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その4

 ごん、と突然の衝撃がパンデモニウムを揺るがす。同時にダーメファルカンのレーダーとリンクした情報網から、これまでにない数の攻撃が首都に撃ち込まれているのが確認できた。

 ミズホは即座に状況を理解する。


「首都諸共全てを消し飛ばすつもりか! 総員状況放棄! 全速力で離脱を!」


 指示が飛び、パンデモニウムに張り付いていた者たちや周囲に展開していた部隊は、泡を食って離脱を始める。


「全く正気かよ! いや最初から正気じゃなかったな!」


 機体を変形させ、真っ先に離脱を図るマクシミリアン。エストック隊やフランローゼ隊もそれに続く。

 降り注ぐミサイルの雨は、損傷を受けたパンデモニウムにも容赦なく降り注ぐ。先ほどまでとは比較にならない爆発の連打が世界を埋め尽くし、そして。

 パンデモニウムの動力である20基の疑似縮退炉が臨界を越え自壊し、全てのエネルギーを放出する。

 莫大な熱量、そして衝撃波を伴う破壊力が解放された。パンデモニウムは一瞬にして爆散し、全てを焼き尽くす煉獄の炎が大地を襲う。

 それは多数のミサイルの破壊力と合わさって半径15㎞に及び、全てを粉砕して溶解させた。アルコーリク首都は文字通り消し飛んだのだ。

 爆煙は、離脱しようとしていたリアルたちをも襲う。彼女らは一瞬にて煙に巻かれ、その姿を隠された。

 上空に待機しているダーメファルカンとエストック隊母艦。多くの人間が固唾を呑んで見守る中。

 まずガルーダMarkⅢが真っ先に爆煙から飛び出す。次いでエストック隊が、フランローゼ隊が続々爆煙を突っ切って現れた。

 最後にリアルのブリッツシュラークが姿を現したとき、歓声が沸き起こる。ブリッジ内のクルーが諸手を挙げて喜び騒ぎ、ミズホはうんうん頷いて、ルルディは疲労のあまり白目を剥いて口から魂を吐きながら失神していた。

 十分な安全圏へ到達した後、リアルは機体を留め、振り返った。盛大に吹き飛んだ首都を見下ろしつつ、彼女は呟く。


「その心持ちにはあまり同調できませんが……潔き良き散り際、お見事でしたわ」


 そう言って手本のような敬礼を魅せた。











 こうしてアルコーリク本星侵攻、その要である首都攻略戦は終わった。

 問題はその後である。何しろ首都が大統領とその側近ごと吹っ飛んでいるのだ。後の処理が大変どころではない。政治的に責任を取れるものが誰もおらず、国民に敗戦を知らしめるだけでも大仕事だ。

 おまけに当の国民が、洗脳の影響で未だ好戦的だと来ている。一応対抗技術で沈静化はできるが、そうすると今度は体調不良となり行動できなくなる。つまり事後の処理をさせる事は難しかった。最低でもしばらくの間、尻拭いは『侵略者』たちがやらなければならないだろう。

 つまり、すげえ手間であった。


「最後っ屁をかましてくれよったわ。我らが人道的支援とか何の冗談だ」


 トゥール王の愚痴である。普段なら他の国や勢力に事後を押しつけ、とっとと去るリマー軍であったが、今回は居残り戦後の処理に奔走していた。

 一応連合軍の中心であり、最大の戦力を引き連れていたため、労力が有り余っていたと言うこともある。また今回の決戦において無理矢理戦力を捻出していた勢力や国家も多く、とてもではないが事後の処理まで手が回らないと言った様子で、引き上げざるを得ないようであった。そこまでしてアルコーリクを潰さなければならないと危機感を抱いていた者が多く居た、と言うことだろう。

 まあとにかく、非常に珍しく後始末まですることとなったリマー王国である。彼らと共に残り力を貸しているのは、余力のあるところか『腹に一物抱えた連中』であった。


「流出した技術をかき集めるのに懸命なのが丸わかりですな」

「言ってやるな。こっそりやっているつもりなのだから。まあ売るもよし抱えて己が肥やしにするもよしのお宝だ。懸命にもなるさ」


 アルコーリクが生み出した技術。革新的なものではないが現在の技術にはまだ発展と応用の余地があると示したそれは、様々な勢力の欲をかき立てた。散逸したデータや現物を血眼になって収集している所もある。またすでに研究や開発を行っている勢力もあるだろう。

 もちろんリマー王国は、そう言った輩を放置していた。むしろ調子に乗って敵に回ってくれとすら思っている。自分から喧嘩をふっかける気はないが、売られたら安値で買う気満々だ。どうしたもんかなこの蛮族ども。


「そちらは放っておくとして、アルコーリクはどうするか。どこかの国に代官でも遣わすよう勧めてみるか」

「よろしいので? アルコーリクの抱える利権の一部を手にすれば、戦の採算が取れますが」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、レイングは問うた。

 案の定、王は鼻を鳴らして答える。


「ふん、別に人のところからかすめ取らねばならぬほど困窮しておらんわ。それにあの様子では、経済も無茶苦茶よ。利権を手に入れたところで、逆に大損となるのは目に見えておる」

