就任
色々と忙しくて更新が出来ませんでした。これからもスローペースですがボチボチ投稿続ける予定です
「ん、おはよう...」
「おはようございます」
カインはベッドから体を起こしてレイスに挨拶をする。
大浴場での一件から一週間が経った。
あの後、レイスの虫を見る様な視線で尋問された末、三日程ろくに口を聞いてもらえなかったカインだったが、アグリットからの「男の子なら仕方ないわ」の一言でなんとか口を聞いてくれる様になったのが二日前だ。
もっともレイスはまだ許してはいないといった様子だが。
なおアグリットはまた脅しの材料が増えたというような様子で悪い笑みを浮かべていた。
そんな精神的にこってりと絞られたカインは、この数日で二度としないと心に誓うのだった。
「さあ、早く準備をしてくださいカインさん」
今日は学院十魔杖の就任初めての顔合わせの日だ。
学院十魔杖が一同に集まる日という事でカインとして登校する日なのである。
カインは早めに寮を出るためいそいそと準備をしていたが、そこで部屋のカーテンが掛かったままな事に気づく。
朝が早いといっても既に日が出ている、既に起きて着替えを済ませているレイスが何故開けないのか不思議に思い、カインはカーテンを開け、窓の外を覗く。
「うわぁ.....」
「この時期は毎年こうだそうですよ。良かったですね、カインさんはこんなことにならずに済んで」
「本当にすいませんでした.....。反省してるんでそろそろ許して....」
「何か言いましたか、変態」
「ぐっ!」
カインは変態呼ばわりに胸を痛めつつ、窓の外の現状に男として同情するのだった。
窓の外には女子寮に侵入しようと試みた、複数の男子生徒の無残な姿があった.....
*
「もうそんな時期なのね、早いわねぇ」
アグリットとカインはソファで向かい合って紅茶を飲んでいた。
既に変身と声変わりの薬は使用済みだ。
ちなみにレイスはここにはいない。
寮でアインが休みだという事をカローナたちに伝えるために残っている。
「あれ、毎年なんですか?」
「恒例行事みたいなものね、一年生に上級生が命令するのよ。貴族と特待生のどちらが先に女子寮に侵入できるかって。男子寮では毎年中立派がそれで賭け事をして儲かっているわよ」
「知っているなら何で取り締まらないんですか...、万が一侵入されたら一大事でしょう」
「貴方がそれを言うの?変態さん?」
「ぐっ! 勘弁してください学院長、レイスに朝から言われたばかりなんです...」
「まだそんな態度なのね、あの子。まあ大丈夫よ、何だかんだ許してはいるけど、引っ込みがつかなくなっているだけよ。あとは単純に貴方に反省してほしいかでしょうね」
「そうだと良いんですけど...」
「そうよ、あの子不器用だもの」
カインは心配そうにしているのを見て、アグリットは苦笑する。
やはり元男としてはどちらの気持ちも理解できるためか、カインにも多少優しい。
脅しの材料に使わないかは別だが。
「寮に関しては一度だって侵入を許したことはないし問題ないわ、伊達に鉄壁の要塞なんて呼ばれてないわよ」
女子寮には様々な侵入者用の罠が仕掛けられている。暮らしている女子生徒や管理している者たちでさえ全て把握できていないほどに。
これは毎年侵入者対策のため数を増やしていったのが原因らしいのだが、それが結果として男子生徒を無残な姿に変えているのだった。
「そうですか、でも賭け事は学院としてはどうなんですか?」
「カイン君は真面目ね、それに関しては私も一枚噛んでるから見逃しているの」
「おい学院長」
「いいのよ、昔から続いてる事だしあまり規制し過ぎても良い事ないわ」
カインはそういうものなのかと頭を悩ませる。
カインはずっと田舎暮らしだったためか、そういったことに関して疎い。
「言ったでしょう、恒例行事の様なものだって。男子生徒だって本当に侵入出来るだなんて思ってないわ。
要は度胸試しよ、新入生歓迎の意味を込めたね」
「嫌な歓迎の仕方ですね」
「あら、この年頃の男子はそんなものでしょう?
カイン君は合法的に女子寮に入れているからアレでしょうけど、男の子は女子寮を花園だと勘違いしがち じゃない?」
確かに、とカインは思った。自分も初めは淡い期待を抱いていた、最もすぐに幻想は打ち砕かれたが。
「この前のカイン君の様に桃源郷を夢見て一年生は侵入を試みるの、そして上級生たちはそれを見て、青かった頃の自分たちを思い出すのよ」
「要するに自分達が体験した事を新入生にも味合わせたいと」
「そういう事ね!」
くだらなすぎる、とカインは思うが、先日の自分も同じ様なものか、と自分の男の部分を感じるのだった。
*
カインとレイスは合流し、とある教室の前に立っていた。
<学院十魔杖会議室>
その名の通り、学院十魔杖が集まって会議をする場所である。
二人はゴクリと唾を飲み込み恐る恐るノックをする。
どうぞと部屋から聞こえ、ドアを開ける。
「「失礼します」」
「学院十魔杖就任おっめでとー!!!」
パンッ!パンッ!パンッ!
