その3
「我々も参戦しろ、と?」
「そうだ。アルコーリクを中核とした勢力を鎮めなければ、治安の維持は難しいと我々は判断した。銀河の流通が滞るようでは商売あがったり、と言うことさ」
星間交易連盟のテリトリーを治安維持のため奔走していた蒼の軍勢。彼らにアルコーリク攻略への参加が指示されたのは、本格的な開戦から1年が経とうとしていた頃であった。
仮面の司令官は、ふむと顎に手を当てる。
「それは確かに。しかしよろしいので? 我々が赴くと言うことは治安維持に回せる戦力が減ると言うことですが」
「その分は傭兵を雇ってカバーする。働き口を与えることで彼らの犯罪者化を防ぐと同時に、監視する意味合いもある。社会貢献という口実もできるしな」
「左様で。……であれば戦力を集結し、再編成を行わねばなりませんな。それと引き継ぎの時間を考えれば、一月ほどで準備が整うかと」
「詳細は任せる。頼んだぞ」
「は、お任せを」
通信が切られ、司令官は苦笑の気配を纏う。
「やれやれ、お気楽自堕落に海賊掃除というわけには行かなくなったようだ」
「リマーが時間をかけて攻略しているのが徒となった形ですな。まあ彼らにとっては願ったりと言ったところでしょうが」
鬼の居ぬ間、と言うわけではないが、これまでリマーに散々食い散らかされてきた海賊や犯罪組織が活発化し、動き回っていた。リマーという国、あれで治安の維持に一役買っていたらしい。
もっともリマーとしては後のお楽しみが増えてるだけなのだが。犯罪組織や海賊がおやつ感覚である。短い我が世の春というわけだ。
ともかく蒼の軍勢はアルコーリク攻略に参加することとなった。それを聞いたノットノウは仮面の下で苦笑する。
「縁は異なものと言うが……またかの姫君とくつわを並べることになるとはな」
あれほどの人間と鎬を削れないのは惜しいと思う。リアルほど戦いに狂っているわけではないが、こんな稼業をやっている身分だ、普通の人間とは感覚が違う。
我知らず、などと名乗っているこの男、過去の経歴は全て抹消されており、人前では絶対にマスクを外さない。まあ蒼の軍勢は指揮官からして経歴不明であんなんで、構成員は大概過去になんかあって身分を捨てた連中だ。どいつもこいつも訳ありである。
こんな稼業をやめても行くところなど無い。いや、傭兵などやれることはあるが、今とさほど変わりはしないだろう。結局は同じ事だ。人生捨て鉢になるほどではないが、積極的に夢や希望や野望を抱くほどでもない。
己の先行き我知らず。ノットノウなどと名乗っているのはそういう意味合いであった。まあ格好付けである。実際の所人生ケセラセラを地で行ってるだけだったりするのだが。
それはさておき、精神的に自堕落なノットノウであるが、仕事は真面目であるし、それなりの働きを見せる。そして強敵と相対するのを楽しむ変態性もとい人間性もあった。むしろそんなお楽しみがあるからこんな稼業やってるという部分が大きいのだろう。結局ろくでなしであるこの男。
「まあ、せめてあの姫様に匹敵する大物がいるのを期待したいところだな」
望みは薄いだろうがと呟きつつ、くつくつと笑い声を漏らす。
彼の望みは予想外の形で叶えられることになる。
さらにその3ヶ月後。
「あ~、やっぱ元を絶たないとこっちに流出するのが止められないかあ」
「リマーはわざと放置しているのでしょうな。将来的な爆弾が増えるのは望むところでしょうから」
言葉を交わすのは狐面の男とその側近。自分たちの販路を維持するため積極的に治安維持に努めていた男であったが、最近は戦地から逃れてきたものが流れ着き、色々とトラブルが増えてきている。
難民となるのはまだ良いが、犯罪者や海賊組織などが流れ込みやらかすのはいただけない。対処はしてきたが、きりが無い。
結局男は、アルコーリク攻略へ助力し、戦争をできるだけ早く終わらせるのが一番手っ取り早いと判断したのであった。
「分かってたことだけど……気が進まないなあ」
「こういう物は少しでも関わるとずるずると深みにはまっていくものですから。お気持ちは分かります」
