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とある見習い魔術師の受難  作者: オレオレオ
第2章 入学編のようなもの
8/21

入学式での受難 前

作者はその場の勢いとノリで書いているので、説明不足やおかしな部分が出てくるかと思います。

何かございましたら遠慮なくお申し付けください。

「起きてください、起きてくださいってば」


  カインが目を覚ますと、目の前には少女の顔があった。寝起きで頭が回っていないせいか、起きたら美少女が自分の顔をのぞいているという状況にカインは直感的に再び目を閉じる。


「何もう一回寝ようとしてるんですか」


 そう言いながらレイスはカインのデコを小突く。カインは急なデコに痛みに目を開けて額に手を当てる。


「目は覚めましたか?」


「あれ、夢じゃない?」


「成る程、もう一発必要なようですね」


 カインは右手に力を込めるレイスを見てギョッとする。


「今起きました!だからその右手をしまってください!!」


 カインの必死の懇願にレイスは溜息をついて右手を下ろす。カインはそのことにホッとしつつ、窓を見るとまだ起きるのには少し早い時間だという事に気付く。


「まだ起きるのには早くないですか? もう少し寝て...いえ、なんでもないです!」


 カインはレイスの鋭い眼差しに言いかけた言葉を飲み込む。カインはレイスをよく見ると既に学院の制服姿なのに気付く。


「どうしてもう制服を?」


「私だって女の子ですから、着替え姿を覗かれたくありません」


 カインはレイスの発言に意外だと感じた。すると表情に出ていたのかレイスはむすっとした様子で言葉を続ける。


「何を思ったのかは知りませんが、私だって恥じらいくらい持ち合わせています」


 そう言ってレイスは二段ベッドの上から降りる。カインは朝からやってしまったと思いながら、自身もベッドから降りる。

 カインは昨日、女子寮の三階の角の部屋109号室に案内され荷物整理などをして、一日を過ごした。食事は部屋にある小さな簡易キッチンのようなものでレイスが作ったサンドイッチを食べた。本当なら女子寮の食堂に行く事も出来たのだが、いろんな意味でお腹いっぱいだったカインを気遣ってレイスが意外にも提案したのだった。カインは昨日半日過ごして、レイスが意外と面倒見の良い性格だということを知った。最初こそ無言で気まずかったが、たまに話す一言二言に、カインを気遣うような部分が伝わってきた。カインもそれが分かって段々と気後れする事が減っていった。

 悪い子ではないけど表情にでなさすぎるんだよなぁとカインは思いつつ、制服へ着替えようとすると、レイスとの視線が合う。


「あの、着替えづらいんですが....」


「お構いなく」


「いや、構いますよ! なんなんですか一体!」


 カインが抗議すると、レイスは斜め下を向きながらボソリと理由を呟く。


「貴方の身体に興味があるのよ」


 カインはその言葉にギョッとして身体を隠す。背筋にぞくりと悪寒が走る。そんなカインの行動にレイスは慌てて弁明する。


「勘違いしないで! 私が気になるのはモーリス様の薬の被験体となった貴方の身体です」


「被験体って... ていうかモーリス様って、師匠のことを知っているんですか?」


「あなた何も知らないのね、弟子のくせに」


 カインにレイスの溜息交じりの言葉が胸に刺さる。胸を押さえるカインに仕方なしとばかりにレイスは説明を始める。


  「モーリス様は十魔杖じゅうまじょうの第三じょう、通称<薬学の始祖>又は、<狂喜の魔女>と呼ばれているのよ」


「すいません、十魔杖って何ですか?」


 着替えながら尋ねるカインの言葉にレイスは頭を抱える。


「まずそこからなのね...十魔杖っていうのは国に貢献した十人の魔術師のことよ。モーリス様はその第三杖、実力だけでなく、研究者として様々な薬品を創り出したり、改良したりして薬学の発展に大きく貢献した人物よ」

 

