その1
アルコーリクに対する反撃は、まず便乗して侵略を始めた国家から始まった。
複数の国家群が集って一つの国をボコる。言ってみればこれの繰り返しだ。こう言った数の暴力が振るえるのが連合の強みである。しかもケツ持ちがリマー。そりゃ調子にも乗ろうというものである。
ボコられた国家はよってたかって賠償金やなんやでかっばがれていく。なんかリマーが感染ってしまったのか、結構皆容赦が無かった。まあいきなり喧嘩売られて酷い目に遭ったという恨みもあるだろうが。
そのような感じで一つ一つ便乗勢力を叩き潰していく。そっちの方は順調であった。
問題はアルコーリクに本気で加担しているところである。
洗脳技術を提供され、それを駆使して国民を戦争へと駆り立てる。もちろん様々な打算の末アルコーリクに加担したそれらの国家は、それなりの準備を整えて事に挑んでいた。つまりそこそこ手強い。
まだ完全に進撃の体制が整っていない今、そう言った輩には黒曜遊撃艦隊を差し向けるしかなかった。さしもの彼らといえど即座に全て平らげるとは行かず、一つ一つ攻略していくしかない。
「歯ごたえがあって大変結構!」
カブルなどは上機嫌でそう豪語していたが、彼らとて人間だ。疲労もすれば消耗もする。加えて以前からリマーの友好国を支援しており連戦に次ぐ連戦だ。その負担は無視できるものではなかった。
自然と攻勢は消極的に抑えられ、戦線は停滞する。その間にも事態は動く。
「海賊が増えたか。当然よな」
トゥール王の元に届いた報告、そこには辺境周辺の治安の悪化に伴い海賊行為が増加しているという事実が記されていた。
反アルコーリク勢力も、混乱に巻き込まれた全ての勢力に手を差し伸べているわけではない。基本はリマーとその友好国周辺で、それ以上は政治的にも物理的にも助力することは難しかった。
ゆえにそちらの方は放置せざるを得なかったのだが、それを好機とみた海賊や何やらが活動を活発化させているようだ。リマーが手を出してこないのならば恐れるものは何もないとでも思っているのだろうか。
まあリマーの場合は肥え太らせてあとで喰う、とか考えてそうだ。調子に乗っていられるのは今のうちである。それに。
「独自に自衛のための戦力を回している者たちも居るな」
「は、大方はそこいらを縄張りにしている商人たちが雇い入れたり抱え込んだりしている戦力ですが、気になるのが一つ」
レイングの言葉に、王は眉を動かす。
「ほう? 何者か」
「新興の古物商のようですな。恐らくは己の商売範囲を護るためでしょうが……傭兵を上手く使い、実に効率よく海賊を仕留めておるようで。一流の戦術家のようにも思えまする」
「この時期に頭角を現すか。……ふむ、クレンから脱した者あたりであろうな」
「存外件の王子かも知れませんな。ともかくそやつのおかげで一部の領域では被害が抑えられているようです」
「後に一つの勢力となり得るかも知れん、か。覚えておこう。……して、軍の編成はどうか」
本題に入る。レイングはホログラムの資料を手に単眼鏡を押し上げた。
「間もなく全軍の準備が整います。出陣は予定通り1週間後になりますな。全て問題ございません」
「よろしい。恐らくクレンを超える長丁場になる。十分に備えるよう言い含めよ」
リマーは今度の戦に全戦力の3分の2を投入する。一度にこれだけの戦力を持ち出すのは、戦闘狂の彼らからしても前代未聞であった。
そして、今まではさほど被害を受けていないリマーであったが、今回ばかりはそう簡単にいかないという予測がある。
「例の技術で兵は全て死兵となりうる。我らとしても無傷というわけにはいくまい」
トゥール王が鼻を鳴らす。参謀本部が予測したのは、リマー王国という国にとってこれまでに無い懸念だった。兵を鍛えるためにわざと演出したものではない、本物の苦戦。それが兵士たち、ひいては軍にどのような影響を与えるか。最悪の場合戦線が崩壊する可能性すらあると示唆されていた。
楽しむことだけを考えているわけにはいかなくなった。それを理解していても王は笑みを崩さない。
「だが良い経験となろう。そして乗り越えられれば、我が国の兵はより強者となる。覇道など目指すつもりはないが、これからの時代を乗り切るには必要だろうさ」
