その1
「……ゆえに今こそ、我らは横暴なるリマーの軍勢に立ち向かわねばならないのだ! 国民よ、この苦難を乗り切り真なる自由を得るために、力を貸して欲しい!」
街角のモニターから、スピーカーから、大統領の演説が流れている。それに聴き入る国民たちは圧倒的な熱狂を持って戦いに挑まんとしていた。
富国を目指し勢力を拡大し続けてきた自国に攻め入る悪魔のような敵国。アルコーリクの民衆たち目線で、リマーはそう捉えられていた。あながち間違いではない。それはさておき現状がおかしいと訴える者はいた。数少ない特殊技術が通用しない人間たちだ。
当然そんな人間はサンプリングのためクラカーシの元へ送られていた。帰ってこないか帰ってきてもなんかおかしな事になっているかの二択だったので、何時しかまともな人間は口を噤み、密やかに生きるようになった。
クラカーシがアルコーリクから離れ『人狩り』の可能性はなくなったが、そんなことが一般の人間に分かるはずもない。結果ブレーキ役はどこにも居なくなった。アルコーリクは大統領の下、一丸となって暴走し続ける。
それが破滅への道だとは気づかずに。
リマー率いる軍勢は、アルコーリク星系の周囲三方から侵攻を開始した。
普通なら相手より戦力が少ない状態で分散させるのは愚策である。しかし。
「惑星の公転軌道上に配置されている要塞。あれがくさい」
事前にもたらされた情報と勘によって、配置されている要塞に超兵器が備えられていると判断したリマー軍の采配で、このような戦術がとられた。リマー軍だけなら大概の罠とかは踏み潰すが、今回は連合軍だ。全軍を纏めて危険にさらすような真似はできなかった。
要塞はアルコーリク星系に7つある惑星のうち、本星より外部にある3つの惑星の公転軌道上に、最低一つは配置されていた。本星に向かおうとすれば必ず通過しなければならない空域を索敵範囲とし、即応出来る戦力を駐留させているようだ。現在では援軍という形で引きずり込んだ他勢力の軍の拠点となっている。
そういった所だから何か仕込むにはうってつけだ。十中八九超兵器とやらが配備されているだろう。金に糸目を付けずにやらかしたのだから、全ての要塞が同様だと考えていい。
避けて通る、と言う手もある。推進剤を必要としない推進機関が発達している現在でも、星系の惑星軌道に合わせて『平面』での軌道を取るのは、「それが一番早いから」である。例えば星系の周囲で重力バランスが安定しているのは、恒星の両天頂(独楽でいう軸の両端)の先なのだが、そこから星系内に『落ちる』のは結構な距離を必要とする。それならば星系外縁部から侵入した方が短い距離ですむ。
ともかく星系に対して平面の軌道を取るのは距離的な問題だけで、やろうと思えば要塞を回避することは可能であった。しかしリマー軍はその方策を良しとしない。
「回避して背後を突かれるのは事だからな。超兵器とやらがどのような物か詳細が分からぬ以上、一当てして皮を剥いでおかねばならん」
トゥール王はそう主張した。戦わぬ事を選択するよりも戦った方が後の脅威を排除できるだろうと。
実際はどんなおもしろ兵器が出てくるかわくわくしているだけなのだが、無駄に説得力があるので質が悪い。
そういった事情で、戦力を分け要塞を攻略する組とその他の戦力を掃討する組を構成し本星に突入する組で侵攻することになったのだ。遠足に出かけるぞ。
もちろん突入組の最先鋒には例のアレが居座っている。
「いよいよですわね。滾りますわ」
満面の不敵な笑みで言うのはリアル。すでにコクピット内で待機しており、今や遅しと出番を待ち構えていた。
彼女らフランローゼ隊を含む突入艦隊は、分かたれた戦力の中では最も少ない。惑星に強襲降下できる艦が少ないという事情もあるし、大艦隊では機動性(足)が鈍る。ましてや最先鋒ともなれば相応の技量を持ったものでなければ務まらない。結果選りすぐりのエース級ばかりが集められ、少数精鋭となるのは当然の結果であった。
そこには運命にたぐり寄せられたかのごとく、歴戦の強者たちが集っている。
「やはり縁は異なもの味なものと言う通りよな。まさか直接の共闘とは」
くつくつと笑うのは、仮面の男ノットノウ。彼もまた自身の部隊と共に突入艦隊に加えられていた。
早速見覚えのある艦を目敏く見つけてご満悦である。ここに至るまでは彼女と関わる機会はなかった。最高の舞台で共闘とは運命とやらも良い仕事をする。そのような気持ちを抱いている。
「であれば無様な真似は見せられんな。精々派手に魅せようか」
ノットノウはこれまでに無い上機嫌であった。そして彼を有する蒼の軍勢であるが。
「同じ最先鋒でも、随分と扱いが違うものだ」
