第1章 実力主義社会への旅立ち
こんなはずではなかった。
有名大学、大学院へとコマを進め、最終的には大手の製薬企業へと入社することができた。
敷かれたレールを順風満帆に進み、誰もが憧れるであろう超有名企業に内定を貰い、今後40年間ほど働き続けるであろう環境を最高の形で決定づけた。
誰がどうみても、これ以上ないくらいの成功例であろう。事実、親や友達は俺の就活結果を絶賛していたし、何より俺も大満足していた。
…しかし、「不運」にも、俺の配属先は想像を絶するほど劣悪な職場であったことが、後にわかった。
俺たちのチームでは、「リーダー」と呼ばれる人間が一人いて、それ以外はリーダーの手足として行動している。
俺たちの任務は研究開発であって、すなわち知能労働のはずなのだが、実際に知能を発揮しているのはリーダーただ一人である。
…いや、実際には俺らも水面下であれこれ考え、時にはリーダーに改善を提案したりするのだが、これは基本的に却下される。
頻繁に行われる会議、のようなものも、実際にはリーダーからの鶴の一声が全てであり、俺たちには提案の余地も存在しない。
…思えば、学校におけるクラスや、大学の研究室なんかも、これに該当するかもしれない。
担任の教師や教授の言うことに従い、それに反抗すれば内申点が下がり今後のキャリアに影響を与える。
まあ、リーダーが有能ならそれでも問題ないのだが、しかし、俺が有能だと思ったリーダーはこれまで存在しない。
どいつもこいつも、歳だけは無駄にとっていて、肝心の中身はまるで成熟していない。
俺たちのリーダーは、しょっちゅう重役出勤してくるし、事前に提出した会議資料には目も通してこないし、かといえばこちらのミスには過剰に反応する。
会議での指示は曖昧で、期限の決め方もテキトーだ。
リーダーからの無茶振りに対応するために休日返上で働き、何とか揃えた成果を次の会議で侮辱される。
報われない毎日に精神を侵されたメンバーは休みがちになるか辞めるかし、そのしわ寄せは進捗の低下に繋がる。
予定通りに事が進まなくなり、その原因は俺たちにあると風潮する。
自分の管理力を棚に上げてな。
それにも関わらず、年齢だけは高いもんだから、俺よりも遥かに上回る給料を貰っているらしい。
こんな無能が俺たちの人生を握る立場にいて、この会社はそれを良しとしている。
なんだ、超一流と言われる企業も所詮はこの程度か。
この国の年功序列問題は以前からにわかに囁かれていたが、実際に被害者になろうとは、経験してみるまでは想像もしていなかった。
…………。
…狂ってる。
実力に見合わぬ立場を享受できないこの世界は狂っている!
本来、リーダーのような人間は社会から追放されるべきであり、俺たちのように実際に働ける人材こそ上に立つべきなのだ。
しかし、この世界では上司の顔色を伺うことでしか生き残る事ができない。
上司を打倒するための力がこの世界では得ることが難しい。
無能な上司を駆逐するための力が欲しい…。
それを成すことができる世界が欲しい…。
真に実力を有する人間が生き残ることができる世界が欲しい…!
…………。
………。
……。
…。
そんなことを日頃から考えていた俺に、ある日、異世界転生の機会が訪れた。
「実力主義」の世界への転生の機会が…。