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現世の乙女  作者: 夢幻
3/6

常世




カザミに手を引かれながら、辺りをキョロキョロしてしまう。


一面草花で溢れ、その向こうには木々が生い茂ってて鳥のさえずりなんかも聞こえてくるし、常世はすごく自然に溢れてる。


気温も暖かくて外でお昼寝するには最高だろうし、空気も澄んでておいしいなと感じる。

街中の排気ガスとか人のにおいやあちこちから漂う飲食店のにおいとは大違いだ。


ほんとここ天国とかじゃないのかな?

花畑が広がってる風景って個人的に極楽のイメージあるんだけど。



白い羽織を揺らしながらゆっくりと手を引いて前を歩くカザミの後ろ姿を見ながら、急に不安になってくる。



ショックだったのかもしれない。


死ぬつもりは無かったけど、水の中で確かに私は目を閉じた。

もがくこともせずに、だ。


黄泉じゃないって言われたけど、普通に考えたら死んでる。

無意識のうちにそうなることを望んでいたのかな。



「どうした?疲れたか?」


カザミが立ち止まって振り返った。


考え込んでいて歩くスピードが遅くなっていたみたいだ。


心配そうに覗き込まれて、三途の川の案内人かなとかさっき一瞬思ってごめんと謝りたくなった・・・。


「大丈夫!なんでもないよ」


そうか?と私の顔色を伺いながら手を握り直すと、元よりもさらにゆっくり歩いてくれた。



少し歩くと、自然以外何もないと思っていたけれど、四方を土壁っぽい塀に囲まれたかなり広そうな村に着いた。


門のところに門番ぽい人が2人立っていて、カザミを見ると


「おかえり、そちらさんが例の?」


とちょっと強面で逞しそうな門番さんが声を掛けてきた。


「ああ、これから巫女と爺に挨拶にいってくる」


カザミと知り合いらしい門番さんは頷いて、こちらに視線を向けてくる。


「別世界とは聞いていたが、変わった服装だなぁ」


まじまじと不思議そうに見てくる。


私からするとみんなの方が変わってるんだけど、私の制服のせいかかなり浮いてる気がする。


「でも中々べっぴんさんじゃん」


その門番さんの肩口から、もう1人の門番さんが覗き込みながら茶化す様に言う。

こっちは少しタレ目で細マッチョぽい門番さんだ。


なんかめっちゃ見られてる。

そういえばさっきマレビトが常世に流れ着くのはすごく稀なことだってカザミが言ってたけど、そのせい?


「彼女が驚いてるだろ。あまりジロジロ見るのは失礼だぞ」


とカザミが彼らの視線を遮る様に私の前に立つ。


「わりぃわりぃ」

悪気はなかったと言う様に一歩下がって、道を開けてくれた。


行こうか、と手を引かれたので、とりあえず門番2人に会釈だけして門をくぐった。


その瞬間、足元からなにかふわりと風が吹いて全身を包みこまれたような感じがした。


「?」


思わず足元を見たが、特に何もない。

一瞬だったから気のせいだったような気もする。

首を傾げながらも、先導してくれるカザミに大人しく付いて行った。


門からほぼ真っ直ぐ行くと大通りのような開けた場所に出た。

出店みたいな店がたくさん並んでいて人で賑わっている。


彼がそばを通ると若い女の子たちが「カザミ様よ…」なんて呟いているのが聞こえてきた。

そしてその後ろに付いて歩く私を興味津々で見てくる。


他の人も彼が通ると視線を向けてくる。

確かに長身で白の羽織を揺らしながら悠々と歩く様は目をひくけど。

カザミが目立つ、という理由だけではなさそうだ。


もしかしてすごい権力者だったり?

だから私を迎えに来たとか?


