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とある見習い魔術師の受難  作者: オレオレオ
第2章 入学編のようなもの
9/21

入学式での受難 後

毎日更新してる人凄いなって実感しています。

つらみ...

サブタイ、変更しました

 カインは入学式に出席していた。壇上には偉い立場らしき人物が長々と話をしている。カインは欠伸を噛み殺しながら睡魔と格闘する。朝が早かったのと話が長いせいでカインのまぶたは半分ほど落ちかけていた。目をこすりながら周りを見るとカインと同じか、既に眠ってしまう生徒もいた。カインもこのまま寝てしまうかと思っていると、急に周りがざわめき出す。何事かと思うと、壇上に一人の生徒が上がっていくのが見えた。

 カインがよく目を凝らすと、その生徒に見覚えを感じた。人混みの中でぶつかった少女であった。


「あの人、学院の生徒だったのか」


 カインは周りに聞こえないほどの声で呟く。少女は壇上に上がると、先程まで長話をしていた中年の男性の前に立つ。


「ノグドル様いささか長話が過ぎるのでは?新入生も退屈していますわ」


「これはこれは、メルフィー様ではございませんか! そちらこそお言葉ですが、人が話している最中に壇上に上がるのは些か礼儀がなっていないのでは? 第一杖がそんな事では下の者に示しがつきませんぞ」


「確かにそうね。でも、流石にあなたの自慢話に付き合うのはウンザリですもの。ここにいる生徒は貴方の自尊心を満たすために集まったわけではないの。これ以上無駄話で時間を浪費するのならさっさと壇上から降りて下さいませんか?」


 ノグドルと呼ばれた男は顔を真っ赤にするが、周りの状況を察してか分が悪いと判断して壇上から降りてズカズカと足音を立てながら会場を去って行った。壇上に残ったメルフィーと呼ばれていた女子生徒はマイクの前に立つと話を始める。


「まずは皆さん申し訳ございませんでした、お見苦しいところお見せして。ルートヴィッヒ魔術学院第一じょう、メルフィー=エルドリエです。進行の方には申し訳ないのですが、丁度次は私の話す番なのでこのまま話をさせていただきます。本日は.....」


 そのまま話し始めるメルフィーを見ながら、カインは学院第一杖という言葉に疑問を覚えるが生憎近くにレイスはいないので隣の男子に話しかけようとするが、咄嗟にそれを我慢する。声を出すと女だとバレてしまうからだ。幻影は姿を変えることは出来るが声は変えらない。カインがそのことに気付いたのは会場に入った後だったのでどうする事もできなかった。そんな聞くに聞けないもどかしい状況に耐えていると、メルフィーの話が終わって、学園長の挨拶に移る。わざわざ壇上に上がって長話を止めるだけあってメルフィーの話は簡潔であっさりと終わった。長話ですっかり疲れてしまった生徒たちにとってはとてもありがたかっただろう。

 だが、次の学院長の挨拶ではノグドルほどではないにせよ、長話が続くことになった。カインは無心になって話を聞いていると、アグリットの口から驚くような言葉が発せられる。


「最後に、ここにいる殆どの者は中等部から上がってきた者でしょうが、それに加え、今年も高等科から新たに特待生として入学するものが数名います。その中でも特別特待生として一人、入学する者を紹介したいと思います。カイン君、壇上まで来て下さい」


 アグリットの言葉に生徒たちはざわめき始める。


「特別特待生だと? そんなやつ今までいたか?」


「いったいどんな奴なんだ?」


 カインは冷や汗を垂らしながら、アグリットに何をしてくれるんだと視線を向ける。しかし、アグリットはそんなカインの視線をどこ吹く風のように受け流す。周りの生徒は誰だ、だの何処にいるの、などと益々ざわめきが強くなる。必死にカインは空気と化そうとするが、先程声を掛けようとした男子生徒に声を掛けられる。


「そういえばお前、見かけない顔だな?」


 男子生徒の言葉に一斉に周りの生徒がカインの方を向く。カインは助けて!といった表情でレイスの方を見ると、関わりたくないといった様子でサッと視線を逸らされる。そんなカインを見て、アグリットは笑いながら声を掛ける。


