その4
さて、アルコーリク連邦の行動でリマーとクレンの戦に歯止めがかかった。連邦が喧嘩をふっかけた周辺国には、双方の友好国が含まれていたからである。
どういう形にしろ戦争を仕掛ける場合、全方面に対し一斉になどと言うことは普通やらない。戦力の分散は悪手であろう。
だが連邦はそれをやった。この時点でまともな考えでないことは分かる。
リマーが500の艦隊を送ったのは、それを探るためという理由もあった。
まあまともな対応である。しかしクレンの方はと言うと。
「ふん、たかだか調子に乗った跳ねっ返りが考えなしに行動しただけであろうが。手出しは不要よ」
シーティェ王はこう宣い、始めは援軍を出すことを却下した。そもクレンは戦争中でそのような余裕はないという主張だが、先の会戦で勝ったと浮かれ散財している時点で説得力はない。
加えて援軍が欲しいのであればそれなりの見返りが必要よなあと、報酬をねだるようなことを言い出す始末だ。空気も状況も読めていない。
そんなクレンであったが何の影響もない、というわけにはいかなかった。突然のことに準備を整えていなかった友好国は、藁を持つかむ思いでクレンの手助けを請うてきたし、友好国との繋がりで甘い汁を吸ってきた一部の者から、手助けしてはどうかとの進言もあった。そしておだてられ持ち上げられれば調子に乗るのがシーティェ王という男だ。結局友好国にいくらかの交換条件を呑む事を承諾させ、援軍を差し向けることを決めた。
そこで問題になったのは、誰を向かわせるかである。
大まかには正規軍か傭兵か、といったところか。別に悩まなくても正規軍で良いじゃないかと思うが、どうにも戦力をケチりたい様子が見て取れる。
そして現場は押しつけ合いだ。ただでさえ資源惑星に向かった800の艦隊は貧乏くじだと思われているのだ。余所の国への援軍など左遷も同じ、そう考えいる人間も多い。
何よりリマーとの戦いで戦果を上げれば報酬も立身出世も思いのまま(実際はそうでもないが)だと言うのに、何が悲しくて大して稼げもしないような援軍などに赴かなければならないのか。そのような理由で、皆忌避していた。
そこでこの男が動く。
「私が参りましょう。クレンに向かう前の前座としては丁度良い」
ヤーティェ王子っだ。彼は自ら王にアルコーリクとの戦いに赴きたいと述べた。
「200,いえ100の艦隊をお預けいただければ、アルコーリクの軍勢など蹴散らしてご覧に入れましょう」
大言壮語というのもおこがましい、むしろ妄言といっても過言ではない事を宣っている。だが王は機嫌良さそうに頷いた。
「やる気に満ちて結構。頼もしい事よ」
息子の言葉を微塵も疑っていない。彼を含め、いやそれナメすぎだろうとツッコむ者は誰もいない。基本こいつら全員が脳味噌お花畑だ。
「人員は私自ら選抜したいと思っています。我が国の勇猛な武人であれば、万が一にもし損じることはないかと」
「ふむ、許そう。然りと見定め、万全を尽くすが良い」
「お任せあれ」
深々と頭を下げる。もちろん内心で舌を出すのを忘れていない。
こうして、クレン王国は一人の男が逃げ出すのを容認し、滅びへの道をひた走っていく。
……と簡単にいかないのが世の中で。
「殿下! どうかこの私めを配下として戦力に加えていただけませんでしょうか! どうか、どうか!」
目の前で見事なDOGEZAを敢行する男の有様に、ヤーティェは戸惑う。
(……えーっと、誰だっけ?)
