その1
クレンの政権は打倒され、レジスタンスたちが臨時政府を立ち上げる。そして首相代行としてイーティェは祭り上げられた。
様々なことに謀殺される中、イーティェは現実逃避気味に思いをはせる。
「……まさか国王があんな死に方するとはなあ」
王宮制圧の折、国王と王妃は恥も外聞も無く逃げ出した。宝物庫から持てるだけの財宝を担ぎ出して、当然のように用意された隠し通路を使って。まあその隠し通路の存在もバレていて、出口には捕縛用の人員が待ち構えていたというオチなのだが。
しかし国王は運がなかった。隠し通路の最後のあたり、そこは急な階段になっており、そこで王妃と共につまずいた。
どんがらがっしゃんと派手に転落。響いた音に反応して兵が隠し扉を開けてみれば、そこにはびくんびくんいってる国王夫妻の姿が。
全身の打撲と骨折。特に頭部と頸椎は致命的であった。一応病院に担ぎ込まれたが、混乱の中まともに治療されることもなく、意識を取り戻さないまま両名とも息を引き取ったという。
ちなみに彼らが持ち出した財宝、換金しやすいような宝石や貴金属だったのだが、その全てがイミテーションであったというオチがついた。つーか宝物庫を含む王宮に残されていた財宝の多くが、持ち出されていたりすり替えられていたりしたらしい。誰の仕業か言うまでも無い。
面識もなく実感もないが、イーティェから見れば一応父親だ。思うところはいくらでもある。が、死んでしまってはもうどうしようも無い。死体蹴りをする趣味などイーティェにはなかった。王については『もう終わったこと』として思考の外に放り出す。ある意味資源惑星で人の死になれすぎ、淡泊になったと言えるだろう。
ともかく国王が亡くなったことで、色々問題が生じた。いや生きていればいればで面倒なのだが、様々な手続きのためにその存在が必要となる状況もあった。それに簡単に死んでしまって振り上げた拳をたたきつける場がなくなってしまったと言う人間も多い。八つ当たりで横暴だった貴族どもが酷い目に遭っていたりしているが、まあそれは半分自業自得だ。そのくらいは目を瞑る。
何よりも借金だらけだったというのが痛い。国民からあれだけ搾取して羽振りも良さそうに見えたのにとがっかりする人間は多かったが、それよりもいきなり国家運営が危ぶまれるどころか、国そのものを切り売りしなければならないような状況に追い込まれていた。臨時政府を立ち上げた者たちは早速頭を抱えることになっている。
幸いというか、リマー王国をはじめとした名だたる勢力が関わったことで、いきなり借金の返済を求められるようなことはなかった。とりあえずは、だが。しかしどの組織も一筋縄ではいかないところばかり。レジスタンスの中には政治に関わった者もいるが、重要なところを任されていたわけではなく、責任を被せられて資源惑星送りになったような人間ばかりだ。海千山千の連中と渡り合うには力不足と言わざるを得ない。
心が折れそうだが資源惑星で使い潰されるよりはマシと自分に言い聞かせ、イーティェは今日も戦後処理に従事する。
「どれだけ搾り取られることやら」
深々とため息を吐いて、彼は席を立った。
クレン軍を打倒しほぼ完全に勝利したリマー軍は、クレン本星に留まり後始末に従事している。
とは言っても彼らが主に行っているのは治安維持の名目を借りたカルテルコネクション狩りであり、政治的な干渉は適当というか『他のところ』に丸投げ押しつけである。
「なるほど。つまり貴公らはあくまでも資源惑星の利権を得るために助力したのであって、政治的な介入をする気はないと?」
「左様。我々は領土の拡大などに興味は無い。今回のことは義によって起ったまでのこと。しかし流石に手弁当というわけには行かぬので。戴くものは戴くと言う話」
ゼアルの問いにいけしゃあしゃあと応えるのは、マリーツィアの外交官である。当然ながら資源惑星に居座っていた艦隊は彼らの手のもので、図々しく居座ったままである。通常なら砲艦外交であるが、相手ははリマーである。まともな交渉になるはずもなく。
「ふむ、こちらとて後始末が終わればこの国の内政に口を出す気はない。好きにされるが良かろう」
……割とまともというか、一歩譲ってやがる。リマーの噂を散々聞いていた外交官は内心で訝しがった。頭蛮族の極悪非道な輩だと思っていたのだが、態度はあくまで理知的。わざと威圧的に振る舞っても柳に風だ。
ゼアルとしてはコネクションの財だけ奪えれば、こんな借金だらけの国などいらないし、あっても邪魔だ。欲しけりゃくれてやるという頭リマーな判断だ。下手をしたら喧嘩売ってくれても良いんだぜ? 戦端開くからとか考えてる可能性もある。
