第2話 誕生
異世界に転生した俺は、赤ん坊だった。
ちょうど、母親と思われる人間から摘出された瞬間が、俺の異世界生活の始まりだった。
赤ん坊なのに、意思がはっきりしているのは、不思議な感覚だ。
前世での知識、記憶ははっきりとしていたから、周りが誰で、何を話しているかは朧げながら理解していた。
父親らしき人間がいないのは不自然だったが、俺が想像している出産シーンと概ね違いはなかった。
実は、この世界に転生する直前に、この世界の神のような奴と話をする機会があった。
まあ、異世界転生ものではお約束なイベントだと思うが。
そいつに、この世界は俺が望んだ「実力主義」の世界であることを聞いた。
残念ながら、ありがちなチート能力付与なんかは無かったが、前世での知能を引き継げるのは良かった。
これがあれば、少なくとも始めの頃は他より優位に立てるので、実力主義の世界ではかなり有効だろう。
そして、冒頭の出産シーンに至る。
俺は、この世界で何を成すべきか、どのように生きていくかを夢想していた。
…………。
そのうち、母親が俺に近寄ってきた。
何人目かはわからないが、念願の我が子だ。
これから感動の抱擁シーンが待っているんだろう、
と予想した俺の考えは甘かった。
母親は俺を殴打し始めたのだ。
不思議な光景だったと思う。
自身が必死に産んだ子供を殴りつけているのだ。
しかも、周りの助産師たちがそれを止める気配はない。
最初、俺はネグレクトの気を疑ったが、どうやらそうではなかったらしい。
なぜなら、その後母親が耳を疑う台詞を吐いたからだ。
「いいかい、あんたは私がいなければこんなに無力なんだ。だから、これからはアタシの言う事に絶対に逆らうな。もし反抗すれば、すぐに殺してやるからね。」
…………。
…そう。
ここは「実力主義」の世界。
それは親子の関係でも例外ではない。
俺がまだ赤ん坊でうまく動かないことをいいことに、この女は無力の我が子をボコ殴りにし、鬼の首を取ったように勝利宣言をする。
そして、この世界ではそれが平然と行われる。
いや、それが正義であるのだ。
でなければ、この世界を生き残ることはできないのだろう。
かくして、俺の異世界生活は、実の母親に殴打されて全身を真っ赤に腫らしたところから始まった。