その4
三度のドライブアウト。リマー第五艦隊群からみて左上、少し離れた位置に第四艦隊群が。次いで右下、同じような距離で第三艦隊群が現れる。彼らはそこから、陣形の崩れたクレン艦隊の側面に回り込むように侵攻を開始した。
「次から次へと、これ以上やらせるか! 全艦ともかく撃て! 敵につけいる隙を与えるな!」
クレン艦隊総司令官の無茶ぶりが炸裂する。が、そもそも連携もとれておらず、敵に突撃された程度で混乱し後手に回るような連中に、まともな指示を遂行することが出来るかどうか怪しい物だ。 多少無茶でも分かりやすく誰にでも出来るような指示の方が実行しやすいのは確かであった。
そして無茶苦茶でも何でも、すがれる物があったらすがりたくなるのが追い込まれた者の心理である。結果、でたらめではあるが反撃は開始された。
当たる当たらない以前の問題である無茶苦茶な砲撃。味方を巻き込むことすら厭わない攻撃を、多くの艦が行い始める。全く統率のとれていない、拙い反撃ではあったが、これが逆に功を奏した。
「破れかぶれになったか! 各艦乱数回避。相手はろくに狙いも付けておらん、焦らず対処せよ」
攻勢から回避重視に。統率はとれていないが猛反撃には違いない。むしろ統率がとれていない分読みにくい。優位であったからと慢心すれば、あっさりと撃破されると言うこともあり得た。
リマー軍艦隊の勢いが衰える。それは優位が覆されたからではないが、一時的にも勢いがそがれたことは確かだ。その隙とも言いがたい僅かな間隙を、クレン艦隊総司令は突く。
「損傷を受けた艦は下面から離脱しろ! 自力で航行できないのであれば周囲の艦は救助を! 旗艦艦隊群および第一、第二艦隊群は上面に移動、円陣を組んで全周囲対応の隊型を取る!」
全ての艦が応対できるなどと甘い考えはない。ついてこれる者だけでも集め動かなければ押し切られると判断したのだ。
同時に対応できない者たちは見捨てるしかないと、冷酷なことを考える。自軍が纏まりがないことは分かっていたがここまでとは。この戦い自体が捨て駒だったのではないかという疑いすら、総司令は感じ取っていた。
(参謀本部がエース級DAライダーの派兵をそれとなく禁じたのはこういうことか!)
敵を甘く見ていたのではない。最初から苦戦を予想し戦力を温存する腹だったのかと疑る。もっとも参謀本部の挑発に乗せられ、今回の艦隊編成に口を挟まなかったのは総司令自身であり、その部分は自業自得と言えよう。
ともかく今は現状を嘆き恨み言を漏らしている場合ではない。相手の足が鈍ったこの隙に体勢を立て直さなければ、敗走は必至とみた。
ただ負けて逃げ帰り、降格などの処分を喰らうだけならまだマシと言えよう。下手をすれば一方的な軍事裁判の末、首が落とされるなどと言うこともあり得るというか、そうなる可能性は結構高い。であれば例え敗北したとしても何らかの『手柄』を上げておく必要がある。それこそ艦隊を犠牲にしてでも、だ。
「ありったけのDAを出せ! 敵のDA部隊を迎撃するのだ! 撃墜せずとも構わん、こちらの艦隊に寄せ付けるな!」
「し、しかしこの状況では味方の艦砲射撃に巻き込まれる可能性も……」
「誰が馬鹿正直に真っ向から飛び込めと言った! 迂回させ敵艦隊の側面か背後を突かせろ! それくらいは言われんでもやらせんか!」
DA部隊も使い潰す気満々だった。どうせエースはいないのだ、せいぜい自分たちの命を長らえるために働いてもらおうと、外道な事を考えている。
総司令の強硬な命令に反応できたのは、想定していた8割ほど。のろのろと離脱を開始したり、旗艦艦隊群と共に隊型を整えようとする。艦隊が上下に動き始めたのを見て、リマー軍は対応を始めた。
「第三艦隊群より通達。敵艦隊の薄いところをつき戦力を削る、とのことです」
「第四艦隊群からも同様の通達が届いています。当艦隊はどのように?」
第五艦隊群指令は、制帽の位置を直しながら答えた。
「こっちも同じだ、反応の遅れている連中を叩く。体勢を立て直しつつあるところは放っておけ。敵艦隊の背後に回った連中はどうか」
