表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/92

ちょっと個性が強すぎて

「た~だいま~」


私がお風呂を洗い終えてお湯を張り始めたところに、観音(かのん)が帰ってきた。


「いや~、今日はマジ疲れた。めっちゃくちゃお客が多くてさ~」


帰るなりそう愚痴をこぼす彼女に、私は、


「おかえり。それは大変だったね」


と穏やかに応える。すると彼女もホッとした様子で、


「あとあと、聞いて~、めちゃくちゃショックなことがあってさ~」


そう続けた。それについても、私はそのまま耳を傾ける。


「くじの景品のコースターがいっぱい残ってて、今日が最終日で、日付が変わったら撤去するから、そしたら全部買い取っていいって店長が言ってくれてたんだよ。


で、そのつもりで楽しみにしてたのに、バイト上がりの直前でさあ、残りのくじ全部買ってったお客がいたんだよ~


ひどくない? ねえ、ひどくない?」


「あ~、それは残念だったね」


「ホントだよ! ああ、でも、それがなかったら売れ残るようなのだったから、たぶん、転売目的とかじゃないだろうし、その人もきっとビリーくんの熱烈なファンだったんだろうなぁ……


そう思ったらまだ救われるよ」


「そうか。そう思えるんだったら、まだ、幸いだね」


そして、一通り愚痴を言い終えると、彼女は今度は、私に向かって、


「どう? お母さんも仕事でなにか嫌なこととかなかった?」


って訊いてくる。


そうなんだ。彼女は、自分だけが一方的に愚痴るんじゃなくて、ちゃんと、私のことも気遣ってくれるんだよ。しかも、彼女が口にしてた<愚痴>にしても、誰かを攻撃して貶めようとしてるわけじゃないのは、その口調や表情からも分かる。ただ単純に、<今の自分の気持ち>を表明してるだけに過ぎない。だから聞いてる方も、そんなに嫌な気分にならない。


本当に、いい子だよ。


ちょっと個性が強すぎて、男の子からはモテないみたいだけどね。


男の子の友達も、何人かはいたらしいけど、付き合ってるっていうのはいなかったそうだ。


<結婚願望>もない。


「ま、結婚とかするつもりは今のところないし、このままずっとお母さんと一緒に暮らしてていいかな?」


大学に通い出してからは、そんなことも言い出した。


普通ならそれを、


『パラサイトシングル宣言か!?』


みたいに受け取るところかもしれないけど、決してそういうことじゃないのを、私は知ってる。


奨学金の手続きも、保護者である私が書かなきゃいけない書類とか以外は全部自分で用意して、受験の準備も手続きも全部自分でやって、入学の手続きも全部自分でやるくらいに意欲を見せてて、真面目に勉強するために大学に通い、バイトまでやってるんだよ。


ホント、観音(かのん)はもう、精神的には自立してる。私はただ、名目上の<保護者><法定代理人>っていうだけなんだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