その4
蒼の軍勢を引き連れたリマー艦隊は、そのままクレン星系へと侵攻していく。寄り道をせず本星に一直線。占拠された資源惑星や軍事基地を無視しての進軍だった。
と言うよりクレン軍はろくに反応もできていない。針路上のレーダーサイトなど索敵施設を優先的に潰しているということもあるのだろうが、戦力もほぼ残っていないというのが原因だろう。資源惑星でにらみ合いという名のサボタージュを敢行している艦隊もいるが、そも気がついている様子がなかった。
だからほぼ障害無く、リマー艦隊は本星近海へと到達する。ここに来てやっとクレンは反応を見せた。
「馬鹿な! パトロールや警戒関係は何をしていた!」
何もしていない。そもまともな警戒網を構築できる人員も機材も足らなかった。そんなんでまともに警戒なんぞできるはずもなかろうに。
ともかくもう本星の懐にリマー艦隊は迫っていた。その数は250程度。蒼の軍勢をあわせても500に届かない数だ。その上で、リマー艦隊司令官はこのような要請を蒼の軍勢に対して行う。
「この近海で待機し、外部からの介入を防いで貰いたい。……むろん、貴官ら本来の目的を果たして貰って構わん」
「……邪魔をさせるな、と言うことですな。了承した、ご武運を」
やはり見透かされていたかと、仮面の司令官は苦笑い。その空域に艦隊を留め、状況を見守る。
リマー艦隊は真っ直ぐに本星へと向かった。そこでやっと、残った防衛戦力が向かってくる。
その中に、巡洋艦オプファーの姿があった。
「おのれ、銃後をつくか。卑怯な!」
カーネは吐き捨てるように言った。その目は憎悪と『ある種の期待』でギラギラともえるような光を宿している。
「これまでの雪辱纏めて晴らす! 総員対艦戦闘用意! 私も出るぞ!」
言うが早いか身を翻し、格納庫へと向かう。副官は諫めても無駄だろうと早々に諦め、代理で指揮を執る。
「司令部に通達。これより当艦は交戦に入る。至急戦力を回すように要請しろ」
果たしてどれだけ保たせられるか。割と現実が見えている副官は、諦観と絶望がおり混じったような心持ちで指示を下した。
不意打ちの形になった奇襲。本星を護るための戦力は散っていて集結には時間がかかる。そうでなくともクレン王国の軍は練度が低く、加えて残っているのは会戦から弾かれた者たちばかりだ。士気も低いに決まっている。
そんなわけで、リマー艦隊250隻に対し迎撃に間に合ったのは、わずか50にも満たない艦艇であった。
そしてクレン側には、『致命的な欠点』が存在する。
「司令部、指示を、指示を出してくれ!」
「援軍はまだか! 我々だけでは保たせられんぞ!」
現場で指揮を執る者が誰もいなかった。そんな体制を取ってもいないというお粗末振りである。当然本星への直接的な襲撃など想定もしていなかった司令部は、オタオタと狼狽えるばかりで明確な指示など出せるはずがない。
そうこうしているうちに交戦距離だ。リマー側は躊躇いなくDAを出し、艦隊は砲撃を開始する。
「フランローゼ1より各機、当たる端から蹴散らしますわよ。戦闘時間は10分。帰還できないようなへまを打つのではなくてよ」
「「「「「了解!」」」」」
DA隊の先陣を切るのは当然のようにこの女。大剣を携えた紅きブリッツシュラークが宇宙を駆ける。
そしてこの状況では当たり前のようにこうなる。
「リア・リストおおおおおおおおおお!!」
目敏くリアルの機体を見出したカーネ。後先考えず激情のまま突貫してくる。装備したビームカノンを乱射し、ただ一直線にリアルの元へと向かう。それを迎撃しようとしたフランローゼ隊だが、リアル本人に制された。
「折角のお客人、無下にするのはつれないでしょう?」
不敵な笑みで宣う。逃げる気も負ける気もないのは明白。周囲は早々に諦めた。ただシャラだけが「ご武運を」と言葉をかける。
「おおおおおおおおおお!」
咆吼とともに超振動ブレードを抜刀するカーネ。そのままの勢いで斬りかかる。その打ち込みは難なくリアルの大剣にて弾き飛ばされ、返す刀で振るわれた斬撃を何とか回避した。
その一連の動きを見て、リアルは「おや」と意外そうな声を出す。
「腕を上げた? ……いえ、身体に調整を施したのかしら」
戦闘用ナノマシンの制御プログラムを弄ることで、反応速度や何やらを上げたのだと推測。2度の敗北から何も学ばないような人間ではなかったようだ。
