その2
何の前触れもなく、静かなる砲撃が艦隊を襲う。
「一部の艦に損傷! 大出力のレーザー砲撃のようです!」
「側面だと!? 要塞以外からの砲撃か!? 位置の特定を急げ!」
リマー艦隊以外の者たちは慌てた。まるで予想外からの砲撃。要塞ばかりに気を取られ伏兵を見逃したかと臍をかむ。
そんな中、トゥール王は落ち着いていた。
「狼狽えるな。艦隊を散開させ乱数加速。外縁部の艦に側面シールドの出力を上げさせろ。恐らくはこの機に乗じて『来る』。索敵を怠るな」
冷静に指示を下す。要塞砲並みの砲撃を放つ代物が、そう簡単に隠し通せるはずがない。であれば何か種がある。そしてそれを有効利用する策を持っているはずだ。王はそう睨んだ。
そしてそれは的中した。
「四方に熱源反応多数! 伏兵のようです!」
「ステルスモードにした艦隊を待機させていたか。恐らくさっきのヤツで支援砲撃が来るな。各艦、足を止めるな。狙い撃ちにされるぞ」
待ち伏せ。船籍を確認すれば、アルコーリクに加担している国家の艦が多数を占めるようだ。露払いを押しつけられたか功を焦ったか。ともかく本命ではないが足止めされるのは鬱陶しい。特に突入艦隊は時間を取られたくはない。
取るべき手段は強行突破だ。リマー艦隊は迷わずそれを選択する。
「支援砲撃を行っている存在を無視するのですか!? 要塞砲並みの威力ですよ!?」
友好国艦隊の指揮官の一人がそのような問いを投げかける。確かにそのようなものがあれば、無視するのは背後を突いてくれと言っているような物だが。
トゥール王は不敵に笑んだままだ。
「索敵の結果を見たか? あれだけの砲撃だ、それを放つ存在があるとすれば隠し通すことなどできん。だが推定される位置には何の痕跡もない。となれば」
歯をむき出す笑みは、獣じみて見えた。
「あれは【湾曲レーザー砲】であろうよ。コスパが悪すぎてどこも採用せなんだが、国を潰す勢いの輩だ。金に糸目を付けなかったのだろうさ」
あっさりと手品の種を明かす。湾曲レーザー砲。読んで字のごとく『曲がるレーザー砲』である。発射口に空間制御機構を取り付け指向性を持つ空間の歪みを発生させる。それを通して放たれたレーザー光線は、大きく弧を描く軌道を取るようになるのだ。
これに加え惑星の重力などを利用し、敵軍は予想外の方向から砲撃をたたき込めるようにした。要塞砲が四方から襲い来るのである。厄介どころではすまない。が、当然ながら欠点が存在した。
まず機構が大きくなりすぎる。何しろ殲滅艦クラスの大型艦艇にすら搭載できないほどに巨大なのだ。しかもそれは艦載砲級の威力で、である。要塞砲クラスになればどれほどのものになるか、想像に難くない。
次に燃費が悪い。実用的な威力で運用しようとすれば、同等のレーザー砲の10倍近い電力を消費する。コストパフォーマンスが悪いどころではなかった。これに比べれば要所に何らかの偏向機構を用意し、レーザーを反射および偏向するようにした方がまだ安上がりだった。(それも実戦向けではないが)
結局、これを要塞砲で運用しようとすれば、この砲以外には何もないくらいの物となるだろう。どうやらアルコーリクはそれをやったらしいと、トゥール王は見て取った。
この国王、戦場に在ると途端に知性が跳ね上がるようだ。普段馬鹿な言動を取っているのも本性であろうが、この姿も間違いなく本性である。普段からやっとけという周囲の視線はガン無視だ。
それはさておき、敵のからくりを看破したのはいいが、それをどう攻略するつもりなのか。そんな視線が刺さる中、王は言う。
「恐らくは要塞の機能を補うため、十重二十重と戦力が待ち構えているであろうさ。正面から打ち破ってやっても良いが……それではこちらも損耗するし、芸が無い」
獣の笑みが、深まる。
「ここは一つ、カードを切るとするか」
超級重要塞艦コンティネント級。リマー王族が戦場に赴く際、座艦として使用する為に建造された物で、艦と言うよりはもうほとんど移動基地、いや都市と言える。実際ネームシップである一番艦コンティネントは、リマー本星の衛星軌道上で『首都』として機能しているのだが、まあそれは良い。
ともかくやたらとでかくて多機能。この艦を墜とすのに一国の艦隊が丸ごと必要だと言われるほどの物だが、その性能については公表されておらず、憶測だけが飛び交っていた。
今、その一端が明かされる。
「ゴンドワナの正面を開けろ。一発でかいのをぶちかます」
艦隊の中央に穴が空く。ゴンドワナ正面の空間から、艦が退避したのだ。艦の中央、そのやや下部寄りの部分に、放電を纏った直径20メートルほどの穴……いや『砲口』があった。
