神とは
「ふむ、どこから話そうかの。
そうじゃ、お嬢さんの居た所では神は存在していたかの?」
「神、様ですか?」
うーん、いきなりぶっ飛んだ質問がきた。
私の中では神様は居るのかもしれないし、いないのかもしれない存在だ。
見たことないし、感じたこともない。
うちは無宗教だったから特に信仰してた神様もいなかったし。
「わかりません。居たのかもしれませんが、居ると感じたことは無かったです」
「そうか。現世ではそうなのじゃな。
だが、ここではその認識が変わるはずじゃ。
現世と違って常世では神の存在がとても近い」
これじゃ、とキナリさんが右手で宙に円の様なものを描くと、その中心からいきなりバチバチッと火花が散ったかと思うと、そこにまるで最初から居たかのように手のひらサイズの龍がいた。
光沢のある翡翠色の鱗に、鋭い爪を持った短い四肢、乳白色の角に金の瞳。
よく見るとパチリッと身体を覆うような静電気みたいな光を纏っている。
小さいのに迫力があって、目を反らせない。
「そいつは鳴神じゃ。
わしが生まれた時からずっと憑いておる。可愛いじゃろ?」
確かにやたらバチバチしてるのは気になるけど可愛いと思う。
ぷかぷか空中に浮かびながらこちらを伺うように金の瞳で見つめられる。
「常世ではそこら辺に神が溢れとる。
神は気に入った人間に“憑く”んじゃ」
「“憑く”んですか?」
なんか憑くって言い方だとあんまり有り難みがないような気がするんだけど。
「神も気まぐれなんじゃ。気に入れば憑くし、気に入らんと見向きもしんぞ?
お嬢さんはそいつに気に入られたようじゃな」
ほほほっと笑ってるキナリさんをよそに龍がふわふわしながらこっちに近寄ってきてるんだけど大丈夫?
めっちゃパチパチ触ったら痛そうな音が聞こえるよ?
未知の体験に金縛りにあったみたいに動けない私を見て、カザミが笑う。
「爺、脅かしたら可哀想だ。他人に憑いてる神には触れない筈だろ?」
え、そうなの?と横から入った助け船に安堵する。
だって、可愛いけど触ったらすごい痺れそうだし・・・。
「まぁそうなんじゃが、稀人のお嬢さんだからわからんぞ?」
楽しげに話すキナリさんのミニ龍は目の前まで来ると、「ん?」と言うように首を傾げる。
超絶キュートなその造作にハートを撃ち抜かれた。
「可愛い・・・」
思わず呟く。
その声に応えるようにミニ龍が私の鼻先に自分の鼻先をちょん、と触れさせた。
「え」
触れないって言ってたのに今、触れた?
ビックリして固まった私の反応を楽しむかのようにミニ龍は空中に円を描くと消えた。
その光景に横にいたカザミも目を瞠っていた。
絶対バチッってすると思ったのに全然しなかった。
むしろ柔らかくてあったかい、嫌な感じが全くしなかった。
「ほほほっ!これは言ってるそばから面白いものを見れたのぉ。
やはり稀人は神に好かれやすいようじゃ」
一人テンションが上がったキナリさんが笑い声を上げた。
「どうじゃ、神に触れた感想は?」
「や、あの、なんていうかびっくりしすぎて感動もなにもないんですけど・・・」
バチバチしてないのに頭から爪先まで痺れたような衝撃的な体験だったけどね。
「爺、これは一体どういうことなんだ?
今まで憑いてる人間以外に神が干渉するなんて聞いたことないぞ」
カザミも相当驚いたらしく、余裕がない口調でキナリさんに問う。
「わしも初めて見たわい。
過去に常世に現れたという稀人の文献にはそんなようなことが書かれておったが、まさか本当だとはわしも思わんかった」
キナリさんもカザミと同意見のようで、どうやらさっきの出来事は普通に起こることではなかったらしいと分かる。
「神様がすっごく身近に居るってことはわかりましたけど、稀人が神様に好かれやすいってどういうことなんですか?」
「うむ、話が少しややこしくなってしまったな。
さっきも言ったが神は誰にでも憑くわけではない。赤子が生まれた瞬間に神はその人間に憑くか憑かないか決める。
そして、選ばれた者は“神憑き"と呼ばれ、それ以外は“神無し”と呼ばれる」
「じゃあキナリさんは神憑きってことですか?」
「そうじゃ。常世では誰でも大なり小なり霊力を持って生まれる。
生まれ持つ霊力の量は一生変わらん。
霊力を多く持っていればいるほど、神に気に入られやすい。
じゃが、稀人は違う」
「?」
「この世界とは別の世界で生を受けた稀人には霊力はないんじゃ。
だからこそ神にとって稀人は特別なんじゃよ」
お読みいただきありがとうございます。
不思議な力って憧れます。