その2
本格的なリマーの参戦。それは戦況を一変させた……とはいかない。
今回のリマーは実に慎重であった。戦力をあまり分散させず、補給路を確保しながら確実に攻略を行っていく。戦力的には確実に押し返しているが、一見劇的な変化とは見えなかった。
もちろん相手が強敵だったというのもある。本気でアルコーリクに加担しているところは、クレンよりもよほど気合いが入っていた。リマー以外の国だけでは、敗退していただろう。以前であればわざと窮地を演出し兵を鍛えていたリマーであるが、今回はそのような様子も見せない。
奇抜なことをせず、実にオーソドックスな戦術をもって攻め込んでいる。安全マージンを取った上でだ。知ってる人が見たら「え? 別の国?」とか思われそうなレベルである。実際そのように思った人間は一人や二人じゃなかった。
逆にそれほどのことをすると言うことは、よほどの危機感を抱いている。そう見る者たちもいた。あの蛮族が真面目にやる。これはよほどの事態だと。事実それは半分あたりだ。アルコーリクはクレンのような阿呆ではない。狂ってはいるが。
もう半分はアルコーリクを追い込んで手の内をさらけ出させるため、である。何しろ相手は自滅覚悟の狂人に率いられた連中。ろくでもない手段に打って出る可能性は十分にあった。そうでなくとも追い込まれれば人間何をするか分からない物だ。手札を切らせるなら早いうちの方がいい。ゆえに確実な攻略を行い、戦況を優位に保ったまま事を進めようとしているのだ。
リマーは国王が直接陣頭指揮を執り、挑む大戦。これまでに無い堅実な戦略は――
長期化を意味していた。
超級重要塞艦コンティネント級 2番艦【ゴンドワナ】。今回の戦いで旗艦となったそれには、もちろんトゥール王が乗っている。
「そうそう奇天烈な手に訴え出る者はおらんか」
玉座で肘をつき、鼻を鳴らす。
国をディシヴに任せ戦場まで出張ってきたはいいが、堅実な戦いに少々飽きてきたようだ。半年以上も耐えたのだから、長持ちした方なのかも知れないが。
そう、リマーが本格的に参戦してから、すでに半年が経過している。その間に様々なドラマが……特になかった。
実際戦場や返り討ちに遭った国などでは色々あったのかも知れないが、トゥール王からすればそんなものは『当たり前のこと』であって、ことさら目を引くものではない。他人の悲劇に胸を痛めるようなタイプではないのだ。
とは言ってもここで派手なことをやらかすわけにはいかない。本命たるアルコーリクはまだ先。余計な警戒心を持たせるつもりはなかったし、普通に攻略してじわじわと追い詰めた方がプレッシャーになるだろう。ここは我慢のしどころだと、妙な自制心を発揮している王だったが。
「いいな~、リアルはいいな~。最前線楽しそうだな~」
いきなりおもしろおじさんにグレードダウンして、だだをこね出す。いつも通り側に控えているレイングは、始まったよと呆れた心境だ。
(予想通りでしたが……さて、賭けの配当はどうなっていましたかな)
それはそれとして主君をネタに賭けをしてたらしい。いつも通りだった。
このように王は暇を持て余している。厳密には仕事してるが飽きてきている。次は何時仕事ほっぽり出して抜け出すかで賭けが始まっているらしい。何でこの王国破綻しないのだろうか。
実に平常運転な王と周囲。彼らと比して前線はどうなっているのかと言うと――
「しぶといだけで、歯ごたえがありませんわね」
大剣で迫り来る敵機をガンガンぶっ飛ばしながら、リアルが言う。
便乗しただけの連中とは違い、本腰を入れているところは流石に気合いの入りが違った。しかし気合いの入りが違うからといって技量が向上するわけではない。リアルにとって相対してる敵は、『気合いは入っているが大した腕はない』と言う評価になる。
普通にリアルに吹っ飛ばされても食い下がるという時点で大概おかしいが、その辺は全く考慮に入ってない。
「機体のダメージを最小限に抑えることもできない、損傷率が3割を超えても後退しない。……洗脳ですわね、これ」
食い下がる理由がまともな精神状態じゃないからと言うことを、リアルは見抜いた。間違いなく例の洗脳手段によって、使える程度に正気を無くしている。兵士を死兵と化しているようだ。
このように兵を消耗品として扱っているようでは、リアルには届かない。ただのしぶとい有象無象では、生きることと戦うことを謳歌し己を鍛え上げ続けている女傑に毛ほどの傷も負わせることはかなわなかった。
