その1
さて、ジャックポットの窮地を救ったリアルと愉快な仲間たちは、ジャックポット幹部はおろかグランシャリオ・ファウンデーションそのものからも大変感謝された。
彼らはそれまでとっとと帰ってくれねーかなー、といった空気だったのが一転。下にも置かない扱いで歓待しようとし始める。
だがリアルは、それらをすげなく躱し、国元から訪れた人員に後を任せさっさとジャックポットから発った。
「そういう扱いをされたかったのではないのですから」
感謝されるのは良いが過剰にもてなしをされたかったわけではない。お姫様扱いされるのは普段だけで十分だ。これ以上は楽しめないと判断したのである。
ここから先は政治の話になる。その気になればリアルもそれなりに役に立つ分野だが、餅は餅屋に任せた方が上手くいくだろう。ここで出しゃばる気もなかった。
そういったわけで帰路についたのだが。
「まさかジャックポットを脱した船の事故現場に遭遇するとは思いませんでしたわ」
救助者を収容した格納庫に向かう最中、リアルが苦笑しながら言った。
ジャックポットのある星系を航行している途中、極小のデブリによって機関部を損傷し、立ち往生している民間船と遭遇した。よくある遭難を装った海賊の罠かとも思えたが、そうであればリマーの人間にとっては餌に過ぎない。そもフランローゼ隊と、一部とは言え黒曜遊撃艦隊が揃っている(星系を脱するまでは行動を共にする予定だった)状態でそんなことをやらかせばどうなるか、火の目を見るより明らかだった。
「滅多にあることではないんですけど、運が悪かったんでしょうなあ」
「バリアシステムの不調と、外壁の一部老朽化。旧式の船だったというのが徒になったのでしょうね」
隣を歩くミズホと言葉を交わす。事故を起こした船は随分と古い物のようだ。そんな物を引っ張り出さないといけないほどに慌てていたのか、脱出する人間が多すぎて、そんな物まで使わなければならない羽目になったのか。どっちにしろ災難だ。
まあひとまず脅威は去った。かの船の修理をしてやりジャックポットに送り返すくらいはしてやっても良かろうと、リアルたちは判断している。
そして、救助した乗組員と乗客たちに状況を説明しようと、彼らの元を訪れてみたらば。
「あら、お久しぶりですわね」
「あ、あははははははは……」
こそこそと隅っこの方に隠れようとしていたルルディを見つけちゃったわけだ。
ルルディの方からすればすごい災難である。事故を装う前提でわざと古い船を選んだヴァイスのチョイスは良い。だがその船が本当に事故を起こすとは誰が思うか。そしてそれがよりにもよってリアルの船に救助されるなど想像もできるか。
運とか間とか、何もかもが悪かったとしか思えない。
どうする、どう誤魔化す。ルルディの頭の中で思考が駆け巡る。
この相手にか弱い女性を演じても無意味だろう。つか多分自分の素性はバレている。ここで何か言い逃れをしようとしても無駄だ。ならばどうするか。
とか考えていたら、リアルの傍らに控えるシャラが、なんの感情もこもっていない声で言った。
「沈めましょう」
「どこに!?」
唐突すぎる台詞に、思わずツッコミを入れてしまうルルディ。しまったと思う間もなく、シャラは平然と言葉を放つ。
「風俗か臓器かブラックホールかお好きな物をどうぞ」
「全部好かんわ!」
「我が儘なビッチですねまったく」
「我が儘!? 我が儘なの!? つーか初対面でえらいヘイト喰らってるんですけれど!?」
「姫様の婚約者とその周辺に手を出して免罪押しつけようとした股ユルビッチ相手には妥当だと思いますが」
「そうだったー!」
うきゃー!、と頭抱えて発狂するルルディ。完全に己のキャラを忘れてるが、それだけテンパっていると言うことである。そんな彼女を見るリアルの側近の目線は冷たい。
彼女らからすれば、ルルディはリアルに無礼を働いた不埒者である。正直今この場でなぶり殺しにしてしまっても構わないとすら思っていた。ゆえに静かな殺気を持ってこの場にある。事情を知らない船員などはちびりそうだ。
