。
しかもチャーター船なら、事前にクルーの身元確認もバッチリできたし、寝ている間も移動してくれる。
ということで事前準備を手伝うスピネルが手配した船は、俺がいた世界で言う、クルーザーだった。しかもただのクルーザーではない。100フィート以上ある、特注のサロンクルーザー。俺がいる世界だったら、世界一周もできるぐらいの、まさに移動する高級ホテル、という感じだ。
実際そのクルーザーで2週間を過ごしたわけだけが。……最高だった。
日中は開放的なサロンでのんびり過ごすこともできたし、キャノスとゼテクの魔法で、広いサロンをジムに変え、存分に運動をすることもできた。
ジャグジーもあったし、パーティールームもあったので、夜会も一日おきに行われた。
ホリデーシーズンの別荘の時のように、ただベリルを眺めるための夜会ではない。俺はベリルとダンスを楽しむこともできた。……まあ、ダンス初デビューだったので、レッスンをしてもらっているような状態だったが。
専属の料理人が作る料理やスイーツも絶品で、思いがけず夢のような時間を過ごせた。
そして遂にテルギア魔法国に到着した。
俺達は荷物を持ち、港に降り立った。
◇
すごい。
港自体は、レンガ造りの倉庫が並んでいて、その先に広がる街の様子は、ブラッド国とそこまで変わらないものに思える。
だがもっと遠くに見える景色が、まさにファンタジーの世界だ。
象牙なのか大理石なのか。
信じられないほど真っ白な塔が、高くそびえたっているのが見える。
塔の周囲の山々には朝靄がかかり、そこに朝陽が差し込み、幻想的な景色を浮かび上がらせていた。
その塔を見上げていると……。
「あー、拓海、あんたまた首にキスマークなんてつけて! ホントやらしいんだから‼」
ボトルグリーン色のドレスを着たリマが、リスのような黒い瞳に嫌悪感を浮かべ、俺を睨んだ。
ダークブラウンのおかっぱ頭のリマは、小柄なのに胸は大きく、普通にしていれば可愛らしいのだが……。
俺への風当たりはいつもきつく、正直なリマの印象は「コワイ」だ。
なぜ、リマは俺にきつくあたるのか。
それはどうもリマがベリルを慕っており、そのベリルが俺を特別視していることに、納得できないらしい。首のキスマークだって、つけたのはベリルだ。でもその非難はなぜか俺に向けられる……。
「もー、リマってば、拓海さんに、そんな風に絡まないの! 相変わらず態度が悪くてごめんなさいね、拓海さん」
そう言って頭を下げるのは、リマの姉のレイラだ。レイラはリマと同じ綺麗な黒い瞳を持ち、黒髪長髪で、ネイビーブルーの落ち着いたドレスを着ている。ドレスは落ち着いているが、スリムな体のわりに胸がとても大きく、動く度に胸が大きく揺れている。
俺にきつく当たるリマに対し、レイラは俺のことを「さん」付けで呼び、物腰も柔らかい。……レッド家に仕えるようになってからは。
そう。リマとレイラは暗殺組織『ザイド』に所属していて、俺を2回さらおうとした過去を持っている。でも今、『ザイド』はレッド家に仕えており、二人はこの旅に同行していた。
なぜこの二人が旅の仲間に選ばれたのかと言うと、まず、リマは正真正銘の魔術が効かない体質だからだ。何かあった場合、対魔法使いに魔術が効かない体質は欠かせない。
ちなみにこの旅には、ジャマールという、まるで『千夜一夜物語』に出てくる魔人のような、屈強の男性もいる。彼もまた、魔術が効かない体質だ。そしてやはり俺を2回さらおうとした、『ザイド』のメンバーの一人でもある。
一方の姉のレイラは、暗殺術の達人らしい。
幸い、俺は暗殺されていないので、そのすごさを目の当たりにしたことはない。
だが俺が2回目にさらわれた時、レイラはベリーダンスのダンサーに扮し、妖艶な踊りを披露した。さらに恋人を失った非力な女性を演じ、俺はそれにまんまと騙されている。
だから今、落ち着いて物腰も柔らかい姿を見せているが、それが本当のレイラなのか分からない。暗殺術の達人と言われてもピンとこなかったが、「なるほど」と思える一面もあるのかもしれない。
ある意味分かりやすく怖いリマに対し、レイラには、笑顔の裏に何かあるのではと構えてしまう。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『これが元々の姿⁉』
『拓海、バカなんじゃない?』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています‼






