その3
要塞は次々と墜とされ、潜んでいた敵艦隊には打撃艦隊群が襲いかかる。
「連携は取れているようだし手練れもいる! 各機油断するなよ!」
「了解!」
「アイサー! 喰らうぜ!」
「張り切ってお仕事といきましょうか!」
先陣を切るのはレイヴンズ。ブリッツシュラークを駆り敵艦隊に殴り込む。
対する敵艦隊はアルコーリクに加担する国家群の物。寄せ集めであるが、例の技術を応用し統率は取れているようだ。強襲に対してペースを崩すことなく迎撃を行う。
生じるのは激戦だ。リマー軍は難なく凌いでいるが、それ以外は敵も味方も相応の損害を出しながらぶつかっていく。
「敵を引きつけろ! 損害を受けた者は早々に後退し、場合によっては撤退も許可する! 消耗戦に付き合う必要は無い!」
カブルが指示を下す。洗脳技術により思考がコントロールされている敵兵は、ほぼ死兵と言っても過言ではない。まともに当たれば磨り潰されていくだけだ。そしてカブルも自軍以外の者に無茶をさせる気などない。
損害を無視するのであればリマー軍だけでもこの戦いを乗り切ることはできるだろう。しかし政治はそれを許さない。大義名分の旗の下に、他の勢力にもおいしいところを吸わさねばならないのだ。
リマー王国が政治なんて物を考えているのかと思われるかも知れないが、そうでなければ連合など組まないし、そもそも国家としてやっていけない。どんだけ蛮族に見えても、ちゃんとやることはやっている。まあそれはそれとして、派手に火花を散らす戦いは続く。
「しつこいが歯ごたえがねえ! こいつはクッソ面倒くさい戦いだぜ!」
レイヴンズ隊員の一人が、敵機を両断しながら吐き捨てる。洗脳された兵たちは己の死を厭わないほどになるが、それで技量が向上するわけではない。レイヴンズを筆頭とするリマー軍兵士にとっては苦戦するほどのものではなかった。だが引くという選択を取れない死兵はしぶとく、辟易するほど纏わり付いてくる。
こう言った連中とはこの2年でそれなりに交戦してきたが、今回のような規模で戦うのは初めてだ。決戦と言うこともあって連合側も撤退という選択をそう容易く取ることはできない。泥沼になるのも当然と言えた。
「まあ、ただの兵ならばいくら来たところで問題は無いが、な」
敵の斬撃をすりぬけ背後から撃墜しながら、レイヴンズの隊長は眉を顰める。初っぱなから超兵器を持ち出してきたアルコーリクであるが、あれで終わるとは思えなかったからだ。
湾曲レーザー要塞だけでもかなりの金がかかっているはずだが、上層部リマー相手ではそれほど保たないと理解しているだろう。であれば『次がある』。これはリマーの兵に共通する、確信に近い予想であった。
果たしてそれは、的中する。
「軌道要塞は全て沈黙。 各所より救難信号が発せられています」
「予定より随分早いな。仕方があるまい、次の手を打つ」
落ち着き払って指示を下すアルコーリクの司令官。完全に予想範囲内だったのか、あるいは洗脳の影響なのか。司令部全体に動揺した様子はない。
そこからの指示で、『次なる手』が動き出す。
ぶぅん、とカメラアイに不気味な明かりが灯った。
「……! 敵艦隊より機動兵器らしき反応多数! 戦艦並みの高出力です!」
「DAではないのか? またろくでもない代物かも知れんな」
アルコーリク艦隊の後方に控えていた輸送艦。そこから切り離された『何か』が、高速で連合艦隊に向かう。
それは4本の腕を伸ばし、四方に向けて攻撃を放ち始めた。
「戦闘機? いや、非人型の機動兵器か! アナクロなものを!」
さて、よくある論争に、『人型兵器より戦闘機の方が強くコスパも良い』というものがある。当然の話だ。技術的に同レベルであれば航空機の方が圧倒的に制作しやすくコストもかからない。
ではなぜこの世界では人型攻撃機の方が主流なのか。筆者の趣味……というのはもちろんあるがそれは置いといて。一つは反応速度。神経接続と言う技術の都合上、人の形をした物がもっとも反応速度が速い。下手をすれば亜光速という域で戦わなければならないこの時代では、僅かな速度差が優劣を分ける。ゆえに反応速度に秀でた人型が採用されていったという経緯があった。
もう一つが『戦術の変化』である。宇宙空間、惑星によって変化する環境。この時代では既存の兵科、兵器では対応しきれない部分が多々ある。航空機は航空機の働きしかできない。汎用性、適応力というものが求められる昨今の戦場においては、役者不足と言わざるを得なかった。