 カインは師匠の凄さに感動しつつ、一つの疑問を口にする。


「<薬学の始祖>っていうのは分かるんですが、<狂喜の魔女>ってどういう事ですか?」


「研究の為ならどんな危険な場所や魔物でも嬉々として向かって行くからだそうよ。調合に必要な材料を得るために、竜の群れと戦ったという噂が流れるほどだから」


「そ、そっかー、師匠っていろんな意味ですごかったんだねー」


 竜どころか龍と知り合いだということを知っているカインは、思わず片言になりながら驚いた風に取り繕う。急に変になったカインにレイスは不審な視線を送るが、カインは制服にいそいそと着替えながら誤魔化すかのように話を逸らす。


「それで師匠と僕の身体に何が関係あるの?」


「昨日寮に来た時にも言ったけど、私にもメリットがあるって言ったでしょ」


 カインは正直なところ、あまりよく覚えていなかった。寮に来た当初はレイスに言われた忠告、もとい脅しに完全に萎縮していて記憶が曖昧だった。そんなカインのことはつゆ知らず、レイスは話を続ける。


「私はね、モーリス様のようになりたいの」


「<狂喜の魔女>に?」


「違う! <薬学の始祖>と呼ばれたようによ。あなたは知らないだろうけど、性転換ポーションは製造方法が非公開なの。というか、モーリス様の創り出した物の大半はそうなのだけど、そんな謎の薬の被験体が近くにいるのよ! 一緒に生活すればモーリス様の知識の一欠片でも分かるかもしれないじゃない!」


 レイスは興奮した様子で語る。カインはその姿を見て、普段の (もっとも出会ったのは昨日からだが)無表情が嘘みたいだと思う。カインは気圧されながらもレイスに質問を投げかける。


「そんなに薬学が好きなら普通に研究者や薬師になればよかったんじゃ」


「言ったでしょう、モーリス様のようになりたいって。私は魔術も好きなのよ、幸い魔力も持っていたしね。魔術師を目指さない理由はないわ」


 ちゃんと夢があるんだなとカインはレイスを感じた。師匠に勧められてここに来たカインと違って、明確な意思を持つレイスのことがカインには輝かしく見えた。


「あなたの着替えも終わったし、アグリお爺様の所に向かいましょう」


「え、こんなに早くから?朝食も摂ってないのに」


「これ以上時間が遅れたら、他の寮生が起きてきちゃうじゃないですか。貴方は一応体調不良で休むって事になっているんだから、見つかったら大変でしょ?」


 なるほど、とカインは納得する。病弱設定の自分が、朝から出掛けて入学式に来ていない事がバレたら、怪しまれる事間違いなしだなとカインは思った。レイスがいるため完全に浮く事はないとは思うが、他にも友人は欲しいと思うカインだった。

 カインは自分の代わりに色々と考えてくれているレインに感謝しつつ、二人で寮を静かに抜け出すのだった。



 寮を抜け出した二人は誰にも見られる事なく学院長室まで来ていた。扉をノックすると直ぐにどうぞと返事が返ってきたので中へと入る。


「「失礼します」」


 二人が同時に言って入るとソファに座って紅茶を飲むアグリットがいた。


「あら、早いのね。他の生徒にバレないようにするためかしら。よく考えたわね、レイス」


 この時間に来た理由を完璧に見抜かれて、驚いた表情をするカインとは裏腹に苦々しい表情のレイスを見てアグリットは苦笑する。


「まあそんな顔してないで二人とも、こちらに座って」


 そう言われて二人はアグリットの向かい側へ座る。二人が座ると一人の老執事が紅茶を配る。二人は彼に驚きつつも礼を言うと、アグリットが老執事の紹介をする。


「彼はカイゼル、私の専属執事よ。悪いけど三人分の朝食を持ってきてくれる?」


 アグリットが彼にそう頼むと、かしこまりましたと言って部屋から出て行く。


「彼は信頼できるから、気を張らなくても大丈夫よカイン君」


 カインはアグリットにそう言われ、ふぅと息を吐く。急に見知らぬ者が現れたので、慌てて女の子モードに切り替えていたのだ。疲れを覚えるカインはこんなんで一日もつのかと不安を覚える。


