ことの始まり 転
誤字はなるべく無くしていこう思いますが、見つけた時はご指摘よろしくお願いします。
カインは激しい痛みに苛まれていた。頭から薬品を被った直後、身体の内側から発せられる熱と身体を作り変えられる感覚に声も上げることも出来ない。
ああ、自分はここで死ぬのかと思い始めた時、内側からくる激しい痛みが和らいでいくのを感じた。それと同時にカインの意識は途絶えていった。
モーリスが外に出た後、目の前に一匹の龍が現れた。龍の身体はエメラルドの鱗に覆われていて太陽の光を反射して光り輝いていた。
「久しいな、モーリスよ」
「まさかそちらから来てくれるとは思わなかったぞ、フーデルク」
「この前奪われた鱗の借りを返しにきた、と言いたいところだが今回は依頼をしにきたのだ」
「人聞きの悪いことを言うな、正当な報酬じゃろが。それで依頼とはなんじゃ? 出来る事なら早くすませて帰ってくれ、村のものが怯えておる」
「ああ、すまない。依頼を受けてくれるのであればすぐに去ろう。実は風竜の間で病に冒されるものが続出している。それも突然倒れ、ゆっくり衰弱していくのだ」
モーリスは耳を疑った。普通ドラゴンが病に冒されることはまずない。魔物の中でも上位のものになるにつれ、様々な耐性を持つものが多い。それが最上位のドラゴンとなれば尚更である。しかもそれが、複数同時に起こるなど自然に起こるわけがない。モーリスはそんな異常な状況に察しをつける。
「恐らく、呪いの類じゃろうな、それも高位の」
「やはりか、だが術者はおろか証拠も何もないぞ」
「ふむ、ちと厄介な状況じゃな。とりあえず診てみんことには何もわからん。すぐに向かおう、と言いたいところなんじゃがな」
「何か問題でもあるのか?私としては早く来て欲しいのだが」
「実はな、今弟子をとっていてな、其奴に話をしなければならん」
「お前が弟子だと?どういう風の吹き回しだ」
「なかなか面白いやつでな、見込みがある」
「ほう、お前にそこまで言わせるか。興味が湧いてきた」
「今呼んでやろう、カイン、外に出てこい! ...む、カインどうしたのじゃ?早く出てこい!!」
モーリスの呼びかけで、やっと家の扉が開かれカインが外へ出てくる。
しかし、扉から出てきたのは黒髪を肩まで伸ばした少女だった。
カインは師匠の呼び声で目を覚ました。生きていたことに安堵しながらモーリスに再び呼ばれたので、はっきりしない意識の中、外へ出ようとする。長くなった髪や緩くなった服に気づかずに。
カインが外に出ると、目の前にはモーリスとエメラルドの鱗を身に纏った美しいドラゴンがいた。
初めて見た超生物に魅入ってしまいながらも、師匠の様子がおかしいことに気づく。
「どうしたんですか師匠?僕の顔に何かついてますか?」
カインが不思議そうに尋ねると、微妙な顔をして口を開く。
「もしかしてお前、カインか?」
何を言っているんだ、とカインは思いながら自分の身体の違和感に気づく。胸の部分に本来ある筈のない膨らみがあり、髪が伸びていて、視線がいつもより低い。
確実に頭から被った薬品の影響だと察し、師匠に尋ねる。
「師匠、さっきの衝撃で棚から薬品が落ちて頭から被ったんですけど....」
「見た目から察するに性転換ポーションじゃな」
「やっぱり、僕女の子になってます!?どうすれば治るんですか師匠!!」
「落ち着け、もう一度同じポーショーンを飲めば元に戻る」
モーリスは慌てるカインを落ち着かせようと、必死に宥める。すると横からフーデルクが申し訳なさそうに、口を開く。
「もしかして私のせいか?すまない、しょうz..少年よ。同胞の危機につい急いでしまってな」
カインはドラゴンが自分に話しかけてくるとは思っていなかったのか慌てた様子で返事をする。
「い、いえ! そんなことは....あると思いますが、元に戻れるなら気にしなくても大丈夫です。申し遅れました、僕の名前はカインと申します。」
「私は風龍帝 フーデルクだ。君の師匠に依頼をしにきた」
カインは思わず絶句してしまった。龍というものは世界で五体しかいない。それぞれが炎、水、雷、風、地の竜達を束ねる王だ。そんな最強の中の最強である龍が目の前に存在するということに驚きを隠せないだけでなく、その龍が自分の師に頼みがあるというのだ。この反応も当然と言えるだろう。
また、それと同時に、龍と知り合いだという自分の師匠が一体何者なのかという疑問も浮かんできた。
カインはそんな信じられない状況に呆然としていると、モーリスから声を掛けられる。
「とりあえず、家の中の様子を見よう、最悪、ポーションを作り直さなければならんからな」
「私が原因ではあるが、作り直すのなら早めに頼む。同胞たちのためにも時間が惜しい」
フーデルクの言葉に、モーリスは頷くと未だ状況の整理が追いつかないカインを引っ張って家の中に戻るのだった。