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2 翌朝、巧の家の前はマスコミのカメラによって囲まれていた

 翌朝、巧の家の前はマスコミのカメラによって囲まれていた。

 昨日の時点でこうなることは、何となく予想していたが、予想通りになってしまった。

 クラスメイトの誰かが佐久間巧の名前をSNSで漏らしたか、マスコミに「自分の学校にダイグレイオーがいる」とでも連絡でもしたんだろう……自室の窓から群がるマスコミを眺めながら、巧はそう自分の中で結論付けた。

 

 「ん……? 佐藤さん……?」


 起床して制服に着替えようとした時、巧のスマホが鳴った。両親名義のスマホだ。このスマホの料金だけは両親が払い続けている。 

 電話は佐藤さんからだった。外務省の『バルトロン帝国及びダイグレイオー対策本部』に所属していた、巧の知り合いの若いエリート官僚だ。日本政府の関係者の中では巧に一番年が近く、いつも明るいお兄さんのような人だった。


 「もしもし?」

 「佐久間くん? 久しぶり。朝早くにごめんね」

 「いえ……」

 「それより、大変なことになっちゃったねえ……」

 「すみません、自分がエレナたちを止められなくて……」


 昨日、巧の通う高校に留学生として転校してきた、エレナたち惑星ゼロの英雄である6人の少女たち。彼女たちは地球の人々が全員、巧がダイグレイオーであることを知っていると勘違いしていた。だからいきなり巧に抱きついた。彼女たちに話しかけるクラスメイト達にも「タクミ様はまさに二つの世界の英雄ですよね!」「あるじのハンドパワーってすげーよな!」「実はタクミ殿、運動全般が苦手なようで……」と話した。

 巧がダイグレイオーであることが秘密であることを事前に知っていたら、彼女たちはこんなことはしなかっただろう。


 「あー、いいのいいの、あれは事前にお姫様たちに伝えなかった外務省のミスだから。それよりも外がすごいことになってない?」

 「……なってます」

 「一応、県警に協力を依頼してお家の近くにパトカー呼んでいるから、悪いけどそれに乗ってくれない? ご家族の分も含めて4台呼んでいるから」

 「……すみません、ありがとうございます」


 電話を切り、着替えを済ませた巧は階下の両親に外務省の佐藤さんが護衛のパトカーを呼んでくれていることを伝えた。返事はなかったが、父も母も妹の優花も巧のことを無言で睨みつける。テレビはエレナたち惑星ゼロの王女たちが留学生として地球にやってきていることと、ダイグレイオーの正体が巧であることを告げている。

 マスコミに家の周りを取り囲まれたのを巧のせいだと思い、相当ご立腹のようだ。 

 

 「……行ってきます」


 巧は逃げるように家を出た。マスコミが雪崩のように迫り寄ってくる。


 「あなたが佐久間巧さんですか?」

 「ダイグレイオーについて一言!」

 「グレイボーグはあなただったんですか?」

 「グレイボーグに変身してもらえませんか?」

 

 巧はたくさんのカメラのフラッシュをかばんで防ぎ、記者の執拗な追及を避けながら、マスコミをかき分けるようにして前に進む。コアバードを呼んで本当にグレイボーグになって強行突破しようかとも思ったが、グレイブレスがない今、それもできない。グレイブレスは地球に帰還した後、悪用されないように自衛隊の中村隊長に預けた。現在は防衛省本省の地下深くで厳重に封印されている。


 「佐久間くん!」

 「佐藤さん?」


 巧を呼ぶ大きな声がした。声の方に顔を向けると、さっき電話をかけてきた外務省の佐藤さんがパトカーの中から手を振っている。


 「なんで佐藤さんがここに……?」

 「とにかくこっちだ!」

 「は、はい!」


 言われるがまま、巧は群がるマスコミを押しのけて逃げるように佐藤さんが用意したパトカーに乗り込んだ。


 「発車してください!」


 佐藤さんの指示で、パトカーは走り出す。

 巧はどうにかマスコミの取材攻勢から抜け出すことができた。

 

 「いやあ、災難だったね」

 「ありがとうございます……佐藤さん……」


 巧はぐったりしていた。グレイボーグの時には何度もマスコミに取り囲まれていたが、ここまで疲れることはなかった。生身で受けるマスコミの取材攻勢がここまで苛烈なものだとは思いもしなかった。


