第13話:赤狸亭
『赤狸亭』のドアを開けると、「いらっしゃいませ!宿泊の方ですか?」と可愛い女の子の声がした。
声がした方を振り向くと、今の自分と同じぐらいの身長の女の子がいた。
一見普通の女の子に見えるが、よく見ると女の子の頭には2つの耳が付いていて、触り心地の良さそうな尻尾もある。
「はい……って獣人……?」
「はい!私は狐族なんですよ!」
神界から獣人のことを見ることはあったが、生で見るのは初めてだ。
間近で見ると、いかに尻尾がふわふわしているのかよく分かる。
初めて生で見た獣人に興奮していると、心配そうに声をかけられた。
「大丈夫ですか?」
「あ、初めて獣人の方を見て……」
「へぇ~珍しいですね!どこか遠い所から来られたんですか?」
「そうですね……それなりに遠い所から来ました」
神界が遠いのは間違ってないよな……
「獣人がいない様な所があるんですか……私も行ってみたいです!」
そう言って女の子は小さく笑う。俺はその間尻尾に釘付けだった。女の子が喋る度に尻尾がファサファサと揺れている。
どうしてもモフりたい衝動にかられて、思わず、
「あの、1回だけ……尻尾を触らせてもらえませんか?」と口走った。
「え、し、尻尾ですか!?」
すると女の子の顔が真っ赤に染まる。
もしかしたら獣人の人にとって尻尾を触らせてほしいということは禁句だったのかもしれない。
俺は慌てて一言つけ加える。
「あ、嫌ならいいんですけど……」
その一言に納得したのか、
「そういえば、獣人を初めて見たんですもんね……」と呟いた。
「実は私達狐族にとって尻尾を触られるということは、求愛されることを意味しているんです……」
女の子がモジモジしながら言う。
「え、あ、すみません!別にそんな意味は無いんですけど……」
まさか、そんな意味があったとは。もう少し勉強してから下界に降りた方が良かったかもしれない。
「あ、はい。勿論わかっています(……まぁ別に触ってくれてもいいんですけど……)」
「え?なんか言いました?」
「い、いえ!何でもないです!今の一言は忘れて下さい!」
女の子の顔が真っ赤に染まった。どうしたんだろう?
「?ところで宿泊したいんですけど……」
「あ、そうでしたね!何日間泊まられますか?」
「二日で」
「了解しました!料金は銅貨20枚です!」
俺は《収納》から支払った。
「はい、ぴったりですね!うちの宿は朝ご飯と夜ご飯は無料でついてきます。昼は無いので各自食べて下さいね。こちらが部屋のカギです!」
女の子から鍵を受け取って部屋に行こうとすると後ろから艶めかしい女性の声がした。
そう、普通の女性の声なんだが……何故だろう。寒気がする。
恐る恐る後ろを振り返ってみると、フリフリのワンピースを着た……筋肉ムキムキの男性が体をクネクネさせながらこちらを見ていた。
受付の女の子が男性を見て「亭主!」と呼んでいたので、あの人が亭主なんだろう。
恐らく俺の方を見ている気がする。
案の定、「可愛い男の子じゃな~い!」という声が聞こえてきた。今この空間に男の子は自分しかいないので確定だ。
見た目とは裏腹な男性の艶めかしい声に思わずぞっとしてしまう。
周りの人達には見慣れた光景なのか、どこか哀れんだような目で見られた。
身の危険を感じたので、俺は素早く女の子から鍵を受け取って、急いで部屋に行った。
部屋は一人用にしてはそこそこ広く、設備も整っていてきれいだった。亭主はあんな感じだったが、普通の部屋だったのでホッとした。さっきモナさんの言っていた理由がわかった気がする。
窓の近くに置いてある大きめのベッドにダイブした。ベッドにダイブしたことで一気に疲れの波が押し寄せてきたのか、段々瞼が重くなってきた。
☆
コンコン、というドアのノック音で目が覚めた。
自分に用がある人なんてそういないと思うが、誰だろう。
恐る恐るドアを開けると、受付の女の子がいた。亭主がいなくて少し安心した。
「夜ご飯の時間なので、連絡しに来ました!」
「ああ、今行きます」
女の子に案内されて食堂に行くと既に沢山の人がいた。
適当に椅子に座り、近くにいた店員さんに声をかける。
「今日のオススメってあります?」
「今日は美味しい魚が沢山入荷してきたので、焼き魚定食がオススメです!」
「じゃあ、それで」
「かしこまりました!」
店員さんが厨房に行ってからしばらくすると焼き魚定食が運ばれてきた。
だけど量が多い気がする。頼んでもいないのにカレーやらハンバーグやらが付いてきた。
これ、絶対焼き魚定食じゃない。最早焼き魚が脇役になっている。全ての定食のメインを詰め込んだかの様なボリュームだ。
周りを見渡しても自分だけ明らかに量がおかしい。他の人達は一食なのに、自分だけ三食分ぐらいの量だ。
気になったので店員さんを呼んだ。
「なんか多くないですか?」
「あ、それは多分……」
店員さんが言いかけた時、向こうから筋肉ムキムキの男性が手を振りながら内股で走ってきた。
言わずもがな亭主だ。
自分ではないことを祈ったが、思い虚しく隣に座ってきた。
「可愛いから沢山作っちゃった!ちゃんと食べてねっ!」
どうやら亭主の仕業だったらしい。道理でおかしいと思った。
しかしそんなにキラキラした目で見つめられるととても食べづらい。
亭主は困惑した様子に気づいたのか
「あ、お金は取らないから安心してね!私のことは気にしないで食べて食べて~」と言ってきた。
何を言っても亭主は退かない気がするので、諦めて食べることにした。
食べている途中、酔っ払った冒険者らしき男性が絡んできたので困っていた所、亭主が助けてくれた。その時は亭主がいてくれてありがたかった。
ただ、先程までの色気のある女性の声が嘘のように、ドスの効いた男の声で冒険者を担いで何処かに行くと、何事も無かったかの様に帰ってきたので少し引いた。
ちなみに亭主に担がれた後の冒険者は完全に酔いが醒めた様で、死んだ魚の様な目をしていた。
……ご愁傷さまです。
とまぁ、色々あったが、結局ご飯は全て食べた。
今日は昼ごはんを食べ損ねてお腹が空いていたうえに、どれも美味しかったので、案外ペロリと食べれた。
「見た目によらず沢山食べるのねっ!可愛いっ!」
食べ終わった瞬間亭主が抱きついてこようとしたので透かさず避けた。
あの力で抱かれたらもう逃げられない気がする。
「もう避けないでよ~」
「そりゃ、避けます!亭主というより不審者じゃないですか」
何だかんだ夜御飯を食べながら亭主と話していたので、軽口を言えるぐらいには仲良くなった。
「そんなこと言われたら夜、部屋に行って襲っちゃうわよ」
「絶対やめて下さい。亭主が言うと現実味溢れるんで」
「私亭主だから各部屋の合鍵持ってるのよね~」
「本当に来たら洒落になんないです」
「フフッ、冗談よ。寝息を聞くぐらいしかしないわ」
それでも充分怖い。
今日は結界を張って寝た方がいいかもな。
この人なら本当に夜這いしてくる可能性がある。
朝起きたら筋肉ムキムキの男性が隣で寝ているなんて最悪すぎる。
亭主から逃げるように部屋に行き、やりたいことを済ませた後、強力な防音結界を張って寝た。
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