正式発表と桃源郷
前回の予選の部分を選抜戦に変更しました。
あれから一週間後、廊下の壁には選抜戦の参加者の名前の入った紙が貼られていた。
「見てくださいまし、 三人とも名前が載ってますわ」
「ホントだね〜!」
カローナとオリビアは張り紙に自分たちの名前が載っていたことに平静を装いつつも、口角がつり上がっていた。
「二人とも嬉しそうだね」
「別にわたくし達の実力なら選ばれるのは当然ですし」
「なに照れてるんだよ、ニヤケ顔バレバレだよ」
「カ、カローナ! そういう貴方だって」
「ゔ!」
互いに指摘し合う二人を見てアインは苦笑いしていると、背後からどんよりとしたオーラが漂ってきた。
「皆さん、楽しそうですね....羨ましい」
「れ、レイス....」
「いいじゃないですの、貴方はあっちの方で選ばれたのですし。むしろ羨ましいのはこっちですわ」
オリビアはそう言って別の貼り紙を指差す。そこにはカインとレイスの学院十魔杖入りの一報が大きく書かれていた。貼り紙の前には多くの人が集まっていた。
「そうそう、一年生で十魔杖入りなんて快挙だよ。嬉しくないの?」
「いや嬉しいのは嬉しいんですが....私、カインさんと違って高等科ではそれ程結果を残したわけではないですし、それになんか一人だけ仲間外れというか....」
後半は小声でよく聞こえなかったが、アインは確かにと思う。
レイスは優秀だが、十魔杖に選ばれる程結果を残しているわけではなかった。周りからの反応どうなるか気になるのだろう。
「レイスのことを反対する人なんていないと思うけどね」
「そうですわ、中等部の成績を知らない者はいませんし」
「中等部の成績って何??」
「ここに、いたね一人....」
「レイスは中等部では常勝無敗、常に無表情で相手を屠る事からついたあだ名が<氷の鉄仮面>なんですのよ」
「成る程、それで鉄仮面....」
「鉄仮面はやめてください!」
「「ごめん(なさいですわ)」」
ギロリと睨みつけられたアインとオリビアは即座に謝罪する。
カローナはそれを見て苦笑しながらアインも気になっていたことをレイスに尋ねる。
「レイスはそのあだ名嫌いだよね、なんでなの?」
「それはその...鉄仮面って可愛くないですし」
「え、なんて?」
「なんでもないです、秘密です」
後半声が小さすぎで聞こえなかったので聞き直したのだが、レイスは少し顔を赤らめてスタスタと歩いて行ってしまう。
三人はどうしたんだと言った表情でその後ろ姿を見つめるのだった。
*
レイスとカインは放課後に学院長室を訪れていた。学院十魔杖についてアグリットから話があるらしい。
「二人ともまずはおめでとう 」
「「ありがとうございます」」
「カイン君は第六杖、レイスは第八杖になってもらうわ」
「その事ですが学院長、やはり私が十魔杖になるなんておかしいです。辞退するということは出来ませんか?」
レイスの言葉にアグリットとカインは驚いた表情になる。
しかしアグリットは首を横に振り、レイスへと真剣な表情で告げる。
「それは出来ないわ、これは職員と学院十魔杖で行われた会議の結果です。他に候補者がいない以上、辞退を認めるわけにはいかないわ」
「ですが....」
「二人なら実力的にも他の学院十魔杖と引けを取らないわ。それに平民のカイン君と貴族のレイスが入る事は派閥争いに余計な火種を作らないで済むしね」
「それが本当の理由ですか」
「あくまで理由の一つよ」
「「..................」」
両者が無言で向き合う状況に、カインはこの場から今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。
しかしこの状況は良くないと思い、なんとかこの状況を改善しようと動く。
「二人とも落ち着k....」
「ちょっとカインさんは黙っててください」
「私はこの通り冷静よ」
「.....すいません」
「学院長、いいえアグリお爺様! 私が学院十魔杖に選ばれたのはお爺様の仕業ですか?」
「......お爺様ではなくお婆様と言いなさい。違うわ、貴方を推薦したのは他の職員よ。貴方の中等部の成績と高等科からの成績を鑑みた結果なのだからやましいことは何もないわ」