その間を取り持つ形となった星間交易連盟の幹部と母星信仰教会の枢機卿は、何かを諦めたような顔をしている。連盟としてはカルテルコネクションが潰れてしまえば万々歳なのでこれ以上やることはないのだが、何の後始末も付けずに手を引くと後で難癖を付けられるかも知れないので、最小限の手出しですまそうとしていた。
教会の枢機卿の方は、アヴァール司祭の企みなど知らない。純粋に良心と功名心に従ってクレンの弱者に手を差し伸べようとしている。当然ながら政治的に関わる気など全くないので、そのあたりは丸投げするつもり満々だった。
つまりこの中でまともにクレンと政治的な関わり合いを持とうとするのは、マリーツィアだけであった。押しつけ先決定である。外交官は政治的な介入を行う気はないと嘯いているが、領土たる惑星の利権を丸々いただこうというのだ。何の介入もせずと言うわけには行かないだろう。あるいはクレンの政府を傀儡にし実質的な支配を企んでいるのかも知れなかった。
クレンの実情を知っている物からすれば道化である。資源惑星から得られる財がどれほどのものなのか知らないが、クレンに貸し付けている者たちが目を付けないはずがない。絡んでくるのは間違いなく、それにマリーツィアは対処しなければならない。全員ではないが海千山千の借金取り。彼らは考え無しに沈みゆく国家へ金を貸していたわけではない。回収する算段がついていたから貸したのだ。マリーツィアは確実に苦労する事になる。
まあゼアル(というかリマーそのもの)はマリーツィアがどうなろうと知ったことではないので、押しつける気満々だ。精々苦労すれば良いとすら思わない。難癖付けて敵に回ってくれるのなら喜ぶが。
そんなわけで、戦後の交渉はマリーツィア側が訝しがるくらい順調に進んでいた。まあ一方の当事者であるクレンの人間がまだいない時点で勝手に話を進めるのもどうかと思うが、いずれにせよクレンは色々な意味で借りを作りすぎた。それを受け継いだ新政権の発言は弱い物となる。結局横暴な王制を打倒しても、彼らは搾取される運命のようであった。
言葉を交わしながら、ゼアルは考える。
(そろそろ臨時政府の代表たちが顔を出す頃だな)
会談が本格的に始まるのはここからだ。とは言ってもゼアルの主張はほぼ変わらず、後は復興の協力者としてグランシャリオ・ファウンデーションを推す程度だ。かの組織とは密約を交わし、裏のマーケットの把握をある程度見逃すのと引き換えに、後ろ盾である企業関係で便宜を図って貰う事になっていた。若干リマーが譲った形であるが、かの組織に貸しを作っておいた方が後々役に立つとの判断でこうなった。
捕らぬ狸のなんとやら、になる可能性は低い。根回しはすでに順当。マリーツィアが調子に乗ってさらなる譲歩を迫ってきたらその限りではないが、警戒しまくっているようなのでむしろ慎重になるだろう。
そんなことを考えている間に、クレン新政府の首脳陣が姿を現す。随分とやつれた感はあるが、現状では当然のことだろう。
「お待たせしました。皆様ご足労痛み入ります」
王族とは思えない慇懃さで相対するイーティェ。その出自は聞いているが、付け焼き刃にしては堂に入った仕草だ。そう学ぶ時間も無かったろうに、血筋という物であろうか。
まあ良いか、短い付き合いだと思いながら、ゼアルは口を開く。
「ふむ、揃ったことだし、早速会談を始めるかね」
こうして、クレンの運命を決める会談が始まった。
そして会談はあっさりと終わった。
リマーとマリーツィアの申し出と要望を、クレン側が抵抗なく全部飲んだからである。 クレンとしては反対するメリットは皆無に等しかったし、そも物言う気力も無かった。彼らは最初から支援を行ってきたマリーツィアなどには譲歩しまくるつもりであったし、国民に『前よりマシな生活』を与えてくれるなら、政権を譲り渡しても構わないくらいに考えていた。かてて加えてどうやったら立て直せるか分からない状況だ。正直丸投げしたいというのが本音である。
で、マリーツィアのほうは状況を甘く見ていた。クレンの実情を正確には知らなかったし、知った今も資源惑星は採算が取れるだろうと思っている。だが彼らは知らない。王侯貴族が贅を尽くすため、K-M1の資源はかなり無理矢理採掘されていたことを。そしてその埋蔵量は10年と経たずに尽きてしまうことを。
つまりまあ、全力で寄っかかることが決定しているクレンと、それに巻き込まれることが確定したマリーツィアなのだが、神ならぬ身にそれが分かろうはずもなかった。
そしてかっぱぐものかっぱいでとっとと逃げ出すリマーは、やっぱりド外道である。
後始末という名の押しつけ




