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01. 花嫁強行の事情


 姉のカレンティナが、優れた容姿で人を惹きつける事には、幼い頃から両親も手を焼いていた。

 長い艶やかな赤毛の巻毛に明るい緑の瞳。

 いつも笑顔がきらきらと眩しい彼女は自然と人の目を引いた。


 アレアミラの家はごく普通の家だ。

 集落の、獣族の中で純血を通す尊い家系とは言われているけれど、だからと言って一国の貴族のような暮らしが出来る訳ではない。

 両親が働いていて、その手伝いを子供たちが担う一般家庭。


 とは言え姉にはいつも誰かが手を差し伸べるのが当たり前だったから、彼女にはそんな概念は無かったけれど。見た事の無いお姫様のような待遇──姉はそれを体現しているような人だった。

 

 それが当たり前になると、何故自分が? という事になるようで。段々と話の通じなくなる姉へ言いつけるのを両親は諦め、アレアミラに命じるようになっていった。

 

 同じように姉に通じない話は大体アレアミラに持ち込まれる。

『羨ましそうにしていたけど、叔母からの貰い物だったし、あげられないって断ったんだけど……後からレインズに凄く怒られたのよね。事情を説明して帰ってもらったけど、今考えても理不尽だわ。カレンティナにもそう言っておいてよね』

『恋人をとられた、酷いわ! 興味無い風にしてたくせに!』

『……あのさ、もう少し考えてから発言して欲しいんだけど。家でもよく言っておいてくれない? ……うちの子、傷ついてずっと部屋から出てこないのよ』


 身内の奔放さに身が縮こまる思いしかしない。

 忙しい両親にその話をしても、便宜上姉に注意をするものの、何より二人が一番分かっているのだ。姉に話が通じない事は……


「そうなのね、知らなかったの」


 殊勝な顔で俯く姉には大分遠回しに伝えてある。

 泣かれると面倒だからだ。

 反省の色も見られるし、別に悪い人ではないのは分かっている。それに落ち込む姿は胸に刺さるほど儚く美しくて、苦言を呈するこちらが居た堪れなくなる思いになってしまう……


『悪気が無いからって何をしてもいい訳ではないでしょう!?』


 怒鳴り込んできた女性の泣き顔に、申し訳ない思いで項垂れた。

 出来る限り「家族だから」諭し、注意し、寄り添い、謝罪をしてきた。


 良くも悪くも比べられてきた。

 カレンティナは愛らしく可愛い。アレアミラはしっかり者……

 

 自分の肩口より短く切った髪を撫でる。

 姉と違い、赤毛だけどどこか褪せたそれは真っ直ぐに癖がなく、面白みのないものに感じられないとは思っていたけれど……

『あなたには似合わないから、丁度いいじゃない』

 いつものように悪気の無い本心から告げる姉の表情は晴れやかで。

『……そうかな』

 短い方が姉妹の区別もつきやすいと周りの賛同も合わさり、自分の望みなど口に出す事は出来なかった。

 


 ◇



『本が好きなんだな』

 

 いつからか、アレアミラは現実から逃げるように、空いてる時間は本に齧り付くようになった。

 静かに本を読んでいる間は良識ある人は声を掛けるのを躊躇われる。

 

 だからそう声を掛けられて驚いて、アレアミラは自分を見下ろすセヴランをまじまじと見た。

(お姉様の……)


 族長の遠縁で、別の集落から来たという彼は、見た事も無いくらい眉目秀麗で美しい。

 白銀の髪に空のように澄んだ瞳にそう問われ、思わず息を飲んだ。

(お話に出てくる王子様みたい……)

 綺麗で、格好良くて──


 本が好きなのかと、姉の評価目当てに勧めてくる輩も沢山いた。

(けれど……)


 じっとその瞳を覗き込む。

 セヴランは他の者たちと違い、姉が目当てでアレアミラに近付いた訳ではなかった。その目に今迄姉に懸想していた者たちと同じ熱は感じないようだ。


 そもそも集落でも目を引く彼へ、近付いたのは姉からだとも聞いている。

 そんな風にセヴランを観察していると、彼はにっこりと笑い手を差し出してきた。

『いい子だな、飴をあげよう』

『あ、飴……?』

 差し出された小さな包みにアレアミラは目を丸くする。

 ぽんぽんと頭を撫でる手は大きくて、その目は柔らかい。本当に義妹を可愛がるだけの温かさ。

(変わった人だなあ……)


 でもアレアミラは彼が義兄になるのが、嫌では無いと思った。

 ほんの少しだけ、胸は痛んだけど。


 



(それなのに……)

 




 どうしてここにいるのだろう。

 残って姉と結婚するのだと思っていた。

 レインズたちには悪いけれど、アレアミラが代わりに嫁いだところでセヴランの存在感が消える訳ではない。

 口を半分開けたまま呆けていると、セヴランがふっと息を吐いた。


「使者殿、確かに私が花嫁の従者です。ご足労頂きありがとうございます」

「ああ」

 胡散臭そうに目を細める迎えを、セヴランは気に留めるでもなく飄々とした態度を崩さないけれど。

(どうしよう、益々緊張してきた……)

 アレアミラは冷たくなる指先を握りしめ、震え出す身体を宥めようとした。


「申し訳ありません。我らが花嫁は緊張してしまったようで……」

 ちらりと視線を向けると使者はふんと鼻を鳴らした。

「そうですか、それでは馬車にお乗り下さい。……野獣のように野駆けに付き合えず申し訳ありませんが、こちらの体裁をご理解頂きたい」

「……」

「勿論心得ておりますよ、軟弱な人族の皆さん」

「……っ」


 にっこりと挑発にのるセヴランに使者が色めき立つ。

「おにい……セヴラン、止めてください。私たちは和平の為にここにこうしているのですから……」

 剣呑な雰囲気を取りなすように声を掛ければ、使者たちは嫌そうに踵を返した。

「……馬車にどうぞ」

「ありがとうございます」


 ほっと頭を下げてセヴランに目を向ければ、彼は黙ってアレアミラに続き馬車に乗り込んだ。


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