「でも派閥争いの事も含めた結論なのでしょう?」
「それはあくまで後付け、理由の一つに過ぎないわ。
..... 分からないわね、貴方は学院十魔杖の座には興味はないの?」
「もちろんいずれはとは思っていましたが、こんな形でなるとは思ってなかったというか...」
いまいちレイスがここまで頑固になっている理由が分からないカインだったが、アグリットはレイスの表情を見て察する。
「成る程、レイス、貴方自信がないのね」
「......っ!」
レイスはアグリットの言葉に顔を硬ばらせる。
アグリットはそれを見てニヤリと確信を得る。
「ビンゴね、本当は高等科でも結果を残して学院十魔杖になりたかった。でも結果を残す前に選ばれてしまったから自分の実力に自信が持てない。そうでしょ?」
「......そうですよ、私は自信がないんです。でもそれがどうしたっていうんですか!まだ入学して殆ど経っていないのに同い年にカインさんのようなバケモノがいて、その試合をあれだけ見せられて、自信を無くさない訳ないじゃないですか!」
カインはそこでやっと気づく。カインが来るまではレイスは常勝無敗で学年ではトップだったのだ。それが今は、生徒に一学年で強い者と聞かれたら十中八九カインの名が出るようになった。
さりげなく化け物扱いされたことに胸を痛めつつ、成り行き上仕方なかったとはいえ、少し気まずさをカインは覚える。
しかしアグリットは、そんなレイスに厳しい言葉を浴びせる。
「甘えるな、言い訳するな!それでも公爵家の人間ですか!!!」
カインとレイスは急に声を張り上げるアグリットにどきりとする。
「カインくんを言い訳にしない、それは貴方が今まで負けなしだった事に驕りがあった証拠よ。
中立派なんて立場にいるけど貴方はどちらの事も自分よりも格下だと思って見下していただけでしょう。
ちょうどいい機会だわ、ここでもう一度気を引き締めなさい!」
「....はい」
レイスは反論する事なく静かに返事をした。
「はぁ、本当はもう少し詳しい話をする予定だったのだけれど。カイン君、悪いけど先に寮に戻っていてくれる?レイスと二人で話したい事があるから」
「は、はい!失礼します!」
完全に途中から空気と化していたカインはアグリットに言われるがまま学院長室を出た。
正直あの雰囲気に耐えるのが辛くなっていたので内心ホッとするのだった。
ちなみに部屋を出た後、アグリットの専属執事であるカイゼルにお疲れ様です、と同情の瞳で言われたことは中にいる二人には秘密である。
*
あんな学院長初めて見たなぁとアインは思いながら、寮の部屋でくつろいでいた。
すると、外からノックをされ出てみると、そこにはカローナとオリビアがいた。
「どうしたの?夕食にはまだ早いけど...」
「大浴場へのお誘いですわ...って、レイスはどうしたんですの?」
「ああ、学院長に呼び出されてて」
「ああ、なるほど」
「それでお誘いっていうのは?」
「それはね、せっかく選抜戦に選ばれたんだし、オリビアと特訓してたんだけど汗掻いちゃって。
夕食まで時間あるし今から入らないかって相談してたら、そういえばレイスもアインも大浴場で見かけた事ないなぁって話になってね。せっかくだから誘いに来たんだよ!」
「異方では裸の付き合いというものがあるらしいですわよ。レイスがいないのは残念ですけどアインだけでも一緒に行きませんか?」
「裸の付き合いってオリビアいやらしいー!」
「わたくしはいやらしくなんかないですわ!」
からかうカローナと顔を赤らめるオリビアを前にしながらアインは脳を限界まで加速させていた。
アインは今まで部屋にあるシャワーで汗を流していた。大浴場の存在は知っていたがレイスの監視によって近づくことは一切なかったのである。
どうするっ!大浴場といえばまさに真の女の園、行ける事なら是非行きたい。
でもバレたら学院長とレイスに殺される....
だが、レイスが一緒にいない事などなかなか無い、これはむしろチャンス。
しかし後が怖い、リスクが大き過ぎる。
行きたい、でも怖い。
行きたい、でも怖い。
行きたい、でも怖い。 etc.....