周りの視線を気にも止めず、飄々としている彼を見るとその考えがあながち間違いではなさそうだと思ってしまう。


自分を見上げる私の視線に気づいたのか、カザミが安心させるように柔らかく微笑む。

イケメンスマイルにつられて、にこりと笑顔のようなものを返して、考えるのを放棄することにした。



そのまま道なりに進んで行くと、朱色の大きな鳥居とその奥に神社っぽい建物が見えてきた。


「あそこだよ」


そう言うと迷いなく鳥居をくぐり抜け、神社への階段を上がる。


ご神木並みの太くて立派な木々に囲まれた奥の建物前に女の人が立っていた。


近づいて行くと


「お待ちしておりました」


と涼やかな声で私たちに会釈する。

服装を見ると上は白地、下は朱色の袴を着ている。

後ろで結った長い髪は、つやつやだ。

身長も歳も私とあまり変わらなさそうで、可愛らしい日本人形の様な顔をしている。


「こちらへどうぞ」

中へと案内してくれる彼女がどうやら巫女らしい。


屋敷の奥に通されると、座敷の奥にいかにも「お爺様」と呼ばれそうな男性が1人座っていた。


「生きている間に、神に選ばれし乙女に会えるとはなんたる幸運か」


ほほほ、と好々爺っぽく笑って座るように勧められたので、用意された座布団に座る。


「カザミや、よく連れてきてくれたね。ありがとう」


「爺の頼みなら断れないよ」


カザミが好々爺に軽く笑って返す。

結構親しそうな雰囲気だ。


「お嬢さんや、疲れてはいないかの?

この国について説明しようかと思うんじゃがどうかの?」


巫女さんが出してくれたお茶をすすっていると、好々爺が提案してくれる。

この状況を全く理解出来ていなかったので、その申し出はすごく有り難い。


「お願いします!」


意気込んで頷くとほほほと笑われた。



「まず、わしはこの村の長をやっておる、黄鳴キナリという。

キナリと気軽に呼んでおくれ」


「キナリさん。あ、私は…」


名乗ってくれたので、じゃあこっちもと思ったら止められる。


「ああ、よいよい。この国ではお嬢さんの名前は真名じゃからの。

容易く教えてはならんよ。特におなごは婚約する男にしか真名は教えてはならん」


「えっ?でも、さっきカザミには」


名乗っちゃったんだけど?


と横を見ると、カザミは意味深に目を細めた。


あ、その顔前にも見た気がする。


「ちょっと、あなたまさかこの子から真名を聞いたの!?」


キナリさんの横で控えていた巫女さんが信じられないと言わんばかりに声を荒げた。

カザミに飛びつきそうな剣幕の彼女をキナリさんがそっと制する。


「お嬢さんや、こやつに名を教えたのか?」


「は、はい。名前を聞かれたので」


ダメだったとは知らなかったよ!

てか真名ってなんだろう。


ふむ、とキナリさんは思案するように見事なあご髭を撫でると


「そなた、このお嬢さんが気に入ったのか?」


真剣な顔でカザミに問いかけた。

その視線を受けても動じることなくカザミは微笑む。


「勝手なことをしたが、後悔はしていない。彼女の相手として不足はないと思う」


静かに淀みなく言い切る。


「ふむ、そうか。覚悟はあるようじゃな。しかし、まさかそなたがなぁ」


なんだか面白そうにキナリさんが呟いて腕を組む。


その横で相変わらず彼を睨む巫女さん。


涼しい顔でその視線を流すカザミ。


全然状況がわからないんだけど、私どうなるの?


「そうカリカリするでないアオイ。まだ確定ではないんじゃ」


嗜めるようにキナリさんが横の巫女さんに声をかける。

アオイさんというらしい。


「カザミもお嬢さんの了承を得ずに真名を聞いたのは反省するんじゃぞ」


先程とは違い、少し叱るようにカザミに言葉をかける。


それに分かってる、とカザミが表情を引き締めて返した。


「さて、お嬢さんには知ってもらわんといかんことがたくさんある。

まずは、この国の在り方から説明しよう」


長くなりそうな雰囲気にちょっと怖じ気づきそうになりながら私はなんとか頷いた。










お読みいただきありがとうございます!

常世は楽園、理想郷をイメージしてます。

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