その4
アルコーリク。マッドサイエンティストの餌食となり、狂乱のるつぼに叩き込まれた国家は、熱狂を持って周辺国家に侵略を続けていた。
「ふむ、リマーの動きが速いな」
「はっ、クレンとの戦争を終えたばかりだというのに、友好国へ軍事支援を積極的に行っております」
報告を聞いた大統領は、うっすらと笑む。彼の口車とクラカーシの残した技術によって乗せられた国民たちは、後先考えずに侵略を続け富国強兵を目指しているつもりになっている。実際のところは薄氷の上で砂上の楼閣だ。だが大統領にとってはそれで良かった。
彼がどれほどの苦難を背負って生きてきたか、彼がどれほどの憎悪を抱いているか、それは語るまい。彼はただ己の生まれ育った国を心底憎み、そして滅ぼすためだけに大統領になった。それはクラカーシの助力による部分も多いが、彼自身も相応のカリスマと指導力を持っていたからこそここまで成り上がれた。それが正しく生かされれば、こうはならなかったかも知れない。
だが賽は投げられた。もう後戻りはできないし止められない。
「彼らが最大の障害になるか。だが正攻法ではかなうまい。制圧した国家から徴兵を始めろ。戦力を整える」
「はっ!」
単に滅びたいのであれば、リマーと正面からぶつかり合えば良い。しかしそれでは面白くないと大統領は思っていた。
彼が望むのは地獄だ。己の国を滅ぼし、数多の国を巻き込む地獄。そのために長く戦いを続けたい。いや、どうせ自分はそう長くない。己が死んだ後も戦いが続くほどの『傷痕』、それを残す。
そのためにはリマーすらも利用して見せよう。 彼は嫌な方向でガンギマっていた。
「それで、『例のもの』の開発状況はどうか」
「は、現在7割ほどの完成度ですが……」
「どうした?」
「……あれは本当に必要となるのでしょうか。それよりは通常戦力を充実させた方がよろしいのでは、と」
この側近は、全ての事情を知っていて大統領に仕えている。その側近をしても大統領が開発させている物は不要に思えた。
しかし大統領はにやりと笑い。
「通常の戦力をいくら揃えても、最終的には蟷螂の斧さ。ならば度肝を抜く物の方が良いだろう。……どうせ滅ぶのが前提の祭りだ、精々派手にやろうじゃないか」
その笑みは、地獄の鬼もかくやと言うほどの凄絶な物だった。
こうして、アルコーリクは軍事力を増強させていく。
それは破滅への片道切符。クレンよりも大規模に、狡猾に、アルコーリク連邦は滅びの道をひた走る。
一方、かっぱぐものかっぱいでリマー王国に帰還したリアルたちだが。
「なんか随分久々の出番のような気がしますわね。……まあそれはそれとして、しばらく待機とはじらしますわね」
「だったら気晴らしに遊びにでも行けば良いのに、なんで訓練漬けしてやがりますかこのお姫様は」
胸元を大胆に開けたパイロットスーツでくつろぐリアルに対して、ジト目で言うのは同じくパイロットスーツ姿のルルディ。一つの戦争が終わったにもかかわらず、当然のように次の戦に備えていた。
まあ彼女ら以外は普通に順繰りで休暇取ってたりするのだが、この間みたいに何かトラブルを起こされたら羨まし……もとい面倒なことになるので、思うがまま訓練に従事させているわけだ。そのうち腕が鈍るとか言って小競り合いにちょっかい出すのは目に見えていたが、予想外のトラブルが起こるよりはマシである。
で、なんでルルディまで訓練を受けているのかというと、いざというときに使える技能を増やすためである。元々フランローゼ隊の面々は、得手不得手はあれど全員がDAの操縦から個人格闘まで様々な技能を習得している。リアルが何やっても追従するためだが、ルルディもそれに習っておけと言うことだった。
無茶振りであるが、ルルディはそつなくこなしている。元々万能器用型の人間だ。最低限(リマー基準)の技量を備えるくらいには至っていた。
彼女もだいぶ打ち解けてきたというか開き直ったらしく、リアルに対して遠慮無く物を言うようになった。そしてリアルもそれを咎めたりはしない。傅かせるのが目的でルルディを配下にしたのではなく、面白ろそうだから召し抱えたのだ。やさぐれた態度で接するルルディは十二分に面白いと感じているらしい。