*
「ここが大浴場....」
アインの視界には湯気で覆われた女子の裸体、女子の裸体、そして女子の裸体が映っていた。
「やっぱり初めてだったんですの?」
「う、うん。大きなお風呂は初めてで、少し怖くて」
アインは隣にいるオリビアを横目でチラリと見ながら答える。
オリビアは四人の中でも一番背が高く、胸も一番大きい。大変グラマスな身体をしていた。
「大丈夫だよ、ここは停戦協定が張られているから、大浴場内は派閥は気にしなくて良いんだよ」
「へ、へえ、ソウナンダ」
今度はカローナの姿をちらりと見る。
引き締まった身体つきの割に程よく実った果実が揺れる。
アインはそれを見てゴクリと唾を飲み込む。
「なんだか様子がおかしくありません、大丈夫ですの?」
「だ、大丈夫だよ!早く身体を洗おっか!」
アインは平静を装いつつも洗い場へと移動する。
二人はそんなアインを不思議に思いつつ後についていった。
*
「ふぅ、気持ちいい...」
「ですわね...」
「だね〜...」
三人は横に並んで湯船に浸かっていた。
アインは周りをゆっくりと見渡して思う。
ああ、ここが真の楽園だったか....
アインは女になってよかったと今この瞬間、最も感じていた。
まさに桃源郷、男のロマンが詰まったこの空間にアインは顔がにやけきっていた。
「なんていう顔をしているんですの」
「いや〜、お風呂が気持ち良くてつい」
「あははっ、初めてだったんだしね!お風呂は身体と心を癒す場、だからこそ停戦協定が結ばれているんだよ。流石に寮の中でずっと険悪な雰囲気なのは気が滅入っちゃうしね」
「成る程...」
アインはカローナの説明を半分聞き流しながらこの状況を堪能していた。
「それにしてもアインの肌は本当にきめ細かいですわね」
オリビアはカインの肌を羨ましげに見つめる。
「そ、そうかな。でもオリビアだって肌綺麗だよ?」
「アインの肌と比べたら全然ですわ、なんですかこのきめ細やかな肌わ!」
「そうだよね〜、ちょっとこれは見た事ないよね」
「ひゃっ!」
カローナはアインの腕をつつくとアインは驚き声が出てしまう。
「何するのさ!」
「いや、どんなものかと思ってつい」
「ついって....、二人ともその、スタイルいいんだからそんなに気にしなくても」
「「アインがそれを(言うの)(言いますか)!!!」」
「へ?」
「へ?じゃないですわ!何ですかそのプロポーション!
その柔肌と相まってもう、本当に何をしたらそんな体になるのか教えてくださいまし!」
「え、でも本当になにもしてないし...」
「ほほう、あくまでシラを切るのか。だったら、オリビア!」
「はい!」
二人はアインに左右から近寄る。
アインはそんな二人に何か危険を感じつつ、逃げようとするが二人に取り囲まれているため逃げ出す事ができない。
「ちょおお!ひゃっああああ!!!!」
二人はアインの腰や胸を掴みかかりいじくりまわす。
「口で答えてもらえないなら体に直接聞いてみますわ!」
「本当に凄いねこの肌スベスベだよ!」
「ちょ!どこ触ってんの!」
「口で言わないからこうなるんですのよ!大人しく吐けばやめてあげますわ」
「そんな事言われても....」
アインは本当に何もしていないため答えられない。どうする事もできずに二人にいいようにやられてしまう。
そんな時聞き覚えのある声がアインを救う。
「何やってるんですか、他の人の迷惑ですよ」
「レイス!学院長に呼ばれたと聞いてましたが戻ってきたのですか?」
「ええ、最近色々あって少し悩んでいたのですが、アグリお爺様のおかげで気持ちの整理がうまくつけられました」
「なんだ、悩み事なら僕たちに言ってくれればよかったのに」
「ええ、これからはそうしますね」
レイスは笑顔でそう答える。
アインは顔を青くして俯き、プルプルと体を震わせる。
「あら、アインさんどうしたんですか?体調でも悪いので?」
「え、えっと...そうかもね、そろそろ出ようかな〜」
「アイン、まだ話は終わってませんよ!」
「ごめん、後でちゃんと話すから!」
アインはそう言って湯船から出て行く。
レイスの隣を横切ろうとすると、周りに聞こえないような声でアインは囁かれる。
「私にも後で教えてくださいね、色々と」
これは死んだ、とアインは心の中で思いながら大浴場を出て行く。
天国の後は地獄か、とぼそりと呟いて浴場を後にするのだった。
因みにレイスの薄く膨らみのある身体はタオルで隠され見えなかった。
身長はオリビア、アインとカローナが同じくらい、レイスの順
胸はオリビア、アイン、カローナ、レイスの順です。
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