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現世の乙女  作者: 夢幻
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稀人(マレビト)


霊力とか今まで考えたこともなかった。

霊感とかは聞いたことあるけど、私はそんなものとは無縁で生きてきたし。


でも、なんで霊力がないのが特別なんだろう?


首を傾げる私の横で、なるほど、とカザミが呟いた。


「稀人は神に近い存在と言われていて、その理由は現世で命を落とした筈の者が常世でその姿を保ったまま現れるためだと聞いたことがある」


「その通りじゃ。霊力はないが自分達と似た力を感じるのか、神は稀人に会うと無視できんようじゃ」


もしその話が本当なら、やっぱり私は向こうでは死んじゃったってことになるんだ。

こうして普通にできてるからあんまり実感はないけど。


「話はそれだけでは終わらん。

稀人は神に気に入られれば真名で契約することができるんじゃ。

常世の者にはできんことじゃから、すごいことなんじゃぞ?」


何故か得意げなキナリさんには申し訳ないけど、全然話についていけない。


「真名で契約できるってどういうことですか?あと、契約するとどうなるんですか?」


真名の時点から意味が分かってないんだけど。


「真名は所謂魂に刻まれた名。

真名は命と同じくらい重要なものなんじゃ。

真名を知られるということは、その者に命を握られるということ。

真名を神に託すことで神の加護を受けることができるんじゃよ」


名前にそんな重要な意味があるとは知らなかった。

真名を知るだけでその人の命を握れるなんて恐ろしすぎる。


「常世の者は神憑きと神無しがいると言ったじゃろ?

あくまで勝手に憑いとるだけで、必ず力を貸してくれるという訳ではないんじゃ。

神は気まぐれじゃからのぅ。

じゃが、稀人は神と契約するとその能力を使うことが出来るんじゃ」


え、それってすごくない?

真名を教えたらその神様に力を貸してもらえるってことでしょ?


キナリさんのおかげでやっとその凄さが分かってきた気がする。

それと同時にとんでもない世界に来てしまったんだという恐さも感じるけど。


「あれ、じゃあもしかして、私カザミに名前教えちゃったのって大丈夫だったんでしょうか?」


今更だけどめっちゃ重要なことに気づいた。

超自然に名前教えちゃったけど、これって真名を知られちゃったってことなんでしょ!?


横のカザミを睨むと、バツが悪そうに目をそらされた。


アオイさんが怒ってた理由がわかった気がした。


「そうなんじゃ。

真名は親と婚姻する相手以外には教えんのが普通なんじゃが」


キナリさんが唸りながら見事なあご髭をわっしわしと撫でるのを見ながら、微かな違和感を覚える。



親と婚姻する相手以外には教えない、ってことはつまり


「・・・もしかして皆ほんとの名前じゃないってこと?」


違和感の正体を言い当てて納得する。

真名を名乗れないなら必然的に別の名前を名乗るしかなくなる。


「正解じゃ。だいたい皆あだ名や通り名みたいなものを名乗っとる。

ちなみにわしは鳴神が憑いとるから黄鳴じゃ」


「じゃあ、私も真名とは別の名前を名乗らないといけないってことですよね?」


「そういうことになるのぉ。

わしが付けてもよいが、何か名乗りたい名前でもあるかの?」


「うーん、そうですね・・・」



ひとつ思い浮かんだ名前があるけど、それを自分の名前にするのは少し抵抗がある。


そもそも偽名を名乗る機会なんて早々無いし、これからずっとそれで過ごすのかと思うと簡単に決められない。


「あの、ちなみにキナリさんが私につけるならどんな名前にしますか?」


「そうじゃなぁ、お嬢さんにつけるなら・・・《現世うつしよの君》とかどうじゃ!?」




・・・・・。


「爺、さすがにそれはないな」


「お爺様、私もそう思います」


唖然として反応に遅れた私の代わりにカザミとアオイさんが却下を出す。


キナリさんならこの世界に馴染むような名前を付けてくれそうだと思ったけど、どうやらキナリさんにはネーミングセンスはないみたいだ。


「そうかのぉ?良い名を思いついたと思ったんじゃが」


残念そうに呟くキナリさんを見ながらカザミとアオイさんが却下してくれてよかったと本気で思う。


現世の君とかやばい。まず自分でその名前を人に名乗れない。絶対名乗りたくない。


「ふむ、ではカザミ。おぬしがお嬢さんの名を考えてやったらどうじゃ?

おぬしはお嬢さんの真名を知っておるんじゃし」


「俺が彼女の名を?」


候補を却下されたキナリさんの仕返しなのか、まさか自分に矛先が向くとは思っていなかったらしいカザミが私を見る。


戸惑っているのか眉間に軽くしわを寄せながら顔をまじまじと見つめてくる。

その視線に妙な気恥ずかしさを感じて首の後ろがむず痒くなった。


「・・・そうだな、俺が彼女に付けるなら《サクヤ》はどうだろうか?

木花咲耶姫コノハナサクヤヒメという花に例えられた女神が神代の時代に居たそうだ。

草花に埋もれるように眠っていた君を思い出してその名が浮かんだ」


本当にその光景を思い出したのかカザミが微笑みながら一つ名前を提案してくれる。


それってもしかして私の名前がハナだから花繋がりで、かな?

神様から取った名前を私なんぞが頂いちゃっていいんだろうか?

花に例えられたなんて相当綺麗な神様だったんだろうな。


「気に入らないか?」


困った様に眉を下げて私の反応を伺うカザミは若干幼く見えて思わず笑ってしまった。


「そんなことないよ!神様の名前を貰っちゃうのは恐縮だけど、いい名前だと思う」


少なくともキナリさんの名前と比べたら百パーこっちの方がいい。


「どうやら決まりのようじゃな!

ではこれからはサクヤとお嬢さんのことを呼ぶことにするが、よいな?」


「はい、それでお願いします」


「では今からそなたはサクヤじゃ。

人に名を聞かれたらそう名乗るように。くれぐれも真名を名乗ってはいかんぞ?」


「わ、わかりました」


うわぁ、なんていうか全然実感ないけど、間違えてハナって名乗らないようにしないと大変なことになりそう。

不安すぎる。


「なに、そんなに構えんでもここで過ごしている間にすぐに慣れる。

もし困った事があればわしやアオイ、カザミを遠慮なく頼ってくれればよい」


キナリさんがそう言うとアオイさんが会釈をしてくれたので、それに習って会釈を返す。


「俺も君と仲良くなりたいから分からないことがあれば何でも聞いてくれ」


横でカザミもニコニコしながら握手を求めてくるので、さっき散々繋いでたじゃんと思いながら出された手を握った。


夢だと思いたいけど、夢じゃ無さそうなその手の温かさにもはや笑いしか出てこなくて、あははと空笑いが口からこぼれた。







お読みいただきありがとうございます!

ハナの名前はここからサクヤに変わります!

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