破裂音が鳴り、十魔杖らしき三人が二人の前でクラッカーを持って歓迎する。
その中の一人にはメルフィー=エルドリエの姿があった。
「これは一体...」
「歓迎の挨拶よ!二人とも学院十魔杖就任おめでとう!」
突然の事にカインとレイスは呆然とする。
「メルフィー、二人が混乱しているぞ」
「はぁ、だから俺はやめておけと言ったんだ」
そう言うのは円状のテーブルに座った二人の男子生徒、ゴーン=ラカゼットとケインだった。
「サプライズだからこれで良いのよ」
「そうそう、二人は相変わらずお堅いなぁ」
「初めが肝心なんだ、もっと威厳のある様にしなければ舐められる」
「そういうところだよ〜、ケイン」
ケインはメルフィーの隣に立つ、こげ茶色の髪の生徒の言葉にムッとした表情をする。
が、それ以上は何も言わない。
「やあやあ、歓迎するぜ二人とも!俺はマルセル=コルネル、学院第四杖だ」
メルフィーの隣にいたもう一人の生徒、金髪のチャラそうな雰囲気の男子生徒が話しかけてくる。
「ど、どうも。カインです」
「レイス=アーノルドです」
「おう、よろしくな!」
気安く話しかけてきたマルセルに二人は少しずつ落ち着きを取り戻す。
すると今度は、こげ茶髮の女子生徒が話しかけてくる。
「私はコーリン、学院第七杖だよ!」
「「よろしくお願いします」」
「よろしくね〜、ってかレイスちゃん久しぶり〜!」
「お久しぶりです、コーリン先輩」
レイスはそう言いながら抱きついてくるコーリンを避ける。
「あちゃー、相変わらずだね〜」
「先輩も相変わらずですね...」
気安い感じの二人にカインは知り合いかと思っていると、レイスが説明を始める。
「コーリン先輩は中等部からの知り合いなんです」
「私は中等部から学院に入ってね、なんか可愛い子いるから声掛けてみよ〜と思ったのがレイスちゃんだったの。まさか、公爵令嬢だとは思わなかったけどね」
「成る程、そういう事ですか」
「その成る程はどういう意味ですか?」
「いや、レイスって知らない人からすると怖いっていうか.......いえ、なんでもありません!」
カインはついポロッと口に出した言葉を訂正する。
レイスの鋭い視線がカインに突き刺さる。
「そういう二人も仲が良いのね?」
メルフィーが間から突然口を挟む。
カインはその言葉に心臓の鼓動が早くなるのを感じた。カインはアインとして毎日登校しているが、カインとしてはまだ月に一度のペースでしか来ていない。レイスと気安く話しているのは他の者からしたら不自然だった。
「私とカインさんは以前から顔見知りだったんですよ、モーリス様とお爺様を通じて。カインさんが学院に来るという事で、モーリス様から色々と頼まれもしていましたしね」
カインが焦っているところにレイスが即座に説明する。
眉ひとつ動かさずに嘘の説明をするレイスを見て、カインは流石だと感心する。
「 そういう事ね、でもモーリス様といえば、ここ数年さっぱり消息を絶っているじゃない。アグリット様とは頻繁に連絡を取っていたの?」
「そうみたいですね」
「そう、流石夫婦と言ったところね」
「その話はやめて下さい...」
急に夫婦という言葉が出てレイスは嫌な顔をする。
以前口にしていた様にレイスの家はアグリットのあの姿にあまり良い感情を持っていなかった。おそらくメルフィーの言葉がそのことを連想させたためだろう。
「そこに立っていても仕方ないだろう、さっさと会議を済ませよう」
ケインが咳払いをして声をかける。
「それもそうね、サプライズも上手くいったし、このくらいにしましょう。二人とも席について頂戴」
「上手くいったと言えるのか?」
「細かい事は気にしちゃいけないよ、ゴーン」
「そうそう、メルフィーパイセンがうまく誤魔化そうとしてるんだからよ」
「マルセル、何か言った?」
「メルフィーパイセンは今日もお綺麗だなぁと」
「はいはい、もう良いわよ」
カインとレイスは先輩方の軽口を聞きつつ、空いている席に座る。
メルフィーは全員が座ったことを確認すると、咳払いをして話し始めた。
「それでは、第一回、学院十魔杖会議を始めます」
拙い文章ですが、面白いと感じたら評価、感想をよろしくお願いします。




