その4
K-M1。クレン王国の資源惑星である。その衛星軌道上には、クレン軍の駐留艦隊基地が存在していた。
「ちっ、戦場に行った連中は手柄の立て放題か」
「ぼやくなぼやくな。駄弁ってるだけで給料もらえる楽な仕事だ。命張るよかマシだろ」
駐留し惑星周辺の警備に努めている兵たちは、だらけていた。
彼らは大まかに手柄を立てる機会を奪われ腐っているものと、働く気が無く腐っているものの2つに別れていたが、どちらも働く気が無いので諍いなどは起こっていなかった。 今日も今日とていつものごとくルーティーンとなった作業に従事し、穏やかで退屈な日常を過ごす……とはいかなかった。
突然のアラート。耳障りな警告音と紅い光が荒れ狂う。
「な、なんだあ!?」
「何が起こった! 状況の確認を!」
泡を食って騒ぎ出す兵たち。突然のことに混乱する彼らを余所に、システムは無機質に状況を告げる。
『軌道エレベーター基部にて数カ所の爆発を確認。爆発の規模、反応により、事故ではないと判断されます』
「テロか!? だが軌道エレベーターの監視網に引っかからないはずが……」
そこでさらにレーダから反応が検出される。
「な、しょ、所属不明の艦隊が突如出現!? ばかな、どこから現れた!?」
「星系内でドライブアウトしたとでも言うのか!」
「違うステルスだ! やつら慣性航行でここまで来たんだ!」
突如現れた500を超える艦隊。軌道エレベーターに仕掛けられたテロと同時に現れた脅威は、基地を混乱の渦に叩き込む。
「艦を出せ! 迎撃するんだ!」
「馬鹿を言うな! こっちは100隻もないんだぞ!」
「増援を呼べ! 来るまで持たせろ!」
「軌道エレベーターの隔壁を下ろせ! 下から上がってくるぞ!」
「コントロールが効きません! ハックされている!?」
「DAだ! DAで……」
『高熱現反応。敵艦隊より砲撃があります。シールドを強化。急ぎ防御態勢を取ってください』
「は、反撃を……」
長距離砲撃が、基地を揺るがした。
レジスタンスの蜂起と同時に起こった謎の艦隊の襲撃。
それにより、K-M1は半日で陥落した。
さて、彼方の自国でそのようなことが起こっているとはつゆ知らず、リマー軍と戦っているクレン艦隊は調子に乗っていた。
勝てる。多くの指揮官はそう思い込んでいる。相手の艦隊はろくに反撃をせず後退してばかり。DA戦では健闘しているようだが、所詮は消耗品だ。数ではこちらが上回っているのだし、優位がひっくり返るほどのことではない、と。
完全にリマーの思惑に乗せられていた。そしてそれがゆえのトラブルも生じる。
「我々に後退しろ、と?」
「は、どうやらお偉方も手柄の稼ぎ時だと判断したようですな」
蒼の軍勢艦隊に下された指示。それは後続の艦隊と交代し、後方に下がれというもの。仮面の司令官は、ふうむと鼻を鳴らした。
「乗せられているなあ。だがまあ、我々くらいはしたがってやるさね。……DA部隊は?」
「各部隊は交戦中。エストック隊は例の王女直下の連中とやりあっているようです」
「楽しい遊び相手が出来たようで何よりだ。……【サーベル】と【ダガー】を回せ。頃合いを見て引かせる」
「2部隊もですか。いや、それほどの連中だと」
「うちの人形遣いどもと同レベルの相手だ。生半可な戦力では心許ない」
「ではそのように」
こうして蒼の軍勢は素直に後退することを選択した。だが彼らと同じように行動したのは少数派と言っても良い。
何しろ実際の戦果がないのだ。リマー艦隊は後退しているだけで、ほぼ損害らしきものを出していない。 傭兵などはこのまま下がれば報酬にも響く。そして横柄で身勝手なクレンの指揮官連中に、反感を覚えている者も少なくなかった。
当然……。
「ふざけるな! 後から来て手柄だけ横取りしようと? そうはいくか!」
「我々は雇い主だぞ!? 指示に従え!」
こうなる。良いところまで追い詰めたと思っている傭兵たちと、リマーが逃げ出さないうちに戦果を上げたいクレン正規軍が諍いを始めたのだ。
元々が寄せ集めだ。表面上は取り繕えても、こういうときには互いに本性が出る。競うように前に出ようとしたり、傭兵と正規軍の艦で牽制し合ったりと、統制が乱れ始めた。
通常のリマー軍なら確実にこの隙を突いて食い散らかす。だが彼らはそれをせず、ただ後退を続けるだけだった。理解している者たちは絶対何かの罠だと警戒し、後退してそれとなく距離を取る。躍起になってリマー艦隊を追う大多数と、そういった少数派。明暗はここで分かたれたのかも知れない。
K-M1陥落の話が飛び込んできたのは、そんな最中であった。
突然の話に、指揮官たちは動揺する。しかしながら総司令官は落ち着いた様子でこうのたまった。
