第4章 幼馴染
俺には幼馴染がいた。
「ヒカリ」という女の子だ。
俺とヒカリは隣同士であり、小学校から大学までずっと一緒だった。
互いに成績トップを譲らず、常に同じくらいの評価を取り続け、性別は違えど、俺たちはライバル関係にあったと思う。
俺が優秀でいられたのも、恐らくはヒカリがいたからだろう。
そんな彼女が、誇らしく、妬ましく、そして、好きだった。
高校の卒業式の日、一度、ヒカリに告白したことがあった。
今まで、ライバルとして、競い合ってきたけど、これからは共に生きていこうと。
しかし、予想に反してヒカリの返事はNOだった。
理由は明かしてくれなかった。
これからもライバルでい続けようということなのか?
そう思っていたが、どうやら違うみたいだ。
なぜなら、大学卒業後は、お互い別の道を歩むことになったからだ。
この話の続きは後日にするとして、なぜこんな話をしたかというと、この世界にも「ヒカリ」が現れたからだ。
こっちの世界でも、俺とヒカリは小学校から知り合った。
俺は幼稚園を首席で卒園し、特待生枠として小学校に進学した。
そして、もう一人の特待生がヒカリだった。
家こそ隣りではなかったものの、現実と似たシチュエーションに遭遇し、俺は昔を思い出して感極まった。
…………。
しかし、それは俺が知るヒカリとは少し異なっていた。
秀才であることは変わらない。
性格も、俺がよく知るヒカリにそっくりだった。
俺と違って周りに気配りができるし、誰とでも仲良くなれそうな雰囲気を醸し出している。
ヒカリは人前で焦ったり切羽詰まったりするような振る舞いを一切見せず、常に物腰柔らかな気風を感じさせていた。
その辺は、元の世界でも、この世界でも、あまり変わらぬように見えた。
…………。
この「実力主義」の世界で?
俺は見てきたはずだ。
競争に敗れた者たちの末路を。
あの惨状を知っているのなら、誰でも生き残るために必死に努力するはずだ。
そのような必死さが微塵も感じられず、他人の世話をあくせく焼いているなんて、逆におかしい。
そう、つまるところ、ヒカリはこの世界の実力主義社会においても、努力が必要にないほど「天才」だったのだ。
他人が1、2時間かけて理解する内容を、ヒカリは家事の片手間に数秒で理解できる。
数回、数十回と暗記して覚えていられるような量を、ヒカリは1回の学習で完璧に記憶していられる。
俺の前世の記憶が霞むくらい、ヒカリに「幸運にも」与えられた能力は絶大なものだった。
これだけでも、十分すぎるほどの神からのギフトであるが、ヒカリに与えられたのはその才覚だけではなかった。
環境。
ヒカリの両親は、子供の育て方が非常に上手だった。
ヒカリが様々な物事に興味を持てるよう適切に誘導し、学習に係る労力や投資を厭わない。
俺の父親は、試験の成績に基づいて子供を叱咤激励はするけども、子供の点数に一喜一憂するなど、正直誰でもできる。
ヒカリの両親のように、ここまで踏み込んだ教育を施せるのは、なかなか出来たものではないだろう。
ヒカリ自身の才能、そして周りの環境による後押しは、俺を学年最強の座から退かせた。
…………。
自身の才能、そして家庭環境などは、運に依るところが非常に大きい。
そして、運の良し悪しは、この実力主義の世界では顕著な差を生じさせる。
事実、俺も前世の記憶がなければ、ここまで生き残っていたかどうかはわからない。
赤ん坊の頃の努力なんてたかが知れている。
運に恵まれなかった者は、この世界では生き延びる術がない。
…この、ヒカリとの出会いは、後に俺に「実力主義」の是非を考えさせるきっかけとなる。