「左様にございますか」


 王の読みは、ほぼ正確である。国民を洗脳し無茶に無茶を重ねていたアルコーリクの内情は酷いものだ。現在上がってきている報告だけでもそれは十分推察できた。そしてそんな所を支配するような人道的精神など、リマー王国は持ち合わせていない。

 立て直すだけでも一苦労だ。その点に関してはクレン共和国の方がまだマシだろう。曲がりなりにも政府機関が存在しているのだから。下には下がいるものだ。

 ともかくやることだけやったらリマーはさっさと手を引くつもりであった。やることができなくても面倒くさくなったら手を引く気満々である。リマーだけでなく星間交易連盟やグランシャリオ・ファウンデーションも同様だ。彼らは商売人。儲けが出るか損切りする必要がなければ基本的に手を出さない。そしてアルコーリクに関しては手を出し続ければ損をする一方だと判断された。

 彼らにとってアルコーリクが開発した技術はさほど魅力的には映らない。現在の技術の発展系であり、研究開発なら自分たちでできるものだ。そしてリマーにとっては『攻略法が分かっている技術』である。 つまらないとまでは言わないが改めて研究するほどのものでもなかった。むしろどこかが自分たちの知らないところで技術を発展させて、強敵として立ち塞がって欲しいまであるぞこいつら。


「それで、クラカーシ・ダアマの行く先は分からぬのだな?」

「は、見事なまでの雲隠れですな。あるいは経歴どころか姿形すら変わっているやも」

「やりかねんタイプではあるな。……まあよい。またなんぞやらかしてくれるというのであれば、()()()()()()()()()()()()()

「そういうとこだぞエクストリーム蛮族脳」


 この会話の通り、アルコーリクの黒幕とも言えるクラカーシは行方不明であった。一応リマーの方でも捜索はしたが、手がかり一つつかめない。本腰を入れれば話は違ったかも知れないが、その件に関しては王を筆頭にやる気が無い。理由は最早言うまでも無かった。

 こうして不穏の種はばらまかれる。人類圏の何割かを巻き込んだアルコーリクとの戦い。それより長く、それより陰湿で凄惨な戦乱が訪れると予想する者もいた。多分それは正しい。喜ぶのはリマーくらいだ。


「乱世は確定事項よ。我らが望むが望まざるがに関わらずな。であれば前向きな方が健全というものであろう。深刻になれば問題が解決できるというわけでもあるまい」

「前向きというか大喜びでしょうが。まあこちらといたしましてもブックメイクし(胴元張り)放題で大変結構なのですが」

「目くそ鼻くそを笑うという言葉を知っておるか?」


 結局レイングもリマーの人であった。まあそれはそれとして、リマーが手抜きをしなくとも遅かれ早かれ乱世は訪れる。それに対しどう動くか、各勢力の対応はまちまちであるが、のんびりと構えていればたちまち餌食となるだろう。アルコーリクとの闘いに関係したほとんどはそれを理解している。だから様々な形で備えは始まっていた。


「アルコーリクに加担したところは、さぞかし苦労していることだろうよ。勝ち馬に乗った気でいたら、一気に転落したのだからな。ここまで豪快に滅びるとは思っていなかったのではないか?」

「時流を読んだつもりがはしごを外されましたからな。すでに滅んだところもあるようで」

「諸行無常、か」


 そちらの方は供えどころではない。拠り所であったアルコーリクは滅び、洗脳技術も対策がとられ、一気に形勢は悪い方へと傾いた。

 いまでは一方的に狩り場となっているような有様だ。当然ながら現場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているが……自業自得と言わんばかりに、どこも手を差し伸べようとはしなかった。母星信仰教会ですらも、状況が落ち着いてからと考えているのが見え見えである。そしてしばらくは落ち着かない。滅ぶならまだマシで、下手をすれば延々と戦乱が続くところもあるだろう。

 このように、アルコーリクが生み出した傷は深々と跡を残した。それは後の世に大きな影響を与える。が、それはあくまで後の話だとトゥール王は判断していた。まあこいつらの場合後の話と書いて後のお楽しみと読むのかも知れないが、それはそれとして。


「ま、己が業だ。高い授業料であったと臍をかんで貰おうか。我らは悠々と備えさせて貰おうか。……そういえば、『祝勝会』の準備はどうか」

「は、滞りなく。参加予定の勢力には全て案内状を送っております」

「左様か。まあ忙しいところも多い。全員勢揃いというわけには行くまい。……それに腹に一物抱えている輩もいるだろうよ。一波乱あるやも知れんな」


 どこかウキウキした様子で言う王。今回の戦いの祝勝と慰労を兼ねたパーティを、盛大に催すことが計画されていた。少々時間は経っていたが、状況が少し落ち着いた頃を見計らってのことだ。

 まあ、腹の探り合いくらいは当然あるだろう。連合を組んでいたと言っても、全ての勢力が友好的といわけではない。どっちかと言えば呉越同舟といった関係もある。何か起こってもおかしくはない。

 レイングは、すました顔で告げた。


「すでに誰かがやらかすかどうかでブックメイクされております。ちなみに私はやらかす方に」

「お前ホント人のこと言えた義理じゃないからな?」











そろそろ〆にはいるかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] エピローグの筈なのに、プロローグ読んでる様な感覚が……。
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