その2
先行したクレン艦隊群とリマー軍の交戦は始まった。
その最中、リマー軍の幾人もが様子がおかしいことに気づく。
「艦隊の動きが鈍い? まるでやる気がないぞ」
DAパイロットの一人がそう呟いた。確かにいつもであれば果敢に敵陣へ攻め込むはずの艦隊が、防戦一方で消極的な戦いを行っている。様子がおかしいどころの騒ぎではなかった。
「ロックバイト中将はこのような戦いをする男だったか? いや、明らかに妙だ。何を考えている」
上の思惑が分からずに、多くの兵は戸惑う。そんな中、上層部の思惑を読み取った者もいた。
「なるほど、負け戦を経験させるという趣向ですのね」
紅いトゥルブレンツを駆る女。リア・リストことリアルである。
実は彼女も上層部の思惑を聞かされていない組であった。聞かされていたらとんでもない行動に出る可能性があると上層部に危惧されたせいだが、勘が良かったためにあまり意味は無かった。艦隊の行動があからさまだったというのもある。
「あとはクレンをだまくらかすというつもりかしら? ふふ、楽しいことになりそう」
くすりと笑いながら、機体を操る。ストライクランスが振るわれ、敵機を一体殴り飛ばした。
窮地に陥れば陥るほど燃える、などとは言わないが、この女状況を歓迎している。なにせ艦隊数だけでこちらを上回り、DAの数もそれに準じている。いくら倒してもおかわりが来る。最高かとか言い出しかねない。
彼女の配下も似たり寄ったりというか。
「姫様……あんなに楽しそうに」(ほろり)
「え? 今の泣くところですか?」
「…………(汗)」
レディメイド隊などは余裕がありまくりだった。リアルが察したことなど、シャラはとうの昔に把握している。上申しなかったのは、リアルなら感付くと確信していたのと、本人はこの状況を歓迎すると見越していたからである。止めろよ。
それはともかく、彼女らのような察しの良い兵を中核にし、リマー軍は応戦している。攻め込むのは消極的だが、反撃は容赦がない。攻め込んだクレン軍のDA部隊は、一部を除いて当たる端から撃破されているように見える。
その例外たるごく一部だが。
「やはり寄せ集めでは消耗させられる一方か。後続が来るまでに大分削られるだろうな」
様子を見ながら射撃と移動を繰り返し、積極的な攻勢を控えているノットノウは呟く。
先行させられた友軍は、多くが傭兵であった。そのために功を焦って突出するものが多かったのだろう。数だけ揃えても練度の差はいかんともしがたい。
艦隊そのものは正面から圧しており、有利に見える。DA部隊を出しにして敵艦隊を封じる形に持っていこうとしているのだ。艦隊の行動に関しては蒼の軍勢が口を挟み関わったからだというのも大きい。ともかく見た目はリマー艦隊に対し優勢となっているようだ。
「さて、本番は後続が来てからだが……む?」
艦隊から通達。それを見てノットノウはヘルメットの下で皮肉げな笑みを浮かべる。
「来たか。さてどうでるリマー」
後続の艦隊。クレン軍の本命と言えるそれが、ついに姿を現したのであった。
「ついにこの時が来た! 待ちかねたぞ!」
艦隊がドライブアウトすると同時に、艦載機が飛び出していく。その中に、オプファーより発艦したスヴァントヴィートの姿がある。
本来であればカーネの役目は艦隊の護衛。前に出ることはない。だが彼は無理を押して上官を説き伏せ、攻撃へと参加している。当然だが僚機は己の配下のみで、他との連携は望めない。無理を押した代償だが、彼は一向に気にしていなかった。
「リア・リスト! かつての借りを、ここで返す!」
彼の心を占めているのは復讐心。雪辱を果たすためだけに今のカーネ・カーマッセは在る。
「中佐、落ち着いてください! 前に出すぎです!」
「私は落ち着いている!」
明らかに落ち着いていない。カーネは艦と情報共有したモニターを血眼になって探る。
「どこだ、どこにいる」
もちろん混迷している戦場で早々簡単に見つかるはずもない。数だけならばリマーを上回っているおかげで、そんなことをする余裕があった。リア(リアル)の姿を探してうろちょろするカーネの小隊を咎めるものはない。皆手柄を立てようと必死であったから。
艦隊戦では優勢を保っているのも油断に拍車をかけている。後続が現れてからリマー艦隊はじりじりと後退しつつあった。一見数に押されているように見える。
いける。クレン軍の多くがそう判断した。
艦隊の司令官たちは配下に攻勢を強めるよう命じる。手柄を望む配下もそれに応え、我先にと前に出ようとする。ただの力任せ。作戦も何もあったものではない。数で上回っているのだ。回り込むなり囲むなり優位を生かす戦術はいくらでもあるのだが、ただ真正面から戦力をぶつけていくだけだった。