「どうやらばれてしまったようねカイン君、大人しく壇上に上がってきなさい」


 カインは仕方なく壇上へと上がっていく。周りの奇異な視線にカインは非常に胃が痛くなる。重い足取りでなんとか壇上へ上がると、アグリットが説明を始める。


「まず特別特待生について説明しましょう。特別特待生には普通の特待生の学費免除に加え、一切の授業の免除、そして学院内の施設使用の自由化が認められます。


 アグリットの言葉に生徒は勿論、職員まで再びざわめき出す。また当人であるカイン自身も、最後の施設の自由化については聞かされてなかったので驚きの表情をする。そんなの無茶苦茶だ、だのあいつは一体何者なんだだのと様々な声が飛び交う中、アグリットの「静粛に!」という一言で会場が一気に静まり返る。


「皆さんが驚く理由もよく分かります。これほどの権限をの持つ生徒は学院十魔杖にもいません。生徒の持つ権限を大きく逸脱している事は間違いないでしょう。それなのになぜ、彼にそこまでの権限を与えるのか、それはカイン君があの十魔杖の一人、モーリス=リトルニアの弟子だからなのです」


 カインがモーリスの弟子だということを説明した途端、再度、場内がざわめく。しかし、前回と違って今度は生徒、特に教員の様子が違っていた。教員の大半、特に年齢が上の者は皆顔を青ざめ、中には「狂喜の魔女の再来だ!」と言って震えだす者さえいた。生徒の多くは、教師のその反応に不気味がり、困惑していた。残りの一部はカインが本当に弟子なのかどうか疑わしい、といった表情をしていた。


 カインはそんな異常な光景に、更に胃が痛くなるのを感じた。また、教師の様子を見て、モーリスが過去に何をやらかしたのか、益々師匠に対しての謎が深まっていくのだった。

 そんな周りの状況などいざ知らず、アグリットは話を続ける。


「勿論モーリスの弟子だから、というのは理由の一つに過ぎません。彼の実力も考慮した上での決定です。とは言え、不審がる者もいると多いと思います。ですので、彼と決闘して勝てた者は彼と同じ権限を与える事にします!」


 その言葉に会場が一気に湧き上がる。急にカインを見る目がギラついたものへと変わっていく。

 当のカインは幻影の表情を操作してポーカーフェイスを保っていた。内心では学院長に多大な悪感情を抱きつつ、この状況が早く終わらないかと祈り続けていると、それを察してか、アグリットが最悪な形で話を終わりに持っていこうとする。


「それでは、最後にカイン君から一言もらってお終いにしましょう」


 カインは今日一番の焦りを感じた。周りの生徒はカインが何を話すのか全員耳を傾けている。ノグドルの時と違って寝ている生徒は一人もいなかった。

 カインはどうしようと頭を悩ませる。ここまで一言も発さずにいたのに、ここで声を出してしまったら入学初日で女だという事がバレてしまう。それだけはなんとか避けたいカインだったがいい案が思いつかず、アグリットの方へ視線を向ける。

 どうにかしてください!というカインの視線の意図が伝わったのか、アグリットはなるほどといった表情をする。カインはその様子を見てホッと内心安心するが、やはり最後までカインの期待を打ち砕くような言葉をアグリットは発する。


「ああ、なるほど! お前らに話すことなど何もないというわけね! 自分と話したいなら、決闘で自分を納得させるような力を見せてみろと、さすがカイン君ね!」


 場内が今日一番の湧き上がりを見せた。そこら彼処からカインに対して、「調子に乗るな!」や「ぶっ潰してやる!」などといった罵詈雑言をカインへ浴びせる。カインはこの原因を作ったアグリットを見ると、口角を少し釣り上げ、近くで見ないと分からない様にニヤついているのが分かった。カインはそれを見て、この状況が完全に謀られたものだという事にやっと気づくのだった。


