その3
ジャックポットの幹部会は、今てんやわんやの大騒ぎであった。
事実上ジャックポット政府と言っても良い彼らが、なぜ動揺しまくっているのか。それは壁面のモニターに答えがある。
「この星を占拠!? あほなのかあいつらは!?」
幹部の一人がデスクに拳をたたきつける。
ジャックポットが存在する星系に突如現れた某国の艦隊。それは何をとち狂ったか、『ジャックポットは犯罪者の巣窟である』などと一方的に言いがかりを付け、武力を持って占拠すると宣言してきたのである。
控えめに言っても頭おかしい行動であった。ジャックポットは確かに後ろ暗いところもあるが、大っぴらに犯罪行為に加担しているわけではないし、表面上も経営的にも健全なリゾート惑星だ。そのどこかに難癖付けられるようなへまを、グランシャリオ・ファウンデーションが簡単に許すものではない。
そしてこの星を維持するために、多くの勢力を抱き込んでいる。その背後を考えれば、生半可な手出しを行うことなど、無謀としか言い様がないはずなのだが。
「頭おかしいのは確かだが、実際にやって来ることには違いない。……こっちの戦力は?」
ジャックポットは警備の名目で結構な数の傭兵を雇っている。何しろカジノがメインの観光地だ。海賊や何やの類いはいくらでも湧いて出るし、それなりの備えは必要であった。
「戦闘艦が82、DAが50といったところですな」
「向こうは140隻。標準的な艦隊規模から考えると、DAは最低100はいる、か」
あくまで火の粉を払う戦力だ。国家と比べれば劣る。(それでも民間所有の惑星としては破格だが)100隻を超える艦隊と事を構えるなど、想定されていなかった。
「ファウンデーションの本部からは?」
「増援を送るとのことだが、今から戦力をかき集めて間に合うのかどうか」
「それまで保つのか分かりませんな」
「客の退避はどうなっている」
「それが急なことで、中々進みません。もっともこのようなこと想定されていなかったからですが」
緊急時に来客を脱出させる手はずはあるが、国が一つ攻め入ってくるなど予想の範囲外だ。自分たちも客も寝耳に水のことで、行動が鈍るのは仕方が無い。
が、ここで客に被害があれば信用問題どころではなかった。その上で何らかの人質にでもされたら最悪だ。この星はおろかファウンデーション、ひいてはその背後にある企業連の存続も怪しくなる。
「……で、そんなときに何で重役出勤しやがりますかなこの御仁」
「いや本当申し訳ない……」
幹部一同が冷たい目線を投げかけるのは、床に正座した人物。リアルに酷い目に遭わされたカジノ支配人だった。
まあ予想通りの展開である。しかしこの状況で彼一人がいたとしても何か状況が変わるわけでもない。きつく当たられるのは仕方が無いが。
ともかくどう対応しようか、動けるところは動かしておくかと幹部たちが額を突き合わせている中。
ヤツが訪れた。
「祭りの会場は、ここですわねっ!」
どばたーんと会議室のドアが勢いよく開かれ、ずかずかと入り込んでくる人物。
リアル・ド・リマー、介入開始。
実のところ、突然侵攻を受けたのはジャックポットだけではなかった。
「なるほど、こう言う仕掛けか」
報告を聞いたトゥール王は苦笑を浮かべる。
ジャックポットへの侵攻と前後して、いくつかの国家や組織が兵を挙げたり、国家に対して反乱を起こしたりしていた。当然ながら偶然などではあり得ない。
「アルコーリクめ、やってくれる」
「おや、断言なさいますな」
「どうせ蜂起した勢力には全部、例の音響メーカーが関わっているのであろう?」
王の言葉に、レイングは片眉を上げた。
「相変わらず戦の匂いには敏感でございますな。……全くもってその通りでして。そしてかのメーカーの機器、調べさせた結果でございますが」
タブレットの資料を見ながらレイングは言う。
「不可聴域にノイズが発生するようになっていますな。どうやらそれが、交感神経を興奮状態にする効果があるようで。長期にわたって使っていれば、好戦的になっていくとも」
「そこでそそのかされれば、戦に賛同しやすくなる。ということか」
アルコーリクが行ったからくり。音響機器に仕込んだ特殊効果を利用して、民衆を軽い興奮状態にして演説などを行う。すると話を聞いた者は自分が熱狂していると『誤認』し、同じ事を続けるとやがて本当に熱狂し出す。その上で好戦的になっていくとなれば、なるほど戦に傾倒していくのも分かる。
