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その4






 クレン軍艦隊群、その多くが動揺していた。

 現れた艦隊は中規模。しかしその全てが1㎞を超える大型艦ばかりである。数こそ多いが足の速い巡洋艦クラスを中心に編成された小規模艦隊ばかりの軍勢では、まともに当たれば各個撃破されるだけだ。

 軍隊とは名ばかりの烏合の衆である。即座に連携を取ろうとしてとれるものではないし、現れた艦隊の威容に多くの士官が尻込みしていた。

 しかし、僅かながらまとも(?)な軍人もいる。


「あの艦隊と合流させるな! ぶつけてでも目標を止めるぞ!」


 カーネと同規模の艦隊を率いていた、中年の士官がそう命じる。

 任務に忠実、というか果たさなければろくでもないことになるのが分かっているからだ。恐らくは貴族士官同士で責任のなすりつけ合いから始まり、派閥同士の暗闘が酷くなっていって、最終的には一般の士官や兵(自分)たちが迷惑を被ることになる。ならば無茶でも目的を果たせるよう動いた方がマシだった。

 同じようなことを考えたのか、いくつかの艦隊が前に出る。しかしやはり連携しようとはしない。下手に連携してまとめて指揮を執ったりしたら、後で責任を押しつけられたり手柄を横取りされたりするのが目に見えていた。そういうのは御免被ると皆が思っているからこういう事になる。

 そのあたりはやはりクレン軍であった。結局のところ、どいつもこいつも五十歩百歩でろくでもない。

 その様子をレーダー越しに見ているのは、現れた巨大艦のブリッジに配されている全員と。


「やれやれ、軍隊としてまともに機能しておらんではないか。情報以上の堕落ぶりよ」


 指揮官の席に座するその男の襟首には、准将の階級章。艦隊の規模からすれば少々不釣り合いにも思える。

 男は唇の端を歪めた笑みを浮かべ、命を下す。


「全艦、ダーメファルカンの離脱を援護せよ。少々()()()()()()()


 シュタインヘーガーの武装が展開する。通常の戦艦よりも倍以上の巨体である、【殲滅艦デモリッショナー】とカテゴライズされたこの艦は、その巨体に見合った過剰なまでの火力を有する。

 古くさい大艦巨砲主義から生まれた代物……と言うわけではない。殲滅艦の基本コンセプトは、『敵陣に突っ込みありったけの火砲をぶちまけて離脱する』という、半ば特攻兵器じみた頭おかしいものだ。そんな無茶を実現させるべく、必要な火力と防御力と機動力を積み込んだら巨体になったという、大艦巨砲主義から生まれた方がまだしもマシだった産物である。

 そんな馬鹿げたものがなぜ生まれたのかはさておくとして、ともかく火力は十分すぎるものであった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどには。

 一斉射。それはダーメファルカンに最も接近していた艦隊に襲いかかる。

 そして。


「き、機関部付近の外殻装甲が損傷! いえ、フレームまで露出しています! 戦闘の続行は不可能と判断し、撤退を具申します!」

「ば、かな。なんという火力! 一撃でこれほどだと!? それにあの位置から当ててくるとは!」


 DAなどとは比較にならない攻撃力。いや、通常の艦艇ではこれほどの火力は望めない。そしてまだ相当の距離があるのに命中させる性能。図体がでかいだけではない驚異だと、クレン軍士官たちは戦慄を覚える。

 一方。


「……目標の艦艇、後退していきます。機関部付近に極至近弾を食らったようで」

「ほう? かすったのか。こちらの精度が高かったのか、それとも向こうの回避力が予想を下回っていたかもな」


 オペレーターの報告を聞いて、男――准将は軽く眉を動かす。彼の目算としては、命中させない程度の至近距離に打ち込み、相手を警戒させる程度で良かったのだが。

 まあ良い、目算とは違ったが結果は似たようなものだと切り替え、話題を変える。


「換装した新型の主砲はどうか」

「は、問題なく機能し、異常は見受けられません。威力も想定通りに」

「よろしい。主砲はクールダウンの後、次弾砲撃の用意を調えて待機。次からは副砲で対処する」


 シュタインヘイガーに搭載されている主砲は最新式のもの。【同軸連装砲バインドバレル】と名付けられたそれは、大口径のレールキャノンと熱エネルギー系で最大の威力を持つ【反陽子対消滅熱線砲バニシングブラスター】を束ねて一体化したものだ。

 レールキャノンを放ち、それとほぼ同一の弾道で熱線砲を放つ。DA戦闘のセオリーである『物理攻撃でバリアの防御を緩め、その後本命の強力な攻撃を叩き込む』を単体で行うための兵器だ。

 威力はご覧の通り一撃で巡洋艦を戦闘不能に追い込むほどのものだが、構造が複雑であり整備性は劣悪。その上反動が強力で、それこそ殲滅艦のような大型艦艇でなければ運用できないという欠点があった。

 ロールアウトしたばかりで試射と訓練程度しかこなしていないこの武装の実戦データを、リマー軍の開発部門は欲していた。ゆえについでとばかりに使用してみたわけだ。そしてたまたまではあるが、この一射で精度と威力は確かめられた。後は状況に応じた使い分けと使い勝手が分かれば上々と言ったところだろう。


(まあそれまでに事は片付きそうだがな)


 この様子ではまともに戦闘になりそうにない。折角()()()()()()()()()()()()()()()というのにやりがいのないことだと、少しつまらなく感じる准将であった。

