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【花】


世の中にはたまに物珍しいことが起こるらしい。でも、それは時代が変わればいつかは普通のことになるはずなんだ。

念動力とか、未来予知とか、透視能力とか、そういったのも受け入れられる日がーー


「来たとして、俺はどうするかな」










暑い。真っ赤に燃える太陽が俺を焦がすぜ。焦がすぜ、だからもう今日は事務所にいることにした。

俺の名前は江守 正吉(えもり しょうきち)、しがない探偵さ。いやしがないだけにとどまらねぇ、金もねぇ。借部屋に作った俺の事務所もあと2ヶ月家賃を払えなきゃ、追い出されちまう。それなのに依頼はでかいの来ねえし、夏の暑さで死にそうだ。


「チクショウ……あぁ、道端に100万くらい落ちてねぇかなー」


依頼こねぇし、本当に探しに行っちまうか。エアコンもとうとう壊れちまって外にいようが中にいようが関係ねえし、どうすっかなぁ。


「すいませ〜ん、ここ、探偵屋さんですか?」


こういうのを最近じゃフラグ成立とか言うんだったかな。まだまだ俺だって若いのによ、ナウでヤングなスラングには疎いぜ。


「探偵屋さんなんて言うやつ初めて聞いたぜ。で、お前は俺が暑さにやられて見てる幻覚かなんかか?」


「うわぁ……あっ、すいません。私ネッシージャーナルの石川 美沙(いしかわ みさ)と申します。こちら名刺です」


この化け物級の猛暑にいけしゃあしゃあと黒いスーツを着こなし、肩がけバックを持っている女。おかっぱ頭に丸メガネが光って、学校によくいる真面目な優等生キャラに見えるが、こいつの言ったネッシージャーナルはUMAとかESPとかそういった類の物を馬鹿みたいに追っかけてる端的にやばいオカルト雑誌社だ。

それに前年度には遺跡発掘の際に出てきた骨や土器のやらせまで発覚して完全に信用を失ってる詐欺ジャーナル。ネッシージャーナルを信じる奴はオレオレ詐欺に引っかかりやすいなんていう皮肉までネットで有名になっちまうようなマジのキナ臭い会社の犬を俺は相手にするのかよ。


「今よぉ、名刺するかねすらないから手書きでいいか?」


渡された名刺に黒マッキーの極太で江守の2文字を濃く書いて、そのままそっくり返す。


「ちょ、なんてこと!」


石川が慌てた調子で俺から自分の名刺を奪い返そうとするが時すでに遅し。極太マッキーのインク量と裏写りの良さはやはり天下一品。やつの名前が表から見てもわからなくなっている。


「そんで?ネッシージャーナルの記者様が探偵に何の用だよ」


「ぐぅ……私達は今、巷で取りざたされてるバースデーキラーについて書いてるんです」


最近は本当に横文字ばっかりだなぁ……タピオカとかBUBGとか、エレキ○ル連合とか、全部まとめてアメリカ横町にでも置いてきたいところだ。


「バースデーキラーね……なんだそりゃ。誕生日のやつを殺す殺人鬼ってか?」


あてずっぽうの豆鉄砲で俺が適当なことを口走ると、石川は眼鏡の奥のクリクリした黒い双眸を輝かせて鼻息荒くしゃべりだした。


「そうです、そうなんです!今年の6月7日から始まった連続殺人事件、最初に殺されたのは6月7日生まれで当日誕生日だった会社員の男。現場付近には【birthday】の血文字!第2の事件は3日後に行われ、今度は6月10日生まれの無職の男が殺されて」


「そして、現場にはまた血文字が……そんなのが今に至るまで続いてるのか?」


連続殺人で共通性のある事件といえば現場の状況が一貫していること。今回はその【ばーすでい】の血文字とやらと誕生日の被害者が印なんだろう。


「はい、3日周期で無差別に誕生日を迎えた人間をピンポイントで殺していく正に謎の殺人鬼!」


「そんで今日は……6月14日か。あと2日後にまた誰か殺されるってことだな。じゃあなんだ?その殺人鬼の正体を俺に暴いてほしいっていう依頼か?そんなの絶対受けないからな!」


