始まり
「・・・はあ、疲れた」
バイト終わりの第一声はそれだった。
家までの帰り道の途中にある堤防の柵に肘をついてうつむく。
学校終わりに急に入ったバイトをこなしたはいいが、ちょっと寝不足でぼうっとする。
今日は早朝から別のバイトが入っていたせいだ。
〜♪〜♪♪〜〜
夜道に響く携帯の着信音に制服のポケットから取り出して掛けてきた相手を確認せずに電話に出た。
こんな時間に掛けてくる相手は一人だけだ。
「もしもし、叔父さん?」
『ハナ、元気にしてるか?無理してないか?』
「心配しなくても大丈夫だよ。高校も楽しいし、バイト先の人達も良くしてくれてるから」
週一回くらいのペースで掛かってくる電話にいつも通り明るく返しておく。
「だからそんなに心配してしょっちゅう電話してこなくても大丈夫だよ!」
『・・・そうか、元気そうでよかった』
携帯越しに少し寂しそうに聞こえる声で叔父さんが安堵してるのがわかった。
「義叔母さんと智くんは元気?」
『ああ、相変わらずだよ。また時間がある時に顔を見せに来てくれ、ハナ』
「うん、またね叔父さん」
電話を切ってまた俯く。
川の水に映る月を眺めながら、これまでのことをふと思い出した。
それは突然のことだった。
小学四年生の時、両親が事故で亡くなった。
母方の叔父夫婦は子供に恵まれなかったため、私を引き取り面倒を見てくれた。
二人とも気のいい人でとても良くしてくれたが、私が中学二年になった時に智くんが生まれた。
ずっと子供が欲しかった二人はすごく幸せそうで私も嬉しかった。
だけど、それと同時にこのままではいけないと感じてしまった。
叔父夫婦のことが好きだったからこそ余計そう思ったのかもしれない。
志望校はバイトが出来る学校にして、高校からは一人暮らしがしたいと申し出た。
叔父夫婦はそんなことしなくていいと言ってくれたけど、どうにか説得して了承してもらい、高校に通う以外はバイト漬けの毎日が始まった。
大変だったけど別に辛くはなかった。
自分の事は自分でやっていこうと決めてからは全部が必要なことだとわかったし、まだまだ子供だから叔父さん達に心配をかけてしまうけど、居候しているよりは何倍も気が楽だった。
やりたい事もないし、とりあえずは一人で生きていけるようになりたかった。
唯一辛いことがあるとすれば、両親が死んでからはどこにいても誰といても無性に寂しくて、世界中で自分ただ一人取り残されたように時々感じることだ。
私のことを必要で、大切だと思ってくれる人はどこかにいるんだろうか。
はあ、とまた溜息をついて記憶を振り払うように頭を振って、帰ろうと顔を上げようとしてぐらりと視界が歪んだ。
とっさに柵に手をついたが、寝不足のせいか力が入らずズルリと滑った。
あっと思った瞬間、前に体が傾いて一瞬の浮遊感の後にばしゃりと水に落ちた。
不思議と川の水は冷たく感じなくて、体を包み込むみたいに柔らかかった。
もしかしたら疲れで頭がおかしくなったのかもしれない。
死にたいと思った訳じゃないのにこの状況にあまり慌てていなかった。
このまま流されれば両親に会えるんじゃないかとふと思った。
水中を踊るような無数の気泡に見惚れながら、少し疲れたなと、ただ目を閉じた。
初投稿です!
読んでくださった方ありがとうございます!!