リマーも律儀にそれに付き合う。普通だったらもっと無茶苦茶やって、クレン艦隊を引っかき回していたはずだ。優位に目がくらんでそれに感付く者は少ない。
「ほぼダメージを受けていない時点でおかしいと思いそうな物だがな」
分かってる数少ない人物、仮面の司令官は苦笑した。
彼の言うとおり、押し込まれているはずのリマー艦隊は損害を受けているようには見られない。ただ攻撃を控えめにして回避と後退に専念しているだけだ。そもクレン艦隊の攻撃では、リマー軍艦のバリアすら抜けていないように見える。
聡い人間ならこれが何らかの罠である疑いを持つだろう。実際クレン艦隊の中でも攻勢に参加せず状況を見守っているようなものはいた。しかしそれは極少数派。ほとんどのものが釣られているし、青の軍勢自体も釣られているように見せかけている。
恐らくリマー軍ははこのまま押し切られたかのように見せかけて、撤退するのだろう。本気で彼らを叩くのであれば、ここで逃してはいけない。撤退戦を上手くこなすものは相当の将であろう。次に相対することがあれば容赦すまい。叩けるなら今のうちに叩いておかなければならなかった。
だが仮面の指揮官はそれを上申しない。クレン軍が調子に乗って隙が出来るのは、彼らにとっても都合は良いからだ。仕掛けるにしても尻をまくるにしてもやりやすくなる。
このままの流れであれば、この戦いはそう長く続かないだろう。適当に攻め入っている振りをすれば終わる気楽な仕事である。
艦隊にとっては。
「うちのDA部隊はどうなっている」
「は、現在敵DA部隊と交戦中。苦戦、とは言いませんが手こずっているようです」
「やはりな。……無理をさせるな。DAの戦闘は容赦をしてくれんぞ」
ただ敗北を装うだけではすまさないようだ。強かな相手だと、仮面の男は苦笑を浮かべる。
クレン軍のDA部隊は苦戦を強いられていた。
「馬鹿な、エース部隊も投入しているんだぞ!? 数でもこちらが上回っているのに!」
一人のパイロットが悲鳴のような声を上げ、そして撃墜される。
艦隊の攻勢に乗じてリマー軍に攻め入ってみれば、相手のDA部隊は猛反撃を行ってきた。まるで艦隊の有様とは逆な、獰猛とも言える迎撃態勢に、クレン軍DA部隊は一方的とも言える様子で蹂躙されている。
数に任せて1体に挑みかかった複数のDAが、瞬く間に蹴散らかされる。長大な砲を構え艦隊を狙い撃ちにしようとしていた機体が、間合いを詰められ砲を折られ、コクピットに槍を叩き込まれる。クレン軍に名も高いエースが、名もなきパイロットに滅多打ちにされる。まるで悪夢のような光景だった。
練度と機体の差だ。リマー軍はアホじゃねえかというレベルの基礎訓練を行いつつ、海賊や犯罪組織相手に実戦を重ね、その練度は他の勢力より頭一つ抜き出ている。その上で、主力機であるトゥルブレンツは実戦を重ねた上でバージョンアップされ続けてきた、実用重視の堅牢な機体だ。寄せ集めの傭兵や見てくれ重視のクレン軍の機体とは格が違う。
そういった事情もあって、多くのクレン兵が餌食となっていく。阿鼻叫喚の中、ノットノウ率いる蒼の軍勢DA部隊は冷静さを保っていた。
「勝敗にかかわらず、DAの数は削っておこうという腹か。艦隊戦というものがよく分かっている将だ」
DAの本質は対艦攻撃機である。艦隊戦においては艦の数も重要だが、練度の高いDA部隊がどれだけいるかでも大きく勝敗に関わる。リマー軍の戦い方から、ここでクレン艦隊のDAの数を削り、後々有利に運ぼうという意図が見て取れた。
クレン軍ではDA乗りなど消耗品と考えている輩もいる。その一方でエースを気取って悦に入ってる人間も多いが、本質を理解していないものが多くを占めるだろう。この状況がどれだけ危険か、分かっている者は少ないはずだ。
「これは我々も早めにケツをまくる用意をしておいた方が良さそうだ。……だがその前にっ!」
スロットルを開けステュムパリデスを加速させる。そうして彼は、今にも撃墜されそうなクレン軍機の前に割って入り、敵機の攻撃を弾き飛ばす。
「下がれ! ここは私が引き受けた!」
「くっ……すまない……」
這々の体で後退するクレン機を背後に、蒼き機体は己の得物――大剣を模した超振動剣を構える。
「さて、リベンジマッチといこうか」
対峙するのは、長大な槍を備えた紅き機体。
「ふふ、第2ラウンドですのね? 滾りますわ」
黒髪の女が、美しくも凶暴な笑みを浮かべた。
やっと主人公が活躍しそう