クラカーシが行方をくらまし地下に潜った、と言う情報は掴んでいる。恐らくはアルコーリクでやっていたことに見切りを付け、次なる企みを画策しているのだろう。つまりはまた今回のようなことが起こる可能性があると言うことだ。そしてその場合、今回よりも酷いことになるかも知れない。同じ轍を踏むような甘い人間ではないはずだ、クラカーシ・ダアマという狂人は。
そして彼が今後世界に影響を与えるであろう事は容易に予想できる。その技術を欲する者は多いだろうし、それを利用して事を為そうとする人間もまた多いだろうから。
備えなければならない。今回のこと『程度』乗り切りその先を征く。リマーにとっても勝負所であると王は判断していた。ゆえに全力を尽くす。
「厚生労働大臣と省の幹部を招聘させよ。それと軍のカウンセラーもだ。精神的なケアとサポートの用意が必要となろう」
「御意に。場合によっては国外から専門家を引き抜く必要もありましょうが」
「任せる。我が国の気風にあうような人間を頼むぞ」
「心得て」
これまでさほど気をつかうことのなかった兵の精神状態を考慮に入れた判断。これだけでも今までとは全く違う意気込みがあると見て取れる。
本気だった。これ以上無い本気だった。もう相手がかわいそうになるくらい本気である。これだから頭の良い蛮族は。
お遊びのなくなったリマー(お遊びじゃないのに全力で遊ぶとかもうわかんねえなこれ)という最悪の具現。万全の体制を整えて大戦に挑む彼らに対し、覇道に見せかけた滅びの道をひた走るアルコーリク。
銀河戦国時代の幕を開ける激突は、眼前に迫っていた。
一週間の時を経て、編成を終えたリマー軍は発つ。
当然だがその中にはリアルの姿があった。
「黒曜遊撃艦隊は一度帰還の後休養。その後我々の『取りこぼし』を対処する任務に就くとのことです」
「妥当なところね。あの方々は働き過ぎでしてよ。少しは休養を取って貰わないと」
どの口が言うのか。あの口だろうな。恐らくあの姫様の心の中にはビル単位で棚があるに違いない。そんなたわいのないことを考えながらルルディは作業を続けていた。
彼女とてリアルに突っ込んでばかりではない。仕事に集中することもある。今は敵側の情報を整理している最中であった。
全戦力を敵側と比較すれば、こちらの方が若干下回る。しかし相手側の半分は便乗してきただけの有象無象だ。事実リマーがてこ入れしただけで蹴散らされている。残り半分のガチっている連中はそう簡単にいくまいが。
一つ一つを攻略していくのは手間だが、野心に目のくらんだ連中だ、中途半端なことをすれば背後を突かれる危険性がある。確実に無力化しておいた方が安全だろう。『リマー以外』はそう考えているようだが。
(そのあたり考え方が違ってそうよね)
心の中でため息。リマー以外の国は良くも悪くも『普通の国家』だ。戦争という『損』をすればその補填を考えもしよう。どこから補填するか? それはもう打ち倒した相手からだろう。経済的にも無力化するという言い訳も立つ。事実そんな流れができあがっている。
その結果……潜在的な火種が増える。そしてリマーはそれが分かっていて放置するはずだ。戦乱の時代の到来を予測し、ルルディはげんなりとする。
それはそれとして、アルコーリクの潜在戦力についての情報が少ない。表向きの戦力についてはほぼ特定できているが、リマーの上層部はまだ奥の手があると予想していた。例の洗脳技術が流布しているおかげで、アルコーリクの本性に諜報員は送り込めない。対抗技術ができてから送り込むのは困難だろう。情報は限定的な物にならざるを得なかった。
できればそれについての情報も集めておきたかったが……アルコーリク関係で流出している情報はどうもわざとらしい。恐らくは攪乱されている。そこから真実を探り当てるのは少々骨だ。分かったときには決戦だって展開もあり得る。諜報員としての経験と勘が、そのような判断を導いた。
(ま、だったら手ェ出さなきゃ良いだけの話よね。特に命じられてるわけでもないんだから。やるんだったら状況を見てからでも構わないでしょ)
そしてあっさりと懸念材料を投げ捨てた。リマーなら何とかなる、いやなんとかするという確信めいた予感がある。なんだかんだで彼女も染まってきているようであった。
その判断が彼女にとって吉と出るか凶と出るか、今はまだ分からない。
リマーにとっては? どっちでも楽しむに決まってるじゃない。
不穏な空気をいい空気として吸ってるのはリマーだけ