人型攻撃機が主流になったのは『安くて強い』からではない。『人と同じようにあらゆる環境下で使える』からである。
そして、人型攻撃機に主流が移る過程で、航空機と人型の中間的な特性を持つ機動兵器がいくつか存在していた。性能としては人型より優れている部分も多々あったが、汎用性という点では劣り、廃れていった物だ。
そんな時代遅れの代物を今更出す。多くは手が尽きてきたかと嘲るような様子であったが、リマーの兵は違う。
「今更こんな物を出すのであれば、何かある」
そのように見るのだ。
警戒心が増す中、件の兵器は最大加速で連合艦隊に襲いかかる。大きさ的には小型艦程度。円錐形の機体の四方から腕が生えた形だ。
それは空間振動推進器を唸らせ、先端にシールドを展開し最大加速で連合艦隊に突っ込んで来た。
当然、大した時間もかけずに亜光速域へと達する。その前にリマー艦隊は反応していた。
「シールドの出力を上げろ! 全方位だ!」
指示が飛び、瞬時にバリアシールドの出力が上げられる。それとほぼ同時に、敵艦隊の砲撃が、突撃するコースに合わせて撃ち込まれてきた。
「砲火同軸突撃! それをやるためにあんな物をこさえるか!」
リマー軍のエースが得手とする、頭おかしい戦術。それを再現するために、突撃『のみ』に特化した兵器を作ったらしい。しかもどうやらそれだけではないようで。
一瞬の後、その機動兵器は連合艦隊を突き抜ける。あるものは装備したビーム剣で斬りつけ、あるものは側面から後方に向けて重火器を撃ち込む。いずれも共通しているのは、『亜光速域で正確な狙いをつけている』。と言うところだ。そういうのはリアルを筆頭としたトップクラスの人形遣いにしかできない。
「洗脳ってのは、腕利きの乗り手も量産できるってのか」
「……いや、おそらくパイロットを直結している。場合によっては複数だ。後先考えないにもほどがあるな」
レイヴンズの隊長がからくりを即座に見抜いた。彼の指摘通り、かの機動兵器はパイロットを生体制御ユニットとして複数人、機体に接続して運用される物だった。反応速度から何から通常のDAより上だが、もちろん人道的見地からも法的にも禁じ手であり、発覚すればただではすまない。
色々な物を度外視して作られた非人道的な兵器。アルコーリクは完全に後のことを考えていない……と言うのが大方の見方であったが。
「ふん、クラカーシとやらか大統領か。爪痕を残す気満々よな」
トゥール王は、彼らの意図を正確に見出している。
「どういうことで?」
あえて周囲に『聞かせる』ためにレイングが問う。
「有用だが非人道的な兵器。目の当たりにすればその技術を手に入れようとする者は出てくるだろうよ。一つや二つはこっそり鹵獲し研究しようとするところがあるわ」
危険な兵器の技術を広める目的があると、王は言う。この先の戦乱の時代を見据え、力を欲する勢力は多いだろう。有効そうな兵器に『見える』のであれば、手を出す者もいる。あんな物を投入したのはそれが目的だと、王は断言した。
「『外道を増やし混乱を広げる』。そのためよあれは。そしてあれで終わりではなかろうさ。……艦隊直衛についている全DA部隊に通達。適度に潰せ」
ある程度手を抜いて他勢力に鹵獲させろ、そう語外に乗せて言う。自国の兵があのような物に苦戦するとは微塵も思っていない。そして他国がアホな真似をして非人道な兵器を入手し、研究開発しようが構わないとも思っているようだ。戦乱大歓迎な王にとっては強敵が増えるのはむしろ望ましいのだろう。
もっともリマー軍にとっては実際さほど脅威となるものではないのだが。
「見えてるんだよォ!」
ブリッツシュラークを駆るエースの一人が、反転し再度突撃を敢行してきた機体に、すれ違いざまカノーネシューヴェルトの一撃を食らわせる。
「わざわざ飛び込んでくるぞ。各機、ありったけ浴びせてやれ!」
突撃してくるところを包囲し、集中砲火を浴びせる部隊。
リマー軍を標的にした特殊機動兵器は、至極あっさりと撃破されていく。他の所はわりと苦戦している様子だが。
この戦いを制するためではない、一手。それが指されたのはこの場だけではない。
当然のごとく、先行した突入艦隊の前にも現れる存在がある。
「……リア・リスト……今度こそ汚名を挽回させてもらう」
暗がりの中、獣のような笑みを浮かべる者があった。
出オチなMAもどき……の片隅でこっそりロボが主力な理由




