夜の行進
夜の行進は止まらない
行列は深い青色
山を越し街を越し
どんどん世界は夜になる
月明かりは銀幕
月明かりはドレス
月明かりはマント
月は脚光を浴びて主役を務めている
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夜空を海に、星をうろこに、雲が魚になってのんびり泳いでいる。大地では、夜風に草木や花が踊って、歌っている。
夜空の隙間からは、藍と墨染のシルクに、銀の刺繍をあしらえたかのような夜の海が、幾重にもたなびき、穏やかにはためく。
あなた達──オレたちでもアタシたちでも──夢を持つ全ての生き物たちの、その夢に、橋のかかる特別な夜。
だから色んな形で言葉は見つかるだろう。私達が世界に語りかける限り、世界もまた語りかけてくれるだろう。
夜の真ん中を月は堂々と進み、月明かりの衣装で世界を淡く彩っている。
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僕もまた素晴らしい夜の大舞台にいた。まるで夜空の向こう側のような、藍墨色の大舞台の端っこに。
ここなら一人で、僕は家族や友達を好きなだけ想うことができる。悲しみを悲しむんじゃなくて、悲しいから悲しむことができる。
明かりを灯せば本だって、優しい布団の中で良いところまで読めるんだ。
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夜の行進 海の向こうまで飛び越えて
時計の針もうんと傾いて
夜はますます深まる
ねぼすけな星たちも目を覚まし
時はいよいよ真夜中
高らかな 月明かりの音頭が鳴って
物語は佳境を迎える
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月が輝き、夜が一層美しく深まる。
そんな中、あるものは本を読みふけり、あるものは誰かと過ごし、あるものは働く。当然、眠るものもあった。
名前もつかない役を過ごし、華形を務めない彼らもまた、この夜の大行列の仲間だ。
夢を持つ生き物の、その夢の全てに橋がかかる夜。月に続いても続かなくても、夢は彼らの中にこそあるものだ。
そうして大切なひとときを全うすればこそ、誰かと過ごしたくなる。
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寂しくない夜が僕は一番好きだ。何かに集中したり、誰かと過ごしたりして時間をいっぱい楽しむんだ。頑張って働くのも、たくさん眠って休むのもいい。
「こんなに素敵な事ってあるだろうか、ずっと夜に居られたらいいのになあ」
朝も昼も素敵な事はいっぱいあるけれど、僕はついそう思ってしまう。夜をこうやって、大切に過ごしたいんだ。
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夜の行進は遠ざかる
これからは朝の気配
紫色、赤色、橙色
反対側の空が色づいて
朝日のまつげが伸びてくる
だけど夜はまだもう少し続く
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さあさあ、特別な夢の時間はそろそろおしまいだ。だからあとは目が覚めるまでうんとゆっくりお休み。