「あまり、気を張り過ぎない方がですよ。逆に不自然です」


 レイスに指摘されそんなものかとカインは考える。

 それから、たわいない話を三人でしていると、カイゼルが朝食を運んできたのでそのまま頂くことになった。


「え?学院長も十魔杖の一人だったんですか!」


「ええ、一応第五杖なのよ」


 カインは驚いていた。まさか、身近に十魔杖が二人もいるとは思っていなかったのである。そんなカインへレイスが補足をつける。


「アグリお爺様は<幻惑の魔術師>、又は<傾国の魔女>と呼ばれているんです」


「レイス、昨日も...というかいつもそうだけど、お爺様じゃなくてお婆様でしょ。まあお姉様でも良いのだけれど」


 レイスはアグリットの言葉を無視するかのように食後の緑茶を飲む。アグリットはその様子を見てムスッとした様子でカインに話しかける。


「もう、アーノルド家の人間は皆んな私のことをお爺様って呼ぶのよ。男の姿の私を知っている子なんて殆どいないはずなのに」


 偉大な祖先が性転換している事実は受け入れ難いだろうとカインは苦笑しつつ、レイスの言葉に疑問を抱く。<幻惑の魔術師>はイミテーションの魔法などから想像出来たが、<傾国の魔女>という不安要素の塊のような言葉にカインはアグリットに恐る恐る尋ねる。


「あの学院長、<傾国の魔女>というのは...」


 カインのその質問にアグリットは笑いながら答える。


「ああ、それは私が公爵家の当主の座を譲って宮廷魔術師になった頃にね、当時の王太子の魔術教師になった事があったのよ。それでほら、その年頃の男子って身近にいるお姉さんに恋しちゃう事があるじゃない?

 王太子もそんな感じで私にご執心みたいな事になっちゃって、彼が王に就任してからもずっと口説かれていたのよ。酷い時には公務そっちのけでね、それで付いたあだ名が<傾国の魔女>ってわけ」

 

「公爵家の中では黒歴史扱いですよ」


 笑いながら説明するアグリットに、隣に座るレイスは溜息を漏らしながら言う。カインは愛想笑いをしながら、同情する。カインは王太子の気持ちも分からないわけではなかった。恋した美女が殆ど変わらない容姿でずっといるのだ。例え元男だとしても執着する理由もわかる。


「話はこれくらいにしてそろそろイミテーションをかけましょう、私はカイン君の男の姿を知らないから魔力制御はカイン君がやってね。私が魔術を発動したら、幻影に想像するイメージを送る感じでお願い」


「分かりました」


 カインとアグリットは立ち上がって互いに正面に立つとまずアグリットが詠唱を唱え始める。


「幻影よ、我に纏い、現世の姿を惑わせたまえ」


 カインの身体に幻影が纏わりつく、それをカインは男の姿のイメージ通りに変えていく。幻影が完全に定着すると、そこには黒髪短髪の少年、男のカインが立っていた。


「これが男のカイン、あんなに美少女だったのに男の方は...なんか平凡ですね」


「平凡で悪かったですね」


 レイスの言葉にさらっと返答するカインだったが内心少し傷つく。アグリットはカインの姿を見て少し物足りないといった表情をしていた。


「うーん、特別特待生で入学する訳だからもうちょっと印象が強い方が良いのよね。カイン君ちょっとごめんね」


 アグリットはそう言って、幻影を操作する。どうするつもりだとカインは思ったが、意外と直ぐに操作は終わる。カインは一体どう弄られたんだと思い、備え付けの鏡の前に立つ。


「髪が長くなってる?」


「髪を少し伸ばしてみたの、中性的な顔立ちだし、何よりそっちの方が魔術師っぽいわよ」


「うん確かにそっちの方がいい、短髪だと村人って感じが強かったし」


 カインの髪は伸びて後ろで一つにまとめられていた。他に変化はないようなので、変えたのは髪の毛だけのようだ。


「こんなに髪を伸ばしたのは初めてです、幻影ですけど」


「あら、そうなの?そっちの方が似合っているわよ」


 カインは褒められ、少し顔を赤らめる。


「それじゃ、そろそろ入学式が始まるし向かいましょう」


 レイスの一言でカインとレイスは学院長に朝食の礼を述べ、学院長室を後にするのだった。



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