「たかだか500。本国に残った戦力で十分対応できよう」
確かにクレン本国に残った艦は2000隻ほど。数だけならK-M1を落とした艦隊を余裕で上回る。
しかし全てが動けるわけではない。本星の防衛にある程度の数は必要だし、K-M1への襲撃は囮で、他に本命があるのかも知れない。迂闊に兵力をつぎ込むわけにはいかなかった。
総司令官はそれを理解していないのか無視しているのか。緊急の連絡だけで帰還命令がないのを良いことに、ギリギリまで粘って手柄を得ようと考えているようだった。
逆に進んで後退した者たちは、これ幸いと撤退を開始した。緊急の知らせを帰還命令だと判断。総司令に具申せず勝手に離脱し始める。
これを総司令も咎めない。撤退したのは少数だ。手柄を逃したければ勝手にすれば良いし、緊急事態を受けて幾ばくかの戦力を先行させたと言い逃れも出来るだろう。それより傭兵どもや配下に手柄を譲ってやるわけにはいかない。折角のチャンスだ。指揮官クラスの首級は上げておきたいと、捕らぬ狸の皮算用で高をくくっていた。
蒼の軍勢は残る側だ。無いとは思うがリマー側が反撃に出る可能性もある。そうなった場合統率の取れていないクレン艦隊はズタボロにされるだろう。それはそれで構わないが、自分たちに責任を押しつけられるのは御免被る。いざというときは殿となって、本隊を逃すつもりだった。
「そんなわけでそろそろ頃合いだ。楽しい遊びの時間はここまでにしておくぞ」
「はっ。各DA部隊に帰還命令を。補給の後再出撃の用意だけ調えておけ」
ここまでだと判断する。リマーは敗戦を装いながらもDA戦力のすり潰しを図った。次の戦いでは苦戦するどころではないだろう。そして恐らくその戦いが決戦となる。
もっともその戦いに参戦するかどうかは、微妙だが。
艦隊からの指示は、各DA部隊に通達される。当然、交戦を続けているエストック隊にも。
「潮時、か。後ろ髪は引かれるが」
心なしか残念そうに呟くノットノウ。それと同時に、閃光が奔る。
蒼の部隊のDA中隊が二つ、援軍として現れたのだ。これには流石のリアルも後退せざるを得ない。
「そろそろ良い時間、というわけですのね。ですがこのまま帰すのも、女が廃るというもの」
銃撃が降り注ぐ中、リアルはランスを一振りして構え直す。ノットノウはその意思を見て取った。
「ふ……困ったお姫様だ」
彼はリアルの正体に確証があるわけではない。だがうすうす見当はついていた。それでいて平気で殺し合いをしてみせるのは流石というか何というか。
ともかく、彼女に付き合ってやる義理はない。だが。
「これで最後かも知れぬとあればなあ」
ノットノウも大剣を構える。
閃光と彼方の爆発を背景に、一瞬の対峙。そして。
2機は同時に宙を駆けた。
交錯は、刹那。
突き込まれたランスに上下から2連撃。衝撃でランスを取りこぼしたところで懐に飛び込み一撃を食らわす――ところで左の腰に備えられていた剣が抜き打たれる。ランスを囮にしたのだと判断するより先に回避行動。
互いの剣は交わることなく、2体はすれ違った。
「「……お見事」」
背中合わせのまま、二人は相手に届かぬ言葉を呟く。そしてそのまま、ノットノウのステュムパリデスは離脱した。
振り返るリアルのトゥルブレンツは追わない。去りゆくノットノウの機体を、エストック隊を見送る。
「よろしいので?」
一区切りついたと見たシャラが、リアルの機体に近寄り問う。
「深追いは禁物よ。惜しいのは確かですけれども」
下手をすれば手痛い目を見せてくれる相手だ。欲をかけば食われてしまうだろう。名残惜しさはあったが、まだ我を忘れるほど理性を失ってはいなかった。
そこへビィとレンがリアルのランスを回収して来る。
「姫様ー、得物を回収してまいりましたー」
ビィの機体が差し出すそれを、リアルは一瞥し言う。
「破棄なさい」
「へ?」
「歪んでいましてよ、それ」
「え!? うそ!?」
慌ててビィはランスを確かめる。散々打ち合ったおかげで外装は傷だらけだが、リアルの言うように歪んでいるようには見えない。しかし。
「……確かに歪みが出ているようです。このまま使えば自壊する恐れがあるかと」
珍しく、本当に珍しくレンがまともに台詞をしゃべる。彼女はこういった目利きや情報分析に関して図抜けた才能を持つ者だ。その彼女が言うのだからほぼ間違いはあるまい。 ふふ、とリアルが笑う。
「本当に惜しいこと。本気を出して倒せるかどうか分からない相手なんて、この先出会えるかしら」
もう二度とあの相手とは戦えないかも知れない。やはり名残惜しいと、リアルは少しの後悔を覚えていた。
いよいよ起きる反乱。
そして一瞬のガチバトル。




