現実と直面してる
もちろん、最初からそれで上手くいってたわけじゃない。最初のうちは何を言っても聞いてくれない子もいる。
当然だ。その子はママと一緒にいたいんだから。
『ママと一緒にいたいのに、一緒にいられない』
その子にとっては、まさに、
『この世は自分の思い通りにいかない』
という現実と直面してるわけだ。
その上で、こちらの話を聞いてもらうのは、結局、子供に信頼してもらうのが一番確実なんだけど、一人の子供だけに集中するということができないから、それは実に難しい。
「ねえねえ先生、ねえ!」
かまってもらいたくて絡んでくる子供の言葉に、丁寧に耳を傾けるのが、信頼を得る王道なのは分かってても、同時に何人もでこられると、さすがに全員には、同じ対応はできないからね。
かといって誰か一人にだけ集中しようとすると、他の子からの信頼を得られない上に、贔屓してると受け取られて、他の子から反発を受けることさえある。
さらにそれがいじめに繋がることもあるから、誰か一人は特別扱いしないようにと、上からもお達しが出ている。
私もそれは当然の配慮だと思うし合理的だと思う。
今も園に来た時にぐずってた子に絵本を読んであげていると、
「センセ~、遊ぼ~!」
と、他の子が飛びついてきた。これもよくあることだ。こうなるとそれこそ無視はできない。
根本的に人手が足りてない。保育士の数を増やして欲しいところだけれど、園の予算だって必ずしも潤沢じゃない。いくらでも保育士を増やすということもできない。
こういうところが大きなジレンマだ。
かといって私個人にできることなんてタカがしれている。その時点でできることをただただ頑張るだけだ。
変に期待とかしても、何もかもが自分の思い通りにいくわけじゃないという事実がある以上は疲れるだけだしね。
別にブラックな職場環境を容認するつもりはないんだけど、改善していく努力は当然してもらいたいんだけど、だからってすぐに実現するわけじゃないから、それまでの間の自己防衛として、そういう心持ちを維持しているだけだ。
そんなこんなで仕事を終えて家に帰ると灯りが点いていなかった。今日は観音はバイトのシフトは入ってなかったはずだから家にいるはずなんだけど、出かけているのかなと思いつつまた別の予感もあった。
「ただいま」
鍵を開けて家に入ると、
「うけ、うけけけけ!」
不気味な笑い声が。知らない人が聞いたら腰を抜かすかもしれないそれに、私はすぐに状況を理解した。
観音だ。
少し呆れながらリビングを覗くと、案の定、灯りも点けない薄暗いそこで、観音が相変わらずのパンイチで、イヤホンを付けてパソコンで動画を見ていた。
普通に考えたら百年の恋も覚めるような姿だろう。でも、私達にとってはむしろこれが普通だ。




