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その3






 クレン王宮。その謁見の間にて、ヤーティェ王子は跪いていた。

 その前には王の玉座。肘を突いた王が、胡乱げな視線を己の息子に向けている。


「ふん、少しは頭が冷えたか?」

「は、己の未熟、恥じ入るばかりです」


 殊勝な態度で答える王子。その様子に冷静さを取り戻したかと王は少しだけ警戒心を解いた。


「それで、汚名を挽回したいとのことだったが?」


 挽回するのは名誉である。分かっていてもそれを指摘する者はいない。物理的に首が飛ぶし。

 ヤーティェもそれに関しては何も言わず、ただ己の希望を述べた。


「此度の戦、その原因は我が愚行。ゆえに己の手で決着を付けるのが筋かと」

「分かっておるではないか。で、どうするつもりだ?」

「1艦隊、お貸しいただきたい。差し違えてでも、リアル姫を討ち取ってご覧に入れましょう」


 リアルが前線に赴いていると言う情報はクレンでも掴んでいる。と言うか大々的にリマーが宣伝している。もっとも指揮を執っていると見せかけて実際は最前線で暴れまくっていたわけだが、その事実を把握しているのは、王宮内ではヤーティェの一派だけだ。

 もちろん王子の言葉は大嘘である。つーかあんなんに挑んだら瞬殺されるわと思っている。ヤーティェは腹黒な策謀家であるが、戦術家ではない。ましてやDAなどド素人も良いところだ。戦いになるはずもなかった。

 そんな王子がなぜ戦場に赴こうとするのか。そんな疑問すら頭に浮かべることなく、シーティェ王は鷹揚さを装って頷く。


「話は分かった。だがすぐにというわけにはいかん。今の軍にお前を編入させれば混乱するであろう。次の()()()()が終わった後、改めてお前を加えることにしよう」


 もっともらしいことを言っているが、実のところ面倒くさいだけだ。適当に「よきにはからえ」と家臣に丸投げするだけなのだが、今は戦いの準備などでごちゃごちゃしているため皆大概忙しい。後回しにされるのは目に見えていた。暇なのは王族と上級貴族だけである。

 そのことが分かっているヤーティェは特に不満を漏らすことなく、殊勝な態度を装ったまま応える。


「承知いたしました。ではそれまでに、我が側に勤めるものを選別しておこうかと思いますが、よろしいでしょうか」

「好きにせよ」

「は、お心遣い、感謝いたします」


 適度に王をおだててから、謁見を済ませる。退出した王子に声をかけるのは、外で控えていたラグロー。


「いかがでしたか?」

「許可は出た。これより早速人員の選別に入る」

「御意に」


 短く交わされる言葉。これは周囲に聞かせるための物だ。実際には人員――クレンを脱するために集った、言わば『同志』はすでに準備を始めている。彼らにとっては大詰めが近い。密やかに、焦らず。しかし確実に事を進めていかねばならない。

 未練も躊躇いも後悔もなく、彼らは進む。振り返ることはない。











 再編成が進むクレン王国艦隊。居並ぶ無数の艦、その一角に巡洋艦オプファーの姿はあった。

 騒然として作業が進むブリッジ。その艦長席に座するのは、 カーネ・カーマッセ中佐である。

 彼は肘を突いた姿勢でホログラムディスプレイに目を通していた。その目つきは鋭く、眉間には皺が寄っている。有り体に言えば非常に機嫌が悪そうだ。

 隣に立っている副官は、そんな上司の様子に内心ため息をはいている。


(……前列に配置されていないのがよほど不服なようだ)


 以前の遭遇戦で不覚を取り、先の会戦の間にはリハビリに努めていたカーネだが、今度の戦いではDA乗りとして最前列に配置されるよう希望していた。しかし蓋を開けてみれば、艦隊の端っこで大して手柄も立てなさそうな位置に配されている。

 理由は大したものではなく、「お前一回負けたやん」(意訳)と上層部が判断し、処遇が決められたからであった。

 屈辱である。ものごっつい屈辱である。敗戦といい上層部の扱いといい、カーネのプライドはいたく刺激されていた。もちろん悪い方向で。

 彼は不機嫌さを隠さないまま、ディスプレイを見る。そこにはリマー軍広報が映し出されていた。国内だけではなく諸外国、それどころか敵国にも閲覧できるのは当然のことだが、クレン王国で真面目に見るのは情報関係を含めて多くない。そしてカーネも多くの記事には興味がなかった。

 彼の目を引いたのは一つだけ。再編成の後公開されたリアル姫の側近、近衛師団第13独立中隊フランローゼが賞与を受けたという情報。


「……リア・リスト……っ!」


 記されていた隊長、特務少佐の名。ぎり、とカーネの歯が噛みしめられる。

 この女こそ己に屈辱を与えてくれた存在だと、カーネは信じて疑わない。まあ実際そうなのだが、まさかリアル本人が偽名を使っているとまでは分からなかった。(分かる方がおかしいが)