「敵艦隊の反撃を後退しながら捌いているようです。側面に回り込んだ他の艦隊群と合流させますか?」
「いや、そのまま敵艦隊の背後に張り付かせろ。向こうの戦力を分散させる。各個撃破しながら旗艦艦隊の到着を待つ。本番はそこからだ」
リマー艦隊が揃えば、そこから状況が動く。恐らくは外からの介入によって。それまでにどれだけ戦力を温存しどれだけ相手を削れるか。それで戦況が決定するわけではないが、多少の影響はあろう。
破れかぶれの反撃は、確かに功を奏した。しかしそれはリマー軍の足を留めたに過ぎず、逆転とまではいかない。そしてリマー軍にはまだ戦力が控えている。
双方の砲火が激しさを増し、その中をDAが飛び交う。リマー軍の旗艦艦隊が到着するまでの僅かな間、戦場は一見互角にも見えていた。
やっと迎撃に出てきた敵DAの姿を認め、リアルは鼻を鳴らす。
「あらあら、遅いお出ましですこと」
自分たちで近場の空母を潰しておいてこの言い様である。まあDAならばカタパルトデッキが損傷していても、船外に出られることさえ出来れば自力で発艦できるのだが、それよりも損傷を受けた上えで動ける艦は離脱することを優先したため、先鋒艦隊に対し迎撃に出たDAはほぼいなかった。損傷した艦が戦線を離脱し、やけくそのような反撃が始まってやっと迎撃機が現れたのである。
しかし現れた部隊は統率がとれていなさそうだったり、機種が統一されてなかったりと纏まりがない。恐らくは正規兵ではなく傭兵部隊だ。クレン軍の上の方からけしかけられたのだろう。手柄を立てるため、生き残るため、彼らも必死だ。統率はされていないが、その分練度は正規兵より上だろう。
にぃ、とリアルの唇が歪む。
「少しは歯ごたえがありますかしら? ……フランローゼ1より中隊各機、これより我らは対DA戦闘に移行、迎撃を開始する!」
部下に命じ、機体を翻す。フランローゼ中隊は即応し、彼女に続いた。
「うう、また姫様がぶっ込み始めるよう」
「スコア稼ぎ……ボーナス……ふふふ」
「ふ、このシャラ、地獄の果てまでも姫様のお供をする所存」
レディメイド小隊が随伴、先行する。紅きトゥルブレンツはストライクランスを振り抜き、加速した。
「さあ淑女たち、喰い散らかしますわよ」
そして、いよいよリマー軍旗艦艦隊群が、第二艦隊群を引き連れて現れる。
これまでの戦いで、リマー軍はほぼ損傷を受けていない。対するクレン軍艦隊は、5%以上の損失を受け、現在もそのパーセンテージを増やしつつあった。
数で上回っているにもかかわらず、練度と連携の差で一方的に押されている状態。その上でリマー軍艦隊が勢揃いしたとなれば、勝敗は決したといっても過言ではない。
頃合いだと、ヴィクトリカは見て取った。
「野郎ども、仕事の時間だ! 『デコイ機』と浮遊砲台を起こせ! 手はず通り長距離砲撃を偽装する!」
カンパニーの船に搭載されていたのは、旧世代に使われたデコイ機能を持つ無人偵察機だ。通常のデコイに比べ長時間偽装することが可能だが、デコイユニットに比べ大型で、偽装機構にスペースを取られているため偵察機として不十分な性能しか持たない中途半端な代物だった。そのため廃れていたのだが、今回の仕事のためあちこちから買いたたき、200機ほどを用意したのだった。
これと浮遊砲台を組み合わせ、戦いに介入しようとする艦隊群を装う。これがヴィクトリカの策であった。一当てして撤退するように見せかけるだけならこの程度で十分。後はスポンサーが何とかするのだろう。そこまでは彼女らの知ったことではない。
「砲撃開始と同時にあたしらは撤退する! 忘れ物すんじゃないよ!」
「「「「「アイサー!」」」」」
リマーだかクレンだか知らないが、こちらの策に対応する頃には星の彼方だ。しかし上手く逃れるまでは油断をするつもりはない。艦隊戦の動向を注視しつつ砲撃を命じようとして――
全く別方向から、艦隊戦に向けて砲撃が行われるのを確認した。
「「「「「…………………は?」」」」」
指示を出そうとして手を振り上げたヴィクトリカと手下どもは、揃って目を丸くする。
なんかきた。