重要塞艦の巨体を利用した、大口径大出力レールガン。口径15メートル、全長数㎞にも及ぶそれの弾頭は、プレッシングドライブを備えたものだ。つまり、弾速が光速を超える。
通常艦艇は星系内で超光速航行は使わない。外宇宙に比べ星間物質やデブリの密度が高く、危険だからだ。だが弾頭であれば危険もへったくれも無いし、たかだか直径15メートル程度では障害物と接触する可能性はゼロに近い。接触したところでまた撃てば良いだけの話であるし。問題は馬鹿みたいに巨大な設備が必要と言うことだが、無駄にでかいコンティネント級がその問題をクリアさせていた。まあ本来は艦に搭載するようなものではないが。
それはさておき、本来は惑星に直接砲撃を食らわせるための代物だ。しかしリマー軍の趣味嗜好によりこれまで使われることはなかった。試射以外で初めて使われると言うことで、関係各所はウッキウキである。いまにもヒャッハーとか言い出しかねない様子で準備を整えていた。
超光速レールガン、通称【ステラバスター】。史上最強のおもちゃは、ついに日の目を見ることとなった。
「開幕の花火だ。派手にぶちかましてやれ」
王の命の下、長大な砲が放たれる。
アルコーリク軍の要塞砲――マンベレ砲とは違い、派手な火花と轟音をまき散らしてステラバスターは吠えた。弾頭は砲口から飛び出すと同時に外殻をパージ。先端にシールドを展開し加速しつつプレッシングドライブを作動。超光速域に入った。
さて、アルコーリクの惑星軌道要塞であるが、トゥール王の推察したとおり大出力湾曲レーザー砲以外の設備はほとんど無かった。小惑星規模の要塞であれば普通に備えている対空武装や防御機構なども全く無いのだ。それを補うために強力な武装やシールド機構を持つ艦を配置し、要塞の機能を補っている。
非常に無駄な構成であるが、状況に応じて艦の配置を変えることで防御や攻撃の戦術に幅を持たせられるという利点があった。コスト面から考えると割に合わないが。
ともかく通常の要塞と同じように、シールドを展開し防御する態勢は整っていた。そしてそれは確かに機能する。
ステラバスターの砲弾。超光速域で飛来する物だが、弾速自体は亜光速までしか達しない。空間の性質が変わるだけで物理法則を超越するものではないからだ。が、亜光速まで達すれば、その威力は十二分以上。
再度言うが、展開された艦艇による重複シールドは確かに機能した。盛大に粉砕されながらも、亜光速の砲弾の威力を減退させることに成功する。
何しろ貫通し全壊するところを、大穴開けられて致命傷ですんだのだから。
その戦果がすぐに分かるわけではない。だがリマー軍の動きは速かった。
「次弾装填。次の目標に照準を合わせろ」
「10分いただきたい。よろしいですな?」
「良きに計らえ」
相手の反応を待つまでもなく、次の標的を狙う。当たれば致命傷だと確信があるのだろう。流石に砲身の冷却や各種チェックやらで、矢継ぎ早に砲撃、と言うわけにはいかなかったが、それでも敵要塞の湾曲レーザー砲よりも間隔が短い。
しかしこれは本来の使い方ではない。惑星を直接攻撃する物だから、アルコーリク本星を狙えばいいのではないか、という意見が他国からは出る。
その問いに対し、トゥール王は当然のように答えた。
「これで直接本星を狙うときは、後先考えずにその国を滅ぼしてしまわねばならないと判断されたときのみよ。まだあの国からは吸い上げねばならない物があるであろう? 手弁当の持ち出し損はしたくあるまい」
それに、と牙をむき出す笑みで続ける王。
「何より華がない。首謀者は壮絶な戦いの末討ち取られなければ、胸もすかぬというものよ」
恐らくは向こうもそれを望んでいるとまでは言わぬ。ある程度アルコーリク大統領の胸の内を察している王はそれなりに理解しているが、まともな人間が同様の理解と納得をするとは思えない。ゆえに胸の内にしまう。
ともかく、要塞の無力化は目処が立った。残りも一つ一つ同じように潰されていくだろう。
攻めに転じる時間だ。
三つに分かたれた艦隊の一つ。主力艦隊でもない、突入艦隊でもない、最後の一つ。
その中核となっているのは――
「陛下も良い見せ場を下された。総員に告げる! 埒が明けたぞ、花道を派手に罷り通れ!」
指揮を執るのはカブル・ロックバイト『大将』。2年のうちに手柄を立て続けた後、今回の戦で一群を担うため抜擢され昇進していた。
当然直接指揮を執るのは黒曜遊撃艦隊。それを中核とした打撃艦隊群。アルコーリク星系を護る軍勢を、横合いから殴りつけるための戦力。
それは要塞の支援を失った敵軍に対し、一斉に襲いかかった。
超兵器には超兵器で殴り返す頭いい蛮族ムーブ。