複雑なのは他の面子だ。無礼千万なルルディの態度は腹ただしいが、主たるリアルはその不敬な態度を楽しんでいるようだし、何よりルルディは有能だった。オペレーターやバックアップに関してはすでに図抜けた技能を得ており、戦闘系の技能もめきめきと向上しつつある。感情を別にすれば得がたい人材であった。
アレでナニではあるが性根が腐っていないフランローゼ隊でいじめや疎外などはないが、微妙な雰囲気にはなる。今も部屋の入り口から半身になって、無表情で「くきー」とか言いながらハンカチをかんでいるシャラなどは、むしろ友好的な方だった。
まあ例外はある。彼女の存在を心底歓迎しているのはヴィだ。何しろ今までフランローゼにはやべーのと天然しかおらず、ほぼ一人でツッコミを担当していた。そのうちツッコミだけで過労死するのではないかと半ば本気で心配していたのだが、ルルディの加入によりその労力と心労が大分軽減されたようだ。半泣きになって感謝されたルルディの方はちょっと引いていたが。
ともかく彼女はやさぐれツッコミキャラという立場を確立しつつあった。 本人にとって良いことなのかどうかはともかく、なじんでは来たようである。
「遊びに? つまりどこかへ殴り込みに行けという事かしら」
「それは遊びじゃねえです。つーか姫様一緒に遊びに行くお友達とか居ないんすか」
言ってからルルディはしまったと思った。流石にプライベートに突っ込みすぎた言葉だったと。
しかしリアルは平然とした物で。
「そういえば最近連んでませんわね。まあ向こうも忙しいのでしょうけれど」
「いたんだ友達!?」
「友達というか……」
驚くルルディを尻目にう~んと考えるリアル。
ややあって彼女はこう言った。
「共犯者?」
あ、これ詳しく聞いちゃヤバいやつだ。ルルディはそう直感したが。
「懐かしいですわね。良くわたくしたちが海賊なんかを強襲している間にデータ的な財産を根こそぎかっぱいで貰ったりしましたわ」
「聞きたくないこと聞かされてるんですけれど!?」
いらん情報が追加された。やはりまともな人間ではなさそうだ。
と、リアルのブレスレットから着信音が響く。ホログラムの画面を表示させたリアルは、片眉を上げて微笑んだ。
「噂をすれば影、と言うヤツですわね」
「やほ~姫ちゃんおひさ~」
無数のモニターが灯る部屋で、のんびりとした声が響く。
声の主はボサボサ髪のスウェットを纏った女性。大きめの眼鏡がモニターの光を反射しその表情はよく読めないが、口元はへらりと笑みの形に歪んでいる。
「うん元気元気~。姫ちゃんは相変わらずみたいだね~、話は聞いてるよ~」
婚約なんて何の前振りかと思ってたけどやっぱりだったね~、など失礼どころか不敬罪になりそうなことを言ってるが、通話向こうも一向に気にした様子はない。どうやらかなり気安い関係のようだ。
そして彼女はユル軽い様子のまま――
「ところでさあ~、アルコーリク連邦の国家機密いくつかぶっこ抜いてきたんだけど~、いる~?」
爆弾ぶっ込んできた。
「そうそう怪しさ大爆発だったからついね~。もっとも向こうもそんなに隠す気なかったみたいだけど~。……うん、今まで蓄えた技術ばらまくつもりじゃないかな~。今回の情報とこれから世間で流布すのとを比較したら分かると思うよ~」
ただのヤベーのではない。頭の良い系のヤベーのだった。まあ相対してるのもめがっさヤベーのなので似たもの同士なのだろう。
「おっけ~。じゃ、いつものルートで流すよ~。報酬よろよろ~」
通話を切り、右手がタッチパネルの上を走る。必要な手順を終えてから、その女性はふっと笑みつつ椅子の背もたれに体重を預ける。
「これでよし、っと。……さあて鬼に金棒あたえちゃったぞ~。いつまで酔っ払ってられるかな~?」
楽しそうに言う女性の名は【フェアレ・ラウネン】。ひょんな事からリアルと知り合い、以後持ちつ持たれつの関係を構築した人物であり――
希代のハッカーであり、いくつもの国(リマー以外)から賞金を賭けられている犯罪者であった。
ルルディ「……くっ」(ぺたーん)
リアル「?」(ばいーん)
パイスーで分かる格差
そしてこの時点で唐突に出てくる新キャラ