そして、ルルディを逃すため同行していたヴァイスは、そ~っと両手を挙げて言う。
「えっと、我々は偶然彼女を保護していただけですので、基本あんまり関わってないです、はい」
「この野郎即売りやがったわね!?」
保身に走ったヴァイスに食ってかかるルルディ。醜い人間模様であった。
そんな様子を見ているリアルは実に楽しそうである。具体的には新しいオモチャを見つけた目をしていた。
彼女はふふ、と小さく笑ってから、こう言った。
「両名、確保で」
「「「「「御意」」」」」
「やっぱりかー!」
「なんで俺まで!?」
こうして、ルルディとヴァイスはリアルの手中に収まった。なおヴァイスが確保されたのは、面白そうだったからと言う理由である。酷い。
加えて言えばファウンデーションにヴァイスの身柄を預からせて欲しいと申し出たら、どうぞどうぞと何の抵抗もなく承諾された。無情である。
ドナドナと連れ去られていく二人。リアルはパチンと扇子をならして微笑む。
「さてどういたしましょう」
別段二人から何らかの情報を聞き出すつもりも、ましてや拷問じみた真似をするつもりもなかった。正直ルルディの背後関係など、リアルにとってはどうでも良い。彼女の行動がいかなる目的の物か、本国ではおおよそ予想がついている。ルルディに尋問するとすれば、それを確認する以上の意味は無い。
国ならばルルディにもう少し利用価値を見つけるだろう。だがそれでは『面白くない』と、リアルの勘がささやく。今のテンパり具合を見ても、手元でいぢった方が絶対面白いと感じたようだ。
ルルディからすれば針のむしろ以外の何物でもない。普通に諜報員として扱われる方が幾分マシであろう。彼女の運命はろくでもない方向へと転がり始めてしまった。巻き込まれたヴァイスもえらい迷惑である。
どうやっていぢくろうかと思案するリアル。そんな彼女の元に、一つの知らせが飛び込んできた。
「ヤーティェ王子が、戦死した?」
「そのようですなあ」
事故を起こした船を応急処置してからジャックポットへ送り出し、一息ついたところでそんな情報である。さすがのリアルも驚いた様子だ。
「あれがそんな簡単にくたばるタマかしら? 偽装を疑った方が良さそうですわね」
「曲者だと聞いていますが、そこまでやるものですか?」
「やりかねない人物だと思いますわ。勘ですけれど。……もっとも何の目的があって、までは分かりませんわね」
完全に疑っていた。ある意味信用しているとも言える。やらかすだろうと予想していたという方向で。
ぱちりと扇子をならす。今回のことで状況はかなり変わってくるだろう。まずクレンの首脳陣は混乱し、冷静な判断はできまい。それが戦いにどのような影響を及ぼすか。色々推測はできるが、読めない部分も多い。
シーティェ王はろくでなしだが、王太子であるヤーティェのことをどう思っていたか。最低でもまともな親子関係ではなかっただろう。息子の死は、彼にどのような判断を促すのか、そこが読みにくい。一番ありそうなのがただひたすらに激昂し、やけっぱちのような行動を起こすことだろうが。
いずれにせよ、まともな軍事行動は期待できない。いやそれは最初からだが、益々統制が取れなくなってくるだろう。ひょっとしたらリマーが手を出さなくても勝手に瓦解していくかも知れない。
だがそれでは片手落ちだ。リマーの目的はあくまでクレンに潜む裏社会コネクション、その資産。瓦解していく混乱に紛れて資産ごと逃げ出されるのは困るのだ。クレンの変調に対して、嫌でも呼応しなければならなかった。
「……忙しくなりそうですわね」
リマーだけではない、今回の戦争に関わっている全ての勢力が動く。誰が敵で、そして利用できる相手なのか。慎重に、しかして的確に素早く見極めなければならない。リアルたちものんびりしている余裕はなさそうだ。
「それで、王子が戦死したという状況はどのようになっていまして?」
リアルはそう問うた。
予告されてた急展開




