その1
唐突な話だが、アルコーリク連邦は周辺国に対しいきなり宣戦布告。侵攻を開始した。
「「「「「は?」」」」」
関係国は大体そんな反応だった。数少ない例外の一つが、リマー王国である。
「そーきたかー」
トゥール王は半ば呆れたような様子で呟いた。
目端の利く勢力は、かの国がどうにも怪しいと睨んでいたが、まさかこう言う行動に出るとは。何を企んでいるのか何も考えていないのか。ともかくパンチの効いた行動ではある。
宣戦布告された国の中には、リマーの友好国も含まれていた。何もなければ援軍を理由に戦力を突っ込んでいたのだろうが。
「現状でどれだけ出せる?」
「500が限度、でしょうな。同じ事をやらかす輩が出ぬともかぎりません」
現にクレンの資源惑星は、謎の勢力に占拠された。これから同じようなことがあちこちで起こる可能性がある。
「個人的には願ったり叶ったりであるが、国の長としてはそうも言ってはおられん。……例の画像解析はどうなっている」
アルコーリクの国内でほぼ常時流されていると言っても良い、政府のプロバカンダPV。リマーではそれが何らかの影響を国民に与えているのではないかとにらみ、解析を行っていた。
「PV自体には何の細工もされていない、との事です。ですが気になる情報が」
「ほう? 何だ」
「アルコーリクの株式市場で、とある音響メーカーの株が上がっております。そのメーカーは政府関係と繋がりが深いようで。御用達と言っても過言ではないようですな」
「なるほど」
レイングの言葉に、王はにやりと笑みを浮かべる。
「あからさまだが乗ってやるか。そのメーカーを洗え。同時に大統領の側近、ブレインの前歴もな」
「御意」
恐らくは洗脳に近い何か。アルコーリクはそれを行っている。その目的が何なのか、未だ不明ではあるが、今回の件をみるにろくでもないことであるのは間違いない。
このタイミングで動いたのは、リマーが多くの援軍を出せぬと判断したからだろうか。それにしても周辺国家丸ごととは剛気である。クレンのように後先を考えていないのか、それとも何か勝算があるのか。現状ではまだ判断がつかない。
「この機を窺っていたのだとは思うが、な」
片肘をつき、鼻を鳴らすトゥール王。恐らくは前々から準備をしていたのだろうと当たりを付ける。となればリマーとクレンの動きを前々から探っていたと言うことだ。いや、それだけではあるまい。
「周辺諸国、いやあるいは人類圏の多くを探っていたのかも知れん。火種が着火しないか、と」
何か、通常とは違う思惑のようなもの。それがある。見えてこないと言うことは、自分の常識にないことを考えていると言うことだと、王は不敵に笑う。
「相手にとって不足なし……とまではいかんが、楽しませてくれそうではないか」
「……調子に乗って足下をすくわれぬように」
「だからオチつけんのやめて」
妙な横槍が入ったが、だからと言ってハイそうですかと戦争が中断するわけではない。
してないはずなんだけど。
「なんでまたうちはパーティー開いてんの」
「リマーに勝ったぞヤッター! って浮かれていますな。何の解決もしていないというのに」
またもや行われているパーティー会場に向かう道すがら、渋面となったヤーティェとラグローは愚痴を言い合っていた。
「ちょっと艦隊を差し向けただけで資源惑星放置とか、世の中舐めてるよね」
「むしろもっと躍起になるかと思ったのですが。ここまで浮き足立つとは私も予想していませんでした」
クレン王の周辺は、リマーとの戦いが勝利に終わったことで浮き足立っていた。資源惑星などすぐさま取り返せると油断しまくっているし、正規軍と義勇兵との間が険悪な空気になりつつあると言うことも耳に入ってこない。このままの勢いならリマーを制圧することも出来ると、あり得ない妄想すらしていた。
ダメなフラグである。ヤーティェとしては正直早々に逃げ出したい気分ではあったが。
「ここで慌てたら最後の最後でしくじることになる。そいつはちょっと面白くないことになるしね」
「縛り首は御免被りますしな。……それで、『例の彼女』ですが」
「裏は取れたかい?」
「は、なかなかのやり手のようですな。単なる教会の信者ではない、あるいは裏に精通した人間なのかも知れません」
「彼女と連盟が何を考えているのか。我々の身の振り方にも関わってくる。慎重に見極めないとな」