(将軍の息子ですよ。取り巻きにいたでしょう)
(ああ、居たねそういえば)
そう、すっかり忘れ去られていたが、プロローグでリアルにボコられた彼である。まさか今更になっての再登場など筆者も予想していなかった。
ヤーティェにしても同様で、なんで出てくるのと言いたい気持ちであった。しかしそんな本心をさらけ出すわけにもいかず、厳かな雰囲気を装って声をかける。
「面を上げよ。一体いかなるつもりか聞かせて貰おうか」
その言葉にがばっと顔を上げ、鬼気迫る表情で脳筋子息は訴える。
「はっ! 先のリアル・ド・リマーを取り逃がしました失態、その汚名挽回の機会を与えていただきたく、恥を忍んでお願いに上がった次第です!」
だから汚名は挽回するもんじゃねえ。それはさておき言いたいことは分かった。
ふむどうしよう、役に立ちそうにないんだけど。ヤーティェの正直な感想である。目の前の土下座野郎は確かに生身での戦闘技能もDAの操縦技術も成績は良い。しかし将軍の息子と言うことで下駄を履かされた物で、真の実力は大したことがないと理解している。加えて言えばリマー軍の一般兵にすら及ばない。戦場に出たら3秒で死ねる人材だ。
これからやろうとしていることを考えると、ぶっちゃけ邪魔である。しかし断ろうとすればしつこく縋り付いてくるだろう。スポーツマンを気取っているその実態は結構粘着質だと、ヤーティェは知っている。
よし断ろう。そう決めたヤーティェが言葉を発する前に、ラグローが動いた。彼は真面目な表情でこう言う。
「殿下、ここは彼の要望を聞き入れては」
何言ってんのこいつ。そのような目を向けてみれば、ラグローはなにやら意味ありげに目配せをして見せた。
どうやら何かを考えついたようだ。ならば乗ってみるかと考えを改める。
「……いいだろう、参陣を許す。励めよ?」
「ははっ! ありがたく! 必ずやお役に立ってご覧に入れましょうぞ!」
再び土下座する脳筋に冷めた目線を向ける王子。
ややあって。
「さて、なんでアレを受け入れたのか聞かせて貰おうか?」
自室に戻ったヤーティェは、ラグローに問う。
彼は眼鏡を指で押し上げながら答えた。
「『生け贄』には丁度良い、と思いましてね。計画を少々変更します。より確実に我々の死を演出するために」
「なるほどね。彼を丸め込んで死地に追いやろうというのか」
なんか外道な事を企んでいる。良心という物が欠片もない2人であった。
「良いだろう、細かいことは任せる。後は彼だけでなく、幾ばくかの贄は必要だな?」
「そうですね。1艦隊くらいは必要になるかと」
「死んでも惜しくない人材などいくらでもいるからな我が国は。僕の方で集めるとしよう」
「お願いいたします。王子直々の召し上げとなれば、断らぬ者はおらぬでしょう」
他者を容赦なく消耗品として扱う。もう救いようがないくらい外道である。
と、ヤーティェが不意に何かを思い出したかのように言葉を発した。
「……ところでさ、彼の名前何だったっけ?」
「……なんでしたかね」
酷すぎるんですけれどこいつら。
王都の一角。ある貴族の屋敷にて、一人の青年がほくそ笑んでいた。
「くくく……これで俺の屈辱に満ち日々も終わりだ」
青年は件の将軍子息である。彼は順風満帆な人生を送ってきた。優秀な成績(下駄履き)を納め、王子の側近候補として選ばれ、輝かしい未来が待っていると信じていた。
リアル・ド・リマーという女と出会うまでは。
あの女は最初から気に食わなかった。お高くとまってまともに交流しようとせず、挙げ句の果てには地位を笠に着ていびりいじめを行うなど、王族としての風上にも置けない人間だった。(なお本人の思い込みである)
王子の手による断罪にてその命脈を絶てると思いきや、生意気にも卑怯な手(実力)を使って不意を打ち、挙げ句の果てにはDAを持ち込むなどと言う外道極まりない手段を持ってこの国を脱した。
彼女のその行動も許しがたいが、その結果自分は重傷を負い、家族からは不甲斐ないとなじられ、評価は地に落ちた。
許せない、許せるはずがない。怒りと怨恨を胸にリハビリを続け、そして屈辱を晴らすべく恥を忍んで王子に頭を下げたのであった。
彼はまだ見積もりが甘い。戦場に出れば敵を一蹴しリアルをも討ち取れると思っているが、そんな保証などどこにもないし、それどころか王子たちに捨て駒として扱われているなどと思いもしていない。
「まずはアルコーリクの連中を蹴散らし、我が力を示すところからだ。返す刀でリマーを叩き、あの女を討ち取ってくれるわ!」
捕らぬ狸の皮算用どころか地雷原に自ら踏み込んでいくような愚行。そんな自覚のない青年の名は【ヴァーカナ・ノーキン】。
極悪王子と蛮族王女双方の犠牲者であった。
やっぱり王子外道。
そしてすぐ死にそうなのが再登場。