「蒼の軍勢の男、ガルーダを駆っていた傭兵。そのくらいのレベルの人間は、中々いないものね」
かつての強敵を思い返す。技量、精神共にあれほどの逸材は中々いなかった。そうそういてたまるかというレベルであり、リアルの望みは贅沢この上ないことなのだが。
ため息を一つ。そしてリアルは気持ちを切り替えた。
「フランローゼ1より各機、攻勢に出ますわよ。敵艦隊の中央に斬り込む」
「「「「「了解!」」」」」
敵艦隊に攻め入る。十重二十重と居並ぶ敵を一気に抜くつもりのようだ。通常なら無謀だが、止める人間も咎める人間もいない。
精々。
「……まーたやってるよ」
ダーメファルカンのブリッジの端っこで、ルルディが呆れた顔で呟くくらいである。
加速。ブリッツシュラークのスラスターが吠える。その加速は比較的軽量の強襲型であるヴァルキュリアと比べても劣るものではない。
敵陣へ一気に肉薄。前衛のDA部隊に対し、長大な剣を振るう。超振動を発するブレードは。居並ぶ敵機にダメージを与え吹き飛ばす。だが撃破にまでは至っていない。速度とケチ楽事を優先してリアルが手を抜いたからだ。
吹き飛ばされた敵機は中破しつつも何とか体勢を立て直し、追いすがろうとする。しかし紅き機体に続いた1機のヴァルキュリアが、両腕の獲物を振るい、容赦なくコクピットを射貫いた。
「邪魔ですよ有象無象」
「……お見事」
「うわあ侍女長ガチだぁ」
眼鏡をぎぬらんと光らせてリアルの後を追うシャラ……といつも通りのレンにドン引きしているヴィイ。さらにフランローゼ隊の面子が続く。
自然とパンツァーカイルの陣形となり、敵を蹴散らせていく。突破させじと敵DA部隊が押し寄せてきた。
「なぎ払いますわよ!」
がきり、と大剣の刀身が二つに割れる。現れるのは大出力のビーム発信器。偏向器となっているらしい刀身の内側が、青白く放電した。
閃光が宙を裂く。ごんぶとのビームを放出する大剣を、リアルのブリッツシュラークは縦に横に振り抜いた。
吹っ飛ぶ敵機。極太のビームはバリアごしでも大破せしめるほどのダメージを与えている。
【カノーネシューヴェルト】。超振動剣とビームカノンを組み合わせた武装だ。名前の通りそのまんまである。射撃武器と格闘武器を一体化させたら切り替えなくて楽やん? と開発陣が考えたのかどうかは知らないが、リアルの場合どちらかというと大出力のビームソードとして用いているようだ。
立ち塞がっていた敵機を蹴散らし、リアルは艦隊に迫る。無数の砲火やミサイルの類いが雨霰と降り注ぐが、それらを躱し受け流し弾き飛ばして、リアルは突き進んだ。
先鋒の艦に速度を落とさず突っ込む。深々と剣が突き刺さり、展開したビーム砲が閃光を放つ。
内部を穿ったビームは大打撃を与え、リアルは離脱。そして足を止めた敵艦に、フランローゼ隊が次々と攻撃を叩き込む。
程なくその艦は轟沈。それを背後に次なる艦へと向かおうとするリアルであったが。
「……後退していく? なるほど、敵もただの猪というわけではなさそうですわね」
旗艦を含めた主力が下がり、残りが殿となってこちらを押しとどめる腹だと、リアルは見て取った。
「ただ闇雲に洗脳技術を用いて力押しをするのではなく、機を見て主力を温存する戦略眼もある。……なるほど、ロックバイト閣下が言っていたとおり『歯ごたえ』はありそうね」
後退する主力を追うことはできた。しかしリアルはそれをしない。
追い込むだけ追い込み、引き出せるものを引き出させるというのがリマーの方針だ。そして個人的にも期待するものがある。
「ふふ、わたくしを満足させてくれるような人間が、出てきてくれるかしら?」
追い込まれた勢力から、死に物狂いで這い上がり自分の前に立ち塞がるほどの力を得て、相対する。そう言ったことを期待していた。
もっとも可能性は低いと考えている。そうそう特異な人間など出てくるわけもない。これは言ってみれば一種の『ギャンブル』だ。蠱毒の壺を作りそこから強力な毒虫を生み出すような、もしかしたらという程度の物でしかない。
まあそれは彼女個人の思惑だったが、国の意向に沿っているのだ、誰も問題にはしないだろう。ともかくこうして敵は見逃される。
手間をかけた逆侵攻は、じっくりと料理を仕上げていくように進む。
その結果、リマーの軍勢がアルコーリク星系に到達するまで、2年という歳月を必要とすることになる。
巻き入って時間飛ぶ