 「ああ、そうだ、佐久間くん。防衛省からこれを預かってきたよ」


 佐藤さんはそう言うと、銀色のアタッシュケースを取り出して開ける。

 その中には自衛隊の中村隊長に預け、厳重な封印が施されたはずのコントロールブレスレット・グレイブレスが入っていた。

 

 「グレイブレス……! どうして……?」

 「君の護身用だよ。もしかすると、君やお姫様たちを狙ったテロが起こる可能性がある。だからその時には、グレイボーグやグレイロボで撃退してもらえると助かるかな。あ、グレイオーXやダイグレイオーにはならないでね? 街が壊滅するから」


 バルトロン帝国の脅威を退けたダイグレイオーの活躍は地球でも惑星ゼロでも賞賛されている。しかし、同時にその活躍を快く思わない者も少なからずいるのも事実だった。その中には佐藤さんが言うように、テロに走る危険性がある集団もあった。

 巧はグレイブレスを左手首に巻いた。これで巧は『データ人間』としての能力をすべて使うことができる。半年前に、亜空間に封印したグレイシステムを再起動することができる。グレイボーグ、グレイロボに合体することも、使わないだろうがグレイオーXを介して再びダイグレイオーになることもできる。

 等身大のグレイボーグや全高12mのグレイロボであれば、テロリストを制圧することは簡単だろう。それに伴う批判も大きいだろうが。


 「……そういえば、エレナたちは今どこに住んでいるんですか?」

 「あれ? 聞いてないの?」

 「昨日はエレナたちクラスのみんなに取り囲まれていたんで……」


 日本国内にそれぞれの国の臨時亡命政府を設立したエレナたちは、連日テレビやネットでバルトロン帝国の脅威を訴え続けた。新聞や雑誌の取材にも積極的に応じ、バルトロン帝国の脅威が急速に日本国内に知れ渡ることになった。しかし同時に、人類史上初の宇宙人との接触や、彼女たちのファンタジー世界の出身者にしか見えない容姿も大きな話題になった。

 エレナたちに話しかけた巧のクラスメイトたちのほとんどは、いきなりやって来た有名人に興味本位で群がった者だった。彼ら彼女らに取り囲まれていたため、昨日巧はエレナたちと話すことはできなかった。


 「そうなんだ……お姫様たちは今は近くのホテルに滞在しているけど、近々引っ越すつもりだよ。お姫様たちの要望は、シェアハウスのような物件だけど、警備の関係でねえ……」

 「あいつらなら警備なしでも大丈夫でしょう?」

 「そうはいかないよ。お姫様たちは惑星ゼロの主要国の要人なんだから……」


 巧が佐藤さんと話しているうちに、パトカーは駅前を通り、巧の朝食を買うためコンビニで停まり、坂道を登り、高校の校門前に着いた。

 校門にいつもの生徒会の人たちはいなかった。代わりに先生方が立っている。そして校門の前の道路は、大量のマスコミによって陣取られていた。巧の家の前と同じくらいの数のマスコミ関係者がいる。

 巧は覚悟を決めてパトカーから降りた。すぐに先生たちが、マスコミから巧を守るように取り囲む。巧は先生たちにガードされながら、校舎の中に入った。

 校舎の中に入った巧は、そのまま校長室に移動させられる。

 校長室には校長先生の他に、教頭先生と担任の坂田先生、2年の学年主任の先生と生徒指導の先生もいた。


 「まさか、君がダイグレイオーだったとはねえ……」

 「すみません。自分がダイグレイオーであることは国家機密だったので……」


 校長先生が大きなため息をつく。巧はひたすら謝ることしかできない。

 

 「いや、君が謝ることはないよ。君は地球と惑星ゼロを守ったんだろう? そこは自信を持っていいと思います。ただ、君の正体が世間に周知されてしまった以上、君を取り囲む環境は激変すると思います」


 校長先生は――いや、校長先生だけじゃない。先生方はみんな、巧のことを心配していることが分かった。


 「――どうか周りの環境に流されることなく、君自身を見失わないでください。私からは以上です。ところで……」


 校長先生の視線が左手首のグレイブレスに移る。


 「これは、何だね?」

 「グレイブレス……ダイグレイオーやグレイボーグに合体するための道具です」

 

 校長先生の動きが一瞬フリーズする。


 「……かなり危ないものだと思うんだけど、なんで今日身に着けてきたかな?」

 「防衛省で封印してあったのですが、今朝、外務省の人に護身用として返却されました」

 「そうか……先生方、これはどうしますか?」


 校長先生は校長室内の先生たちに意見を求める。学校にいるときは職員室で預かるという意見も出たが、預かることで逆に巧の身に危険が及ぶ可能性があるという意見も出て、まとまらない。しかもゲーム機やマンガとは違い、このグレイブレスは巧の話を聞く限り国家機密レベルの危険物だ。職員室でそんなものを預かってよいのか?