「機体もそれなりに手を入れているようね。……ふふ、少しは楽しませてくれそう」
スヴァントヴィートも、外観こそほぼ変わりが無いが相当に手を入れられているようだった。以前とは違う。並の国家の並のパイロットであれば、確実に脅威になったであろう。
しかし相手はリアルだ。
「何度でもっ!」
再びの打ち込み。受け止められ弾き飛ばされる寸前で、ビームカノンを極至近距離でぶっ放す。しかしこれは読まれていたようでリアルは難なく回避。今度はリアルが打ち込んで来たので、カーネは後退し体勢を立て直す……前に再びの打ち込みが襲い来る。カーネはカノンを連射して牽制し、なんとかリアルを退ける。
「やはり一筋縄ではいかんか!」
「あら、結構保ちますわね」
必死の形相のカーネに対し、リアルはまだまだ余裕であった。なんか作画も大分違う。
クレン本星が目視できるほどの位置。ここを抜かれればもう後がない。クレン軍もそれは分かっている。が、止められない。ほとんどは鎧袖一触といった感じで蹴散らされていく。
そんな中でカーネは善戦していると言ってもよかった。何しろリアル相手に2合保った。これまで一撃で吹き飛ばされていたのに比べれば快挙と言っても良い。
だがそこまでだ。
「いけるっ!」
2合保ったことでで自信がついたか、カーネは押し切れると踏んだ。スロットルを開け、最大出力で打ちかかる。それに対してリアルは、大剣を低く構えた。
「次の一撃、持ちこたえれば本気を出して差し上げてよ」
すう、と目が細くなる。次の瞬間、紅きブリッツシュラークは電光の速度で駆けた。
一閃。大剣が目にも止まらぬ速度で振るわれる。それは受け流そうとした超振動ブレードごとスヴァントヴィートを両断した。
「なっ……見えなかった!? ばかなあ!!」
胴体をぶった切られたスヴァントヴィートの上半身が、くるくる回りながら明後日の方向にすっ飛んでいく。死んではいないようだが戦闘の続行は不可能だろう。
一瞬だけの亜光速域加速。ブリッツシュラークとリアルはそれを可能としていた。極端な速度の変化は見切りを困難な物にする。カーネでは荷が重かったようだ。
「あら残念。気合いは入っていたようなのに」
さして惜しげも無い口調で言い放ってから、リアルはその場を後にし、フランローゼ隊もそれに続く。振り返ることなどない。
こうして僅かな抵抗を退け、リマー艦隊はクレン本星へと至る。大破し航行不能となったオプファーは、それを見送ることしかできなかった。
「足の速度を僅かに落とす程度しかできぬとは……」
「副長! 退艦を!」
「分かっている。……口惜しい物だな」
制帽を目深に被り、副長はブリッジから去った。九死に一生を得たのは果たして幸運だったのか、彼には判別がつかなかった。
ほぼ障害無く、リマー艦隊は本星首都に向かって降下を開始する。それとほぼ同時刻。
「クレン王国の天運は尽きた! 横暴なる愚王を打倒し、真なる王の下我々は起つのだ!」
おおお! と世界を揺るがすような声が上がる。密かに王都へ集っていたレジスタンス勢力。それが一斉に蜂起したのだ。
星間交易連盟がレジスタンスに流した情報を元に、リマー軍の侵攻と歩調を合わせた形になる。千載一遇のチャンスに、レジスタンスたちはこれ以上無く奮起していた。
そんな中、死んだ魚のような目をした男が一人。
(どうしてこうなった。ほんとどうしてこうなった)
全レジスタンスの総代表に祭り上げられたイーティェ・エーナーこと、【イーティェ・クレン】は、まな板の上の鯛がごとき心境であった。
先に行われたDNA検査。それにより、現国王の御落胤と発覚したのだった。レジスタンスは一時期大混乱に陥ったが、元々現政権を転覆する理由のためにやったことだ。これ以上無い旗印になるだろうと、急遽イーティェを代表に押し上げた。もちろん本人の意思は余所に。
あれよあれよという間に神輿となったイーティェには諦観のような物しかない。そりゃ現王家を打倒し自由を得るという目的はあったが、自分が王の血を引いているなど誰が思うか。急展開過ぎて思考がついて行かないのかも知れない。
とにもかくにも、『正当な理由』を得たレジスタンスは、一気に首都の制圧を目指す。マリーツィアや星間交易連盟などから送り込まれた傭兵たちが、彼らの不足を補い。抵抗する者たちを退けて押し通る。
クレン本星は焔に包まれた。
さてあと何分保つでしょう