「左様ですな。……殿下、そろそろ」
「ああ、我らの戦場へと赴くかね」
会場に足を踏み入れる。欲望が渦巻く、パーティーとは名ばかりの伏魔殿で王子とその腹心は仮面の笑顔を貼り付け、愚物を演じた。
そんな中、ヤーティェに誘いをかけてくるものがいた。
「……少しお話があるのですけれど、お時間をいただいてよろしいですか? 殿下」
ジャネット・ファクティス。星間交易連盟の理事より引き合わされた女は、声を潜めて話を持ちかけてきた。
この女、ある交易商人の娘を自称している。連盟の中でもかなりの力を持つ存在らしい。だがそれだけではないと、ヤーティェたちは察していた。
「それで、話とは何かな?」
人払いをした一室で、ヤーティェはジャネットと対峙する。表面上は馬鹿王子の皮を被ったままだが、その内心は油断なく女を観察している。
にこにこと邪気のなさそうな様子を見せるジャネット。見た目は某はっちゃけ王女と同い年くらいだが、その『中身』ははたしてどうなのか。
「寵愛を得たい、と言うのであれば丁度手空きだ。私の相手をすることを許しても良いが?」
わざとらしく女の肢体に視線を這わせる。見た目は美女。そしてそのスタイルも極上だ。リアルに勝るとも劣らない。ハニートラップであるならば確かにうってつけの人間であった。
ジャネットの反応は。
「ご冗談を。そのような気もないのでしょう?」
くすくすと小さく笑い声を漏らしながら、そう返す。どうやら馬鹿のふりは通用しないらしい。
ヤーティェは鼻を鳴らし、問う。
「ふむ、分かっていて僕に話を持ち込んできたというのであれば、少しは実のある話なんだろうね?」
「ええ、損はさせないお願い……いえ『商談』をしたいと思いまして」
「ほう?」
興味深げなヤーティェの様子に、笑顔のまま続けるジャネット。
「クレン王国からの離脱。お手伝いできれば、と」
いきなりぶっ込んできやがった。驚愕を内心に押し込め、ヤーティェは問うた。
「なぜそう思う? 普通は国の掌握を目指していると考える物だろう」
「絶好の機会だというのに邪魔者の排除に動いていない時点で、国を盗る意思がないと知れます。そして……」
いたずらげにウインク。それは見る者から見れば悪魔の笑みにも見えた。
「クレンの王国の秘宝がいくつか、裏に流れている物があるのを確認いたしました。仮にも国の宝物庫に納められていた物を、秘密裏に持ち出すことが出来るのは限られた者だけでしょう。その上で、国を牛耳るつもりなら簡単に現金化しないのでは? 温存していざというときに切り札にする。そう考えた方が妥当かと」
「なるほどね。……だが僕がやったと断定するのは早いのではないかな。宝物庫には入れるのは、何も王族だけじゃない」
宝物が持ち去られているという事実を否定せず、ヤーティェは言う。
「中身の価値が分かっている者は少ないでしょう? 確認した宝物だけでも、現金化しやすいものばかりが選ばれていました。よほどの目利きが出来る者か、価値を理解しているものでなければ出来ないこと。であれば双方を兼ねた王族こそが持ち出した主犯と考えられますが」
「荒い推測だね。それじゃあ及第点はやれない」
にこやかながらも容赦なく切って捨てるヤーティェ。しかしジャネットは揺るぎもしない。
「ふふ、手強い方。……さすがはリマーの姫君を袖にされただけはありますね。真性の愚か者か、自殺志願者か、詐欺師でなければなせないことでしょう」
「それどれにしてもろくでなしって言ってるね?」
「あら、自覚しているかと思いましたけれど」
やっぱり分かってやってる類いの人間だこの女。所謂誤用の方の確信犯である。推論のみを語っているのはわざとだ。どこまで自分が情報を持っているか、はぐらかして最後までカードを伏せる気満々である。
「……食えないねえ」
「それぐらいでなければ、あなたと相対する資格もないかと」
拒絶するのは簡単だった。だがこの食えない女、ただでは転ぶまい。手折ったあとで手痛いしっぺ返しが来るとみた。なるほど面白いじゃないか。
ヤーティェの酔狂な部分が、鎌首をもたげる。
「ならば聞かせて貰おう。君は一体何を望む?」
その問いに、ジャネットは花もほころぶような笑みで答えた。
「クレン王国が滅びたあとの、この地における教会信仰の布教。私が最初に手を付けたいのはそれです」
しゃらっと急展開。




