その3
「状況を整理しよう」
複数の勢力で、多くの人間が同じように眉を寄せていた。
現時点、この戦争で全体図を把握している者はいない。それぞれの勢力から見れば欠けている部分があるのだ。推測で補うことも出来るが、それにしても限度はある。
ここで俯瞰の目線から見てみよう。
まずはリマーとクレン。リマーはクレンに巣くう裏社カルテルコネクションを潰してその財を奪うことを目的とし、クレンは負債をなんとかするため技術と軍事力を持つリマーそのものを欲していた。
この2者の戦争は一見一進一退に見えるが、その実リマーがコネクションを逃さぬよう手を抜きまくっているから成り立っている。クレンの首脳陣はほぼそれに気づいていない。
理解している数少ない1人であるヤーティェ王子は、国を見捨て国外に脱出しようとしている。そのためにインパチェンス・カンパニーという民間軍事組織を雇い、工作、あるいは戦争に介入してきた勢力と接触を図ろうとしていた。
戦争に介入してきたのは国家、組織を含めいくつかある。まずはマリーツィア共和国。この国は戦争以前からクレンに工作員を送り込み、その資産たる資源惑星を狙っていた。送り込んだ工作員ルルディはヤーティェ王子に接近したが、それは彼が利用するためであった。結局ルルディはどさくさに紛れ情報のみを持ち帰るため離脱。マリーツィアは別の手段を取ることになる。
次いで星間交易連盟。彼らはクレンに巣くう裏社会カルテルコネクションの存在が邪魔で、排除するために戦争へと介入した。配下のPMCである蒼の軍勢を戦力として差し出し、クレンに取り入ると同時に他の勢力を招き入れるなど工作をしていた。裏で反抗勢力と接触を図っている様子も窺える。
その連盟と手を結んだ組織の一つが母星信仰教会である。クレンの裏組織と繋がりのあるアヴァール司祭の働きにより、教会は停戦あるいは休戦を促そうとして戦争に介入することとなる。そのために連盟だけでなく様々な国家、勢力に協力を要請したり、リマー、クレンに直接交渉を試みたりしている。
他には企業間の互助組織という体で暗部を司るグランシャリオ・ファウンデーションも介入せんとしていた。彼らは裏社会カルテルコネクションの持つ『市場』を狙い、行動していた。その一環としてルルディの身柄を押さえ、マリーツィアに干渉しようとしている。
そういった者たちが蠢く中、頃合を計っていた資源惑星のレジスタンスが立ち上がる。彼らはマリーツィアの後押しを受け、資源惑星を占拠した。もちろんそれで終わるはずもなく、彼らは次なる行動へ移ろうとしている。
……と、ここまでは大体理解できる範疇だ。
「アルコーリク連邦、何を考えている」
どこの勢力でも、同じような言葉が吐かれていた。
連邦の行動は唐突かつ、目的が不明だ。戦争を起こすにしてもやり方という物がある。連邦はそのセオリーをことごとく無視していると言っても良かった。
性根が蛮族なリマーでさえも、根回しをし敵と味方をふるいにかけ、それなりの手順を踏んで戦に臨んでいる。それに対して連邦は唐突かつ手当たり次第であった。友好国であったかどうかも関係ない。とりあえず近くにいたから殴りかかった、そのようにも見えてしまう。
ともかく連邦の行動によって、リマーとクレンの戦争に興味を示さなかった勢力にも、危機感のような物が漂い始めた。もしかしたら自分の隣人も……ということである。これが連邦の狙っていたことなのかどうかは分からないが、国際的な環境に幾ばくかの影響を与えそうな気配であった。
「そもそも連邦には戦争をする理由なんてものはないはずだが」
連邦は経済的にも政治的にも問題なく回っていた。周辺国との関係も悪いものではなかったし、戦争をしなければならないほど追い込まれている様子はなかった。
これがクレンのように外見だけ整えていたと言うのであれば話は別だが、どう探ってもそのような事実はない。戦争をふっかける必要性というものが存在しないのだ。各勢力が首をひねるのも当然であろう。
目的が分からず理由もない。正気すらも疑える行動だ。現大統領は理性的に見える人物であったが、それも偽りであったのか。疑念だけが膨らんでいく。
「……それで調査の結果はどうだ?」
例外的に精神的な余裕を保っているリマー王国。この国とて全ての状況が見えているわけではない。だが突発的な事態に対しての適応性が並じゃなかった。すぐさま友好国に援軍を差し向ける用意を調え、情報の収集に努める。
「は、大統領の側近に、1人経歴の疑わしい人間がおりました」
「ビンゴ、というヤツか」
報告を聞いていた王は、にやりと唇の端を歪めた。
「して、その人物は?」
「【クラカーシ・ダアマ】という男で、元心理学を専攻していた学者だったようです。しかしかなり前に学会を追われておりますな」
「ほう? なにをやらかした」
「『周囲の環境が人間の心理に与える影響』を検証するための実験と称し、学生に対して非人道な行為に及んだ、とのことで告訴されております。証拠不十分で不起訴になったようですが」
「そこからアルコーリクに潜り込んで政治の道、か。……これ以上ないくらいにあからさまな怪しさよ」
どう考えてもそいつが原因の一端だと、トゥール王は苦笑。件の男、クラカーシがアルコーリクに居を移してから今回の事が起こるまで時間の開きがあるが、色々と下準備を行っていたとしたらつじつまが合う。どこまでが彼の思惑なのか分からないが、深く関わっていることは間違いないだろう。
「となると後は、目的が何かだな」
王は思案する。無謀でしかない開戦だが、その無謀を押し通すだけの理由があるはずだ。そして常識外の無謀である以上、それはまともなものではない。
国を自由に操れたことで調子に乗り、増長した。あり得る話だがその程度ならまだまともだろう。予想もつかない壮大な理由か狂った理由かしょうもない理由か、そういった物であるかも知れない。いずれにせよ、現段階ではまだ読めるものではなかった。
「かの国が出した声明は、連邦の理念による周辺国家の統一。であったか」
「左様にございます」
「……そも連邦の理念って何かあったか?」
「情報部の調査では何とも」
「雑にもほどがあるわ。……まあ良い。それで、件の音響メーカーはどうか」
「大当たりでございました。CEOは政府関係者。オブサーバーはクラカーシ・ダアマが努めております。多少の隠蔽工作は行っていたようですが」
「稚拙よな。それで隠し通せると思っていたのか」
いや、と王は小さくかぶりを振る。恐らくは隠し通すつもりがないのだと、当たりを付けた。
「阿呆か狸か、いずれにせよろくでなしであることには違いない」
クラカーシ本人か、それとも政府丸ごとか。かの国を操る者は、リマーを上回るイカレ具合なのだろう。
上等。王は我知らず獰猛な笑みを浮かべる。
こうして、アルコーリク連邦はリマー王国の敵と認定された。
状況整理の話。(主に筆者のため)
そしてリマーにターゲティングされるアルコーリク。逃げてー。




