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ダンナが死んだ

ダンナが死んだ。


スキルス性の胃癌だった。食道楽が趣味で、若い頃から胃の不調を訴えてることが多かったから、違和感は覚えててもてっきりいつものだとタカを括って病院にも行かなかったらしい。


で、いよいよ『おかしい』と感じてようやく受診したら、その時点でステージⅣ。癌細胞が胃壁を越えて腹腔内にまでばら撒かれててすでに転移が始まってた。


もうこの時点で外科手術による切除は望めなかったらしい。下手に触るとそれこそ爆発的に進行する可能性が高かったそうだ。


仕方なくそのまま抗がん剤治療に入ったけど、残念ながらダンナのそれには合わなかったって……


正直、ついなじっちゃったよ。


「なんであなたはそんなに能天気なの!?」


ってさ。


おかしいよね。彼のそういう、細かいことを気にしない大らかなところが好きだったのにさ。私みたいな<変な女>のことも大きく包み込んでくれるところに惹かれたのにさ。


つくづく、人間って身勝手だよ……




彼と結婚したのは、七年前。彼は再婚、私は初婚だった。


知り合ったのは私の勤め先で、前の奥さんとは、人生観の点で折り合いがつかずに離婚したらしい。


と言うか、前の奥さんはデザイナーで、仕事のために家庭を切り離したかったんだって。一度は仕事を諦めかけててその時に彼と出逢ってその人柄にほだされて結婚したけど、長女を妊娠してから大きなチャンスが巡ってきて、そっちを取ったってことだそうだ。


そういうの、批判する人も多いだろうけど、私個人としては、なんとなく共感できてしまうかな。私にはそこまで思い切れるだけのチャンスは巡ってこなかったってだけで。


で、彼は、生まれたばかりの長女を、ベビーシッターとかも利用しながらも一人で育ててきたそうだ。


長女に<新しい母親>を作ってあげるための再婚は考えなかったって。


「そういうの、娘にも相手の女性にも失礼だと思う」


彼はそう言ってたよ。だから私との結婚も、最初は渋ってた。だけど私から、


「大丈夫! 私は観音(かのん)ちゃんの母親になりたいわけじゃないから!」


って言って、半ば強引に押し切る形で結婚したんだ。だって彼のことを愛していたから。


彼はね、見た目こそは十人並みだけど、<人間的な器>っていう点では、私がこれまで出逢った男性の中でも一番だったと思う。


そりゃ、世の中には彼以上の男性だっていただろうけどさ。でも、『私にとっては』彼以上の男性はいなかったんだよ。こんな面倒臭い女とちゃんと向き合ってくれる男性なんて。


これまでだって、『重い』とか『面倒臭い』とか、そんな理由でフラれてきたからね。



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