そのシステムを作り上げたのは、恐らくクラカーシだ。最低でも彼は中核にいて深く関わっていることは間違いあるまい。
「となると後はやつらの目的だが……どうにも読めんな」
「看板通りの統一ではありますまいが、ここまでのやらかしとなると何やら狂気めいたものを感じますな」
頭のおかしい連中が自分のことを棚に上げて首をひねる。それはそれとして、確かにアルコーリクの行動は意味が分からない。単に狂っているというのは簡単だ。狂ったのであれば狂ったなりの理屈もあろう。その理屈がどのような物か見当もつかなかった。
まあトゥール王を筆頭とする蛮族脳のリマーの連中も十分狂ってるのだが、狂人だから狂人を理解できるとは限らない。むしろなんだかわかり合えない深い溝があるような気がする。端から見てたら五十歩百歩であるが。
「まあいい。かち合うようであったら受けて立つのみよ。……それと件のメーカーの情報、友好国に回してやれ」
「御意に。それと、リアル姫のことですが」
「まったく、不幸な事よ」
国王は肘をつき、鼻を鳴らす。
「相手がな」
そう言って、くっと口元を歪めた。
レイングは眉を動かすのみだ。
「最低でも派遣した10倍は必要でしょうなあ。まあ小国にそれだけの戦力があればの話ですが。……しかしあまり派手に動けば、ファウンデーションと諍いが起きるかも知れませんな」
「ウェストエンドの娘がよいように取り計らってくれよう。あれはあの一族の中でもとびきりよ。まあまずへまをすることはなかろうさ」
信頼と言うよりは確信。王の言葉からはそれが窺えた。
「援軍も必要あるまいよ。現地戦力の手綱を取れれば十分……いや、待てよ」
不意に面白いことを思いついたと言った表情になるトゥール王。レイングは僅かに眉を寄せた。
「何をなさるおつもりで?」
「そろそろあやつにも、新しいドレスが必要かと思ってな。様子見に黒曜の一部とレイヴンズを回す予定であろう? ついでに届けさせる」
戦火が起こった各地の状況がどういう物になっているか。それを見定めるために傭兵として黒曜遊撃艦隊の一部を派遣することが決定されていた。それに便乗し何やら画策したようだ。
レイングは「なるほど」と納得した様子を見せる。
「親馬鹿、ですな」
「応とも。たまにはよかろう」
娘を修羅に育て上げるのを親馬鹿というのであろうか。そんな筆者の疑問は余所において、王たちは話題を変えた。
「まあいずれにせよ、クレンとの決着はしばらくお預けだな」
「この状況では致し方ありませんな。……もっとも困るのはクレンだけでしょうが」
リマーは常時軍を展開していても維持できるだけの余裕があるが、クレンはそう言うわけには行かない。現状を維持するだけでも借金が積み重なっていく有様だ。そしてそのことを国王を筆頭とした上層部は理解していながらも重要視していない。リマーに勝てば帳消しになることだし、いざとなれば借金など踏み倒してしまえばいいのだとたかをくくっているのだ。
そのツケはいずれ回ってくるだろう。それはともかくクレンも今すぐに決戦になだれ込むつもりはないようだ。王以下が余裕と言う名の慢心かましているというのもあるし、一応友好国への援助を行おうとしているので、準備が後手に回っていると言うこともある。何でも王太子が自ら友好国への援軍として赴くことになり、国を挙げて壮行するとか何とか。あほじゃなかろか。
それはさておいて、クレンとの戦いはしばらく先延ばしになった。これ幸いとかの国に介入してくる勢力もあるだろうし、火の手の上がった各国からの影響はどのようなものになるか予想もつかない。
しかし王は不敵に笑う。
「面白くなってきたではないか。クレンだけでは食い足りぬと思っていたところよ」
「ほどほどになさいませ……と言っても無駄でしょうが」
「当然。これまでに無い大戦ぞ。滾らずしてリマーの王かよ」
くつくつと、王は嗤う。
空前絶後の戦乱。それを予見して怯む性根など、この男は持っていない。
獰猛に挑みかかるため、牙を、爪を。研ぎ澄ます。
大嵐は近い。
姫乱入! 姫乱入!
そしてすでにバレてるアルコーリクの仕掛け。
なおこれが今年最後の更新になると思われます。少々早くはございますが、皆様よいお年を。