仮面の司令官も機嫌が良さそうだ。クレンと比較してかなりの好待遇だからであろうか。
「向こうと違って金回りは本当に良いようです。弾切れを心配しなくていい戦場は実によろしい」
サングラスをかけた副官もご満悦だ。そりゃクレンと比較すれば大概の所は待遇が良いだろう。ましてやリマーは戦い続けるために国家運営しているような輩である。気持ちよく戦い続けられるような配慮はして当然であった。
「さてここから本丸まで無事たどり着けるか。腕の見せ所だな」
「何が仕掛けてあるやら。要塞砲とか分かり易いものであればいいのですが」
足の速い艦を揃えたとは言え艦隊は艦隊。ある程度侵攻の速度は制限される。そこをつかれる可能性を彼らは考えていた。
だが怖じ気づく者など誰一人としていない。
この艦隊に参加している多くが傭兵であった。そして待遇がいい上に任務達成時の報酬も桁違いと来ている。命を賭けるだけの価値が、彼らにとってはあった。もちろん危険な作戦に選抜されたからには粒ぞろいだ。
その中には当然この男がいる。
「また随分と派手な舞台を用意してくれたもんだ。やりがいがありすぎるぜ」
自機のコクピットでくつくつと笑うのは、マクシミリアン・ウィンチェスター。堅実に戦果を積み上げた彼もまた、この艦隊に配置されていた。
どちらかといえば戦いに楽しみを見出すタイプであるが、どっかのお姫さんほど過度に狂っているわけでもない。適度に浮かれて、適度に戦々恐々としている。なんとも面倒くさい性格だと自分でも思うが、性分は簡単には変えられない。
「ともあれ任されたのであれば給料分の仕事はしますかね」
ポジティブに考える。生き抜けば莫大な報酬が約束されていた。活躍すればさらに倍だ。しばらくは遊んで暮らせる。ならばスコアアタックも悪くない。
「精々稼がせて貰うぜ」
そんな彼と契約しているインパチェンス・カンパニーもまた、艦ごと突入艦隊に編制されている。
「強襲揚陸艦なんてものを持ってたのが運の尽きってヤツさね。やれやれ、面倒な仕事を押しつけられたモンさ」
荒くれどもと共に参陣したヴィクトリカは苦笑する。 適度においしいところをつまみ食いとしゃれ込んでいたら目を付けられ突入艦隊に引きずり込まれた。その抜け目のなさが評価されたらしい。実にありがた迷惑であった。
拒否しようと思えばできたが、報酬は魅力的だ。金に釣られてこのざまであった。結局は自業自得だと自嘲するヴィクトリカ。
「まあいいさ。折角だから派手に楽しむとしようじゃないか」
「なんだかんだいって姐さん乗り気っすよね」
手下が茶化す。それにはこう答えてやった。
「姐さんじゃなくて社長って呼べっつーの。まあそれはそれとして人生楽しまなきゃ損だろ。お祭りは盛り上げるだけ盛り上げるモンさね」
獰猛に笑む。こうなれば開き直って楽しむだけだ。それに手柄を立てれば報酬も上がるし、リマー以外の国家にも顔を覚えて貰うのは今後の役に立つ。面倒ではあるがチャンスでもあるのだ。奮起するのは悪いことではない。そう開き直る。
傭兵たちは大なり小なり似たような物だ。そもそもこんな無茶に選抜されたのだ、肝の据わり具合が違う。正しく命がけであるが、彼らは臆することなく死地に飛び込もうとしていた。
アルコーリク星系外縁部惑星軌道要塞。そこでは迎撃の用意が着々と進んでいた。
「来たな傲慢な侵略者どもめ。……総員! 直ちに迎撃態勢に移れ! 【マンベレ砲】スタンバイ、奴らの度肝を抜いてやるぞ!」
要塞の司令官が指示を飛ばす。それに応えて要塞のスタッフはシステムを立ち上げる。
お約束のように備えられた巨大な要塞砲。それが起動し唸りを上げ始めた。
マンベレ砲と名付けられたそれは、侵攻してくるどの艦隊群にも向けられていない。当然ながらどんな光学兵器であっても弾速自体は高速を越えないので、長距離を撃とうとすれば照準は大幅にずれる。ましてや移動中の艦隊などを狙うとしたら、全く別の方向に砲口が向いてもおかしくはない。
それを差し引いても、その要塞砲は見当違いの方向を向いているとしか思えなかった。流石に真後ろというわけではないが、普通の光学兵器であればまず当たらない方向だ。
普通の光学兵器であれば。
「敵艦隊、予測軌道上に到達します!」
「よし、マンベレ砲照射開始!」
「マンベレ砲照射開始!」
あらぬ方向を向いた巨大な砲が集光し始める。大出力の自由電子レーザー砲。状況によっては大型艦船のバリアをも穿つ代物だ。
それは大きさに似合わぬ静けさの中、密やかに放たれた。
ルビコンで盛大に脳を焼かれている最中につき、投稿が遅れております。
申し訳ない。