 「……とりあえず、今日は保留にしましょう。佐久間君、そのグレイブレスは緊急時以外には絶対に使わないように。いいね?」

 「はい」


 暫定的に、条件付きでグレイブレスを校内で着用することを認められた巧は、ようやく教室に向かうことができた。

 無言で教室に入る。今日も巧に声をかける者はいない。

 だが、窓から校門を取り囲むマスコミを眺めていたクラスメイト達は、巧が入ってくると同時に一斉に視線を向けた。いつもとは違うその注目の視線に、巧はたじろぐ。なんとかクラスメイト達の視線に耐えながら、巧は自分の席に着いた。今日は何も置かれていない。それ以上に落ち着かない。

 

 「…………どうした?」


 クラスメイトの視線に耐えかね、巧は口を開いた。クラスメイト達はわずかに目をそらし、何も言わない。ただジロジロと巧の方を見ている。


 「……佐久間くん、本当に君がダイグレイオーなの?」


 ようやく、一人の女子が重い口を開いて巧に尋ねた。学級委員の本郷だ。

 巧は本郷の質問にしばらく頭を抱えて、大きなため息をついた後、ゆっくりと口を開いた。


 「そうだ……俺がダイグレイオーのコアだ」


 悩んだが、巧はクラスメイト達に自分がダイグレイオーの正体であると認めた。巧の言葉に、たちまちクラスメイト達がざわつく。スマホを取り出して巧の写真を撮り始める者や紙とペンを取り出し「頼む、サインくれ!」と迫る者も現れる。


 「おい待てよ……ありえねーだろうが!」


 その時、いつも巧をいじめている川野がいきなり大声で叫んだ。巧にサインを求めるクラスメイトたちを押しのけ、巧の胸ぐらをつかんで乱暴に立ち上がらせる。


 「ちょっと、川野くん! 佐久間くんは地球を救った英雄なのよ!」

 「うるせえ! こんな暗くて、弱っちいオタク野郎が宇宙人と戦っていたとか嘘だろ!」


 本郷が川野を止めようとするが、川野は聞く耳を持たない。


 「おら! お前が! 本当に! ダイグレイオー! なら! 戦ってみろよ! ああ?」


 川野は巧の顔面を殴り倒し、さらに腹に連続で蹴りを入れる。いつもより乱暴で怒りの感情がこもっている。見ているだけでも痛々しい光景だが、巧は抵抗しない。 


 「川野……止めとこう、な?」

 「そうだよ……佐久間は俺たちを守ってくれたんだぜ?」

 「俺の弟、ダイグレイオーのファンなんだよ……」


 いつもは川野と一緒に巧を集団リンチしている取り巻きも、川野を止めようとする。だが川野は止まらない。


 「お前ら目覚ませよ! こんな奴が英雄扱いされるとか、おかしいだろ! こいつがダイグレイオーなんてのは詐欺だよ!」

 「いやでも、王女様たちと親しいし……助けられたとか、恩人だとか言っていたし……」

 「……おい、佐久間! お前王女様たちに何を吹き込んだんだ!」


 川野は巧の顎を踏みつけ、大声で怒鳴る。

 

 「別に……なにも吹き込んでいない。エレナも、ヴィンも、ミミも、セネカも、フレイアも、タノアも、みんな俺の大事な仲間……」

 「おがああああああっ!」


 意味にならない大きな声を上げて巧の言葉を遮り、川野はサッカーボールを蹴り飛ばすように巧を蹴り飛ばした。女子からは悲鳴が上がり、男子は川野を落ち着かせようと声をかける。

 その時、教室の後ろのドアが開いた。


 「おはようございます……みなさん、これは一体こういう状況ですか?」


 金髪碧眼の少女・エレナの凛とした声が教室内に響き渡る。

 いつの間にか登校してきたエレナ、ヴィン、ミミ、セネカ、フレイア、タノアの6人が教室に入ってきた。

 彼女たちの視線は床に倒れた巧に向けられた。

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