しかし、と側近はシェードサングラスを指で押し上げる。
「ここで介入しておかねば、我々の商売に響いてくるのは確実。連盟も介入を始めたそうですし、乗っておくのは悪く無い手かと」
「将来的には連盟への加入も考えている身からすれば、逆に介入しないのはいい目で見られない、か。そりゃそうだよねえ」
いずれにせよ介入しておいた方が良さそうだと、狐面は肩を落とす。気は進まないが仕方が無いと理解できるからだ。
「とはいえ僕らの打てる手はそんなに無い。資金援助とインパチェンス・カンパニーを差し向ける程度か」
「何もせぬよりは幾分マシかと。それに……」
側近はにやりと笑みを浮かべた。
「混乱している領域は、財の回収もはかどることでしょう」
「なるほど。それは確かに我々にも利がある」
こいつら火事場泥棒じみたことやる気満々だった。這々の体で混乱から脱したり、戦の影響で困窮した連中から財を安く買いたたくつもりらしい。そのうち刺されるんじゃなかろうか。
ともかく、関わるつもりのなかった狐面だったが、結局手を出すことになってしまったようだ。戦の影響が銀河に広がっていると言うことである。最早誰もが無関係ではいられない。
こうしてまた一つ運命の糸がつながった。より合わさっていく糸は一体どこへと向かって紡がれるのか。
まあろくでもない方向なのは間違いない。
で、参戦を命じられたインパチェンス・カンパニーの方はと言うと。
「正直めんどい」
「「「「「ですよね~」」」」」
ヴィクトリカ以下社員たちはやる気が無かった。
「そりゃアタシも鉄火場は好きだよ? けど好きなときにおいしいところをつまみ食いするのが良いのであって、延々と泥臭いぐだぐだな戦いがやりたいわけじゃないんだよ」
気持ちは分かるが傭兵としては最悪な部類の発言である。まあろくでなしの集団だ、このくらいは可愛いものなのかも知れなかったが。
ともかく全体的に気乗りしていない。ぬるま湯に浸かったような自堕落な生活が存外気に入っていたのか、激戦が予想されるアルコーリクとの戦いに及び腰であった。
「……とはいえオーナー様のご命令だ。ボーナスも弾むって事だし、征くしかなかろうねえ」
「そりゃだすもんだしてくれるんなら、そんなに文句もありゃしませんが」
「星間交易連盟も蒼の軍勢出してるっしょ? オーナーさんとしちゃうちくらいは出しておかないと立場作れないっつーことじゃねえですかね」
気乗りはしない、が断れない懸案だと言うことも理解している。所詮自分たちは契約社員のようなもの。言うことを聞かなきゃ首を切られるだけだ。ああ哀しき社畜よと嘆きつつ仕事をこなすしかない。
もちろん例外は居るが。
「いい感じの鉄火場じゃないか。こういうのでいいんだよこういうので」
マクシミリアン・ウィンチェスター。インパチェンス・カンパニーに雇われたこの傭兵は、話を聞いて楽しそうな表情を浮かべる。
さすがはリアルと渡り合った傭兵だ。頭がおかしい否心構えが違う。
「『弱い者いじめ』には飽き飽きしてた所だ。丁度おあつらえの戦場さ。腕が鳴るねえ」
まあ彼からすれば大概の人間は弱い部類に入る。治安維持など性に合わないどころではなかった。まあそもそもがアルコーリクに便乗し他国に攻め入った軍隊に雇われていた男だ。元々ろくでなしである。
「しかし流石に主戦場には回してもらえないだろうがな。精々死に物狂いの中に、珠玉が混じっていることを期待するさ」
雇い主、そしてインパチェンス・カンパニーそのものも胡散臭い事この上ない。そんな連中がまともなところに配されるはずもなかった。狐面の思惑としてはアルコーリク攻略に手助けした実績が欲しいだけなので、別にそれでも構わないのだろう。マクシミリアンにとっては少々物足りなくはあったが、贅沢を言える身分ではないと言うことは重々承知している。与えられた状況の中で楽しみを見出すしかないと、彼は割り切っていた。
なお、後に最終決戦に巻き込まれることを、彼は知るよしもなかった。
強者が、続々と集まり始めた。
銀河を巻き込む決戦。その日は着々と近づいている。
盛り上がってまいりました