 必ず討ち果たす。例えどんな手段を使ってでも。復讐の炎を燃やしながら、カーネは密かに誓う。

 もちろん酷い目に遭うであろう事は確定していた。











 さて、上手いことクレン軍に潜り込んだ蒼の軍勢であるが。


「ふん、当然のように最前列へと回されるか」

「矢面に立てとあからさまに言われていますな」


 仮面の司令官と副官。蒼の軍勢もまたクレン艦隊の一翼を担っていた。しかも最前列。真っ先に接敵するであろう配置である。彼らだけではなく多くの傭兵部隊がそのような扱いをされているようだ。 

 当然手柄を立てさせるものではなく、真っ先に敵とぶつかって消耗させろという意図が丸見えであった。ここまであからさまだと笑えてくる。


「下賤な傭兵風情は消耗品ということだな。連中私とまともに会話するつもりもなさそうだし」

(それは被ってる仮面のせいでは)


 クレン軍関係者や傭兵たちからも微妙に避けられている司令官。さもありなんと副官は思うが、口に出さない賢明さがあった。

 まあ司令官の趣味はどうでもいい。副官は気持ちを切り替えた。


「話は変わりますが、()()()はどうします?」

「インパチェンス・カンパニーとやらの話か。連盟に対して()()()()()()()()()()()()()()、など言うとはね」


 密やかに自分たちに繋ぎを取ってきた、何でも屋的な組織。彼らが持ち込んできたのは、クレン王国内の文化財を()()させるのに、星間交易連盟の力を借りることは出来ないか、というものであった。

 カンパニーに依頼したのは、『文化財の損失を憂う有志』らしい。自分たちを通じて連盟に接触を図りたいようだが、あからさまに怪しい。どう考えても盗品を売りさばくとか、その辺りが狙いだとしか思えなかった。

 しかしそれならば自分たちを仲介にしようとする意図が分からない。連盟に直接言え、というわけではないが、前線に出ている傭兵である自分たちに仲介を頼む必要性はない。


「連盟に繋ぎを取ってもらう……と言う建前で『我々に』接触したかった、と言ったところか」

「恐らくは。戦力として当てにしているのか、それとも……」

「我々の()を当てにしているか、だな」


 蒼の軍勢がメインスポンサーは星間交易連盟であるが、その他のも様々な勢力と関係がある。そういったコネクションを当てにしているのではなかろうかと、司令たちは推測していた。

 ふむ、と指令は考える。今の段階で迂闊な動きは避けるべきだが、自分たちの目的――裏社会カルテルコネクションを潰すという目的のためには、クレン内部に伝が出来るというのは悪くない話である。この会戦の後のことを考えるならば、コンタクトを取ってみるのも一つの手だ。

 しばらく考え、指令は副官に告げた。


「エージェントを通じてカンパニーと繋ぎを取る。奴らの思惑、後々役に立つかも知れん」

「は、了解いたしました」


 頭を下げる副官。さて一体どう転ぶかと、指令は半ば他人事のように思考を巡らす。

 奇妙な仮面に隠された素顔。その表情は窺うことは出来ない。











「……通っちゃったよあんな適当な話で」

「向こうさんも分かってるとは思いますがね」


 クレンにほど近いジャンクションエリア。その官制コロニーの一角に構えた仮事務所にて、ヴィクトリカを筆頭にしたインパチェンス・カンパニーの面々が、ラグローからの依頼について話し合っていた。

 文化財の保護、と言う建前はラグロー側からの指示である。今までも文化財などを()()してきた経歴があり、カンパニーがそれに関わっていることは調べれば分かるはずだ。後は向こうが勝手に判断してくれるという話を、訝しがりながら了承して蒼の軍勢と接触してみれば、意外に向こうも乗り気なようだ。

 恐らくは蒼の軍勢も不審は承知で受け入れたのだと結論づける。彼らが何の目的でクレンに取り入ったかは不明だが(連盟が言う航路の独占など誰も信じてはいない)何かしらクレン内部に用事があるのだとすれば、内側からの手引きは渡りに船と言ったところだろう。

 多少どころか盛大に胡散臭いが、胡散臭いのは蒼の軍勢も同様だ。色々と怪しいところを飲み込んで交渉してくる……というラグローの読み通りの展開になりつつあった。


「こうまで読み通りになると不気味としか言い様がないねえ」

「前の依頼といい、骨董屋の旦那方は何考えてるのか」


 彼女らは未だラグローの正体を知らない。ある程度の推測はしているが、深入りすると面倒なことになりそうなので詳しく探るつもりはなかった。しかしその思惑は分からず、神がかり的な読みを見せつけられると、どうにも落ち着かない。気味が悪いとすら考えてしまう。

 だが金払いはいいし、こちらの無茶も聞いてくれる相手だ。金蔓としては上々、関係を断つのは惜しい。ならば気味の悪さを腹の底に押し込んで、精々愛想良く振る舞おう。ヴィクトリカはそう割り切った。


「とにもかくにもしばらくは蒼の軍勢との交渉だ。向こうも海千山千の強者。ぬかるんじゃないよ」

「「「「「へい」」」」」


 インパチェンス・カンパニーと蒼の軍勢との接触。ヤーティエたちの思惑によって成ったそれは、どのような影響を物語に与えるのだろうか。












ちょっとシリアスな雰囲気の中、変な仮面被ったんが混ざってるシュールな光景。


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