「謀りましたね、学院長」


「はて、何のことかしら」


 カインは入学式終了後、学院長室に来ていた。イマジネーションの魔術は既に解かれ、女の姿に戻っていた。カインは来て早々アグリットに問い詰めるが、笑顔でとぼけられる。カインは溜まりに溜まった悪感情のせいか拳を握り締め、思わず殴りそうになるが相手が相手なのでグッと堪え、追及を続ける。


「とぼけないでください! 朝僕達の行動理由を簡単に当てる貴方があんなに察しの悪いわけないじゃないですか! それに、明らかに僕にとって都合の悪い様に事を進めてましたよね。ちゃんと理由を説明してください!」


「...貴方には都合が悪くても、他にとっては都合がいいのよ」


「どういう事ですか?」


 カインはアグリットの言葉に訝しむ。今の言葉はカインを他の者の都合のいい様に利用したと言っている様なものだ。アグリットは溜息をついて説明を始めた。


「ここ十数年間でね、魔術師の腕が全体的に落ちている事は知ってる?」


「いいえ」


「まあ、知らないのも仕方ないわね。モーリスからの話じゃ箱入り状態だったみたいだし。それじゃ一から説明するわね。魔術師の腕が落ちている原因は貴族が原因なの。貴族に魔力持ちが多いのは知っているわよね、それがどうしてか分かる?」


「いいえ」


 カインは首を横に振る。貴族に魔力持ちが多いことは知っていたが、その理由までは知らなかった。だが考えて見ればおかしい事に気づく。元々魔力を持つ事自体が稀なのに、それが貴族に多いのは不自然だ。そんなカインの疑問に答えるようにアグリットが説明し始める。


「貴族に魔力持ちが多いのではなく、魔力持ちが貴族になっていったのよ。元々この国は魔術師によって作られた国だったの。だから当然、魔術師が貴族に多くなる。そして貴族は基本的に同じ貴族同士で結婚するでしょう?だから結果的に魔術師の血が濃くなって魔力持ちが多く生まれる。これが理由よ」


「成る程、でもそれと魔術師の腕の低下にどんな関係が?」


「魔術師の殆どが貴族階級なせいで、選民意識が強くなっていたのよ。自分達は選ばれた人間だってね。結果、魔術を特別なもの、崇高なモノだと勘違いするもので溢れかえって、あの魔術は優雅ではないからとか言う理由で切り捨てる様なバカが増えてしまっているのよ」


 嘆かわしいと溜息をつくアグリット。カインは師匠が旅立つ前に言っていた言葉を思い出していた。師匠の言葉の意味はこういう事だったのかとカインは理解する。それと同時にカインは別の疑問が

 頭に浮かんだ。


「学院長はさっき、ここ十数年とおっしゃっていましたが、その前はどうだったんですか?」


「その前からこういう事はちょくちょくあったわよ、モーリスの名前が出た時、教員の一部が顔を青くしていたでしょう。あれはモーリスが学園で教師をしていた時の生徒よ」


 カインは師匠が過去に教師をしていたことに驚く。しかし、カインはどこか納得する様な表情をした。自分が初めての弟子だと言う割に教え方が異常に上手かったり、普段はズボラなくせに、カインに教える時だけ、妙に手際が良いのだ。


「弟子は初めてでも教えるのは初めてじゃなかったって事か...」


 カインは独り言の様に小さくボソッと呟いた。アグリットはそのことに気づく事なく、説明を続ける。


「モーリスが教師になった時もそういった現状があったみたいで、最初は苦労してたみたいだったけど、段々とそういった風潮が減っていたのよ。最後までどうやったのかは教えてくれなかったけどね。それが教師たちが青ざめていた理由よ」


 一体何をしたのか、知りたい様な知りたくない様な半々の状態にカインはなる。


「そんな感じで、上の世代はモーリスのお陰で更正出来たのだけれど、若い世代がね、またそういった風潮に流されちゃって魔術師の腕が落ちてきているの」


「理由は分かりましたが、入学式のアレがどう関係するんですか?」


 魔術師の腕が落ちてきている理由は分かったが、それと入学式の件がカインにはまだうまく繋がらなかった。アグリットはカインの疑問に真剣な表情をして答える。


「カイン君にはね、特待生達のために矢面に立って欲しいの」


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