 そうこうしているうちに、ダーメファルカンがランデブーポイントに近づく。准将は回線を開かせた。


「ご無事で何よりですなあ姫様」


 コクピット内からの映像。戦闘待機のままであるリアルがにっこり笑って応えた。


「ええ。まさか貴方が迎えに来るとは思いませんでしたわ。【黒曜遊撃艦隊オブシディアンイレギュラーズフリート】指令、【カブル・ロックバイト】准将閣下」


 にい、と准将――カブルは野太く笑んでみせる。


「なに、丁度()()()でしたのでな。我らがお迎えに上がるのが一番手っ取り早かったと言うことです」

「なるほど。……それではエスコートをよろしくお願いしますわ」

「お任せあれ。つつがなく本星まで送り届けましょうぞ」


 そう話している間にも黒塗りの艦隊はクレン軍に牽制砲撃を続け艦隊を寄せ付けない。一撃で艦に戦闘不能となるダメージを与えるような相手を前に臆したのだ。彼らがほぞをかんで見守る中、ダーメファルカンは悠々と黒曜遊撃艦隊と合流する。


「よし、状況終了。全艦離脱するぞ。順次超光速航法に移れ」


 カブルが命じ、艦隊は方向を転換して加速を開始する。それを確認した一部の士官が疑問を持った。


「あのまま超光速に持って行くのか。しかしリマー星系に向かうのであれば方向が違うはずだが?」


 艦隊が向かう方向は全く見当違いと言ってもいい。超光速に至るまでに進路を転換するのかとも思われたが、その様子もなく次々と姿を消していく。大型艦のみの艦隊とは思えないほど動きが速く手際の良い撤収であった。

 こうして、リアル王女の脱出劇は幕を閉じた。クレン王国軍は彼女を取り逃がすという大失態をやらかしたことになる。実質的な被害は巡洋艦2隻と比較的少ないように思われるが、多くの艦艇を出して総出で捜索に当たっていながら一方的に被害を受け任務を果たせなかった。この事実は揺るがない。

 もちろん軍部も政府も蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。当然の流れのように責任のなすりつけ合いが始まり、見苦しい諍いが方々で生じて、やらなければならない対策が後手後手に回されていく。

 そして――











 カーネが意識を取り戻したのは、艦内医務施設の治療カプセルの中であった。


(ここは……私は一体……)

「中佐! 気がつかれましたか!」


 軍医の声に状況を把握する。自分はまともに戦うことも出来ずに敗北したのだと。

 見通しが甘かった、などというレベルではない。だれがあんな非常識な戦い方をするキチ(ピー)の存在なんぞ想像するか。存在自体が卑怯としか言い様がない。

 カーネはそれなりに優秀である。だがあくまでクレン王国軍の中で、の話だ。だから世の中には()()()()()()()()()()()()()()()()がエースとしてはびこっている事実を知らなかった。

 そして、あんな非常識と相対しながらもなお、()()()()()()()()()


(おのれ……たかだか()()()()()()()で……屈辱……これ以上ない屈辱……っ!)


 己が敗北したのは相手の運が良く、己の運が悪かったのだと信じて疑わない。そもそも自分をぶちのめしたのがリアル本人だとは思っていなかった。あんな非常識が王女であって堪るかと。


(おんのれぇリアル・ド・リマー! そして紅い機体のパイロット! 必ず……必ずやこの屈辱、晴らしてくれくれるわあああああ!!)


 ごぼがべごぼがべごぼがべごぼがべごぼぼ。


「け、血圧の数値とかが異常に上昇!? 中佐!? 中佐ぁ!?」


 こうしてなんか因縁が出来た。この因縁が一体どういう結果を生むのかは定かではないが、ただ一つ言えることがある。

 アレと絡むのはやめておいた方が良いんじゃないかな~って思うんだがどーよ。











 次回予告


 リアル:さ、そういうわけで1話が終わったわけですけれども。

 ヤーティェ:いやないわ~。秒速数十㎞で殴りかかるとかないわ~。

 ルルディ:え? なになんなのなんでアタシここにいるの。

 リアル:亜光速戦闘とか出来る世界観で何を今更。

 ヤーティェ:そじゃなくて、お姫様がやることじゃなくない?

 ルルディ:ちょっとあんたら、無視してないで説明しろ説明。

 リアル:その辺の事情、なんでわたくしのような人間が生まれたのか。次回で説明されると思いますわ。

 ヤーティェ:なるほど次回予告をしろと言うことだね。ではでは。


 リアルの帰還。それを迎えるリマー王国。その思惑、そして戦争に踏み切ろうとしている理由はいかなるものなのか。

 そして希代の戦姫、リアルが誕生したその経緯とは。

 次回、『思惑と理由。リマーさんちの家庭の事情』

 焔の薔薇は戦場に華吹く。


 ルルディ:だから説明をしろ説明をぉ!!











 反陽子対消滅熱線砲、似非バスターランチャー。強い。(挨拶)

 初めての人もそうでない人もよろしゅうに緋松です。


 思いつきから妙に筆が乗って連載を始めて見ましたが、この作品ちょっと実験的な要素もあります。構成とか細切れ投稿とか。それらに関してご意見がございましたらどしどし書き込んでください。今後の参考にいたしますのでぜひ。

 なおこの作品は、オカルトとかの設定が全くない純粋なSF作品となっております。科学考証とか全く適当でいい加減ですがSFです。いいね? その辺も実験的と言えば実験的ですね。純粋なSF風味でどこまで書けるのかという。余裕があれば設定とかも作りたいです。余裕が欲しいけどあったらあったでだらだらするに違いないですが。(ダメじゃん)


 とまあ今回はこの辺りで。続きましたら今後もよろしくお願いします。

 エンディングテーマ、和楽器ロックバンドで【焔】。


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[一言] 指先でちょんとつついたらひでぶしちゃったんだよ 脆いねぇ~ アレをちょんとつつく言うなぁ~ なんてのがアタマに浮かんだよ
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