受けない受けない。

俺の商売は猫探しとか探し人とかの簡単かつ安全な物しか相手にしねえんだ。そりゃ、昔はMIBみたいに黒スーツを着てスペースガンとかエレクトロバイオメカニカルニュートラルトランスミッティングゼロシナプスレポジショナーとか使ってみたいとか思ってたぜ。

だが、それは昔の話だ。昔は昔。人は進化したり成長したりする生き物だ。こんな案件扱えるか。


「成功報酬300万出します!もし正体がわからなくても20万出します!それでどうでしょう?」


「俺は成功報酬しか受けとらねぇ主義だ。だからこの依頼、成功報酬2倍にするなら絶対に見つけてやるよ」


600万あれば家賃代が払えるだけじゃねえな。今度こそちゃんとした部屋を借りるじゃなくて買える。そうなりゃ、あの嫌味っ面の大家ともおさらばだ!


「そんな大きく行って大丈夫ですか?」


「探偵なめんなよ、こちとらこれ一本で食ってきてんだ。しかも捜索なんて俺の1番の得意分野じゃねえか。俄然やる気がでてきたぜ」


「そ、そうですか。それは心強い」


「てなわけでだ。お前は成功報酬600万の首を洗って待ってろ」


「600万の首ってなんですか……あ、それと、私も同行しますよ?これ取材なんで、上が一応プロの探偵を雇ったことにしろ、そっちの方が信憑性が高まるっていうから頼んでいるだけで」


ネッシージャーナルのくせに今更信憑性を気にしてるのかよ。


「結局俺なんかには見つけらんねぇとか思ってるわけだな。いいぜ、お前もお前の上司も開いた口がふさがらねえようにしてやるよ」


「それ頼もしいですね、それじゃあ早速取材といきましょうか」


「おっし、やる気出てきた。夏場だが外出るか。600万、600万〜」


600万をこいつらは本当に払うことはできなかったら、どうしてやろうかな。少なくとも300万はせしめてやる。


「見つけられたらですからねー!」


いや、見つけるさ。









【❹ガつ二Ⅴ日】【一Ⅱ月ジュウ7ニち】【八がッⅣカ】【1月二⑺ヒ】【Ⅴがつ一⑧二ち】【3ガツ⒈四にチ】【ⅷ月3壱ニチ】


人の頭の上に数字が浮かぶ。大きさも表記方法もマチマチで登校の道の真っ只中ではとてもではないが1つ1つの判別ができないはずだが、俺の能力ならば全ての数列を正しく認識できる。

さてさて、獲物探しタイムと参るか。


「サトくん!おはよう!」


ッチ


「うん、おはよう」


こいつは3月3日か。女子だから縁起がいいな。人の縁起が分かるだけで、占いも予知もできないなんて意味のない能力だなんて思ってたのに役に立つ日が来るとは。


「ねぇねぇ、サトくん。 いつもの誕生日当てやってよ!」


「え〜仕方ないなぁ。誰の誕生日を当てるの?」


知ってどうするっての。宴会芸にすらならないのにいきなり強要とかしてきたときは本気で殺そうかとも考えたんだからな?


「今お前誕生日っつったか?」


【①ガつ❹日】

なんだこいつ?


「だ、だれですかあなた?」


ボサボサの頭、青ヒゲ、ブラウンコート、探偵っぽい?、目つき悪い。それに相方はおかっぱの眼鏡女も侍らせてる。なんだこいつら?


「なに〜?とうとうサトくんにテレビのお仕事?」


誕生日を当てるだけの能力に取材もなにもあったもんじゃない。第一目立たないし、地味だから。予知とか念動力とかどうして俺にはメジャーな才能が開花しなかったのか。こんな能力あってもなくても生きていけるし、使い道だって少ない。それを踏まえれば、こいつらは俺目当てじゃないことくらい容易だ。


「ちょっと、江守さん!なにやってるんですか、さっさと最初の現場行きますよ!」


「ん?OKだ。坊主、デートの邪魔して悪かったな。」


「いや、そういうんじゃ……」


そう言ってフラフラとどこかに向かっていく二人組の背中はすぐそこの横断歩道の向こう側に遠退き、車によってかき消された。

人の恋路を邪魔する奴は許せないが、人に恋路をもたらそうとする奴は単純に嫌いだ。


「わ、私たちって……やっぱり、そう見えるのかな?」


「それはない」







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