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とある見習い魔術師の受難  作者: オレオレオ
第3章 入学後によくあるテンプレのようなもの
18/21

決闘 後

すいません、昨日投稿するって言ったんですけど普通に時間なくて無理でした。

自分の計画性のなさを実感している今日この頃です。

 カインは食事を摂っていた。あの後、フィールドがリカルドの魔術で荒れてしまったため、午前の決闘は午後に持ち越されることになったのである。そんなわけでカインは、アグリットが作った魔力回復の効果を含んだ食材で出来たサンドイッチを食べていた。場所はお馴染みの学院長室である。


「美味しい!」


「それは良かったわ、久し振りに料理をしたから少し不安だったのよ」


 カインが食べているのは赤い実とクリームを挟んだフルーツサンドの様なものだ。甘いクリームに赤い実の酸味が合わさって絶妙な味わいを醸し出している。

 

「学院長って料理出来たんですね」


「それどういう意味かしら?」


 笑顔の中に何か怖いものを潜ませるアグリットにカインは慌てて弁明する。


「ご、誤解ですよ! 学院長は貴族なので、料理なんかは全部使用人に任せていると思ったので」


「ああ、そういう事ね。別に当主を引退してからは色んな事に挑戦していた時期があったのよ。女子力を上げるために」


 女子とかいう年齢ではないだろうとカインは思うが、後が怖いので黙っておく。その時、カインはレイスもそういえば料理ができていたことに気づく。


「もしかして、レイスが料理出来るのって...」


「私が教えたからよ」


 カインはなるほどと感じた。公爵家の令嬢が料理をする事は初めの頃は不思議だったのだが、その理由がやっと分かった。カインは少しスッキリした様子で中身の具を尋ねる。


「それはキコの実といって魔力回復を助ける効果があるの」


「へぇ、じゃこっちはなんですか?」


「それはストライクバードの生ハムね、それも似た様な効果をもっているわ」


 アグリットは生ハムと葉野菜を挟んだサンドイッチの説明をしながらニコニコと笑う。カインは異常に機嫌の良いアグリットを不審に思い、理由を尋ねた。


「あの学院長」


「んー?どうしたのカイン君」


「なんでそんなに機嫌がいいんですか? なんか少し怖いです」


「まあ、失礼しちゃうわね。こんな若い男の子に自分の手料理を美味しいって言われてるんだものそりゃこっちも気分が良くなるわよ」


「成る程、それでもう半分は?」


「....貴族派が顔を青ざめているのを見れて気分が良くて」


「 仮にも学院の長の言う台詞じゃないですよ...」


「それだけ今までが大変だったって事よ、何度私が貴族からのクレーム対応を受けたか聞きたい?」


 笑顔の中に潜む闇を垣間見て、カインは首を横に振る。それを見たアグリットは嘆息して話を切り替える。


「午後からはカイン君もあの二人を乗り切ったのだからあとはかなり楽なはずよ」


「確かに彼等は強かったですけど、流石に気は抜けないですよ、数が数ですから」


「まあ、油断しないことはいい事だわ。貴族の中で一番警戒しとくのはあのリーダー格の少年、リュードレイ=マルティスね。彼は貴族にしては中々の腕前よ、と言っても最初の二人ほどではないけど」


「リュードレイ=マルティス、分かりました、気をつけます」


 カインはアグリットからの警告を頭に入れておくのだった。



 *



「すごい人数だね〜」


「そうですわね、でも、なんか場内の雰囲気がおかしくありません?皆さんどこか飽きてしまっている様な感じで」


「それは確かに、一体どうしたんだろうね」


「ここで考えていてもしかたありません、早く座りましょう」


 レイスとカローナ、オリビアの三人は空いた席に座る。放課後になり、三人はアインの代わりにカインの決闘を観にきていた 。


「さあ、アインさんの分までしっかりと目に焼き付けましょう!」


「そうだね〜、あれだけ入学式で大見得切っていたんだし、僕も彼の実力が気になってたんだよ」

 

 実際にはカインは一言も話していないのだが、レイスはその事にはつっこまない。レイスはフィールドにいるカインを見る。

 彼の表情は見るからに疲れているといった様子だった。やはりこの連戦はかなりキツイだろうとレイスはカインを心配そうに見つめる。


「あら、来ていたのねレイス」

 

「あぐr...学院長、ちょうど来たところです」


「が、学院長!」


  二人は突然現れたアグリットに驚き挨拶しようとするが、アグリットそれを苦笑しながら止める。


「構わないわ、楽にしてちょうだい」


 アグリットの言葉に二人はホッと肩をなでおろす。


「学院長、カインさんを見るに、かなり疲労が溜まっているようですが、これまでの闘いはそんなに厳しいものだったんですか?」


「ああ、うーんとね、見てればわかるわ」


 アグリットの返答に三人は首をかしげる。


そちらを見ると、カインと貴族らしき生徒が立っていた。


「それではー、始め〜」


 アグリットがやっていた審判は別の先生が代わりにやっていた。が、何故かやる気の感じない掛け声で合図をする。



 *



「これは酷いですね....」


「他の見学者の方々が飽きるのも当然ですわ」


「あははは、流石にフォロー出来ないね、これは」


 先程から、場内では似たような闘いが繰り広げられていた。貴族の生徒が考えなしに魔術を打ち込み、カインがそれを身体強化で回避し、隙を...というか隙だらけな相手に一撃を食らわしてノックダウンさせるというものだった。


「もう少し、考えて闘えばよろしいですのに、まさかずっとこんな闘いをしているのですか?」


「最初は、貴族の子達も工夫してなんとかしようとしてたんだけど、全然カイン君には効かなくてね。もうヤケクソって感じで、午後の半分くらいからは似た様な戦いが続いてるわね」


「引くに引けないって感じがするよね、最初の方に何かあったんですか?」


 アグリットは午前中の特待生達との闘いについて話すと三人は一通り驚いた後、呆れた表情になる。


「それは、なんていうか....」


「ケンカを売る相手を間違えたって感じですね」


「逆に同情するレベルですわね」


 三人は負けた貴族たちの方を見る。午前中に圧倒的なまでの実力を見せつけられた相手と自分たちが闘うのだ、小手先でどうこうなるレベルではない、彼らがやけくそになるのも仕方ないと思う三人だった。



 *



 疲れる......


 カインは疲労が顔に滲み出ていた。単純に身体的疲労や魔力不足だけではない、もっと精神的な理由だ。

 午後から挑んで来る相手は顔を青くしながら挑んできたり、半ば自暴自棄の様な戦い方をして来たりなどカインは精神的な疲れの方が強かった。

 彼らの実力は午前中闘った二人よりも数段劣っていた。また、雑な戦い方だったので簡単に攻撃を加える事ができて魔力も予想以上に温存できていた。とはいえ、カインの魔力量は普通よりも優れている程度だ。最初と比べ確実に魔力量は減っていた。


「ふん、やっと俺か! どいつもこいつもみっともない戦い方をしおって!」


 傲慢な態度で現れたのは最後の相手、リュードレイ=マルティスである。彼は額に青筋を立てながらカインを睨みつける。


「おい、平民!ここまではなんとか勝てたようだが次はそうはいかんぞ!お前の化けの皮を剥がしてやる!」


 周囲の者は今までの闘いを見てよくそんな事が言えると呆れていた。

 そしてカイン自身、彼が特待生の二人よりも強いとは思えなかった。リュードレイの言葉の端から伝わってくる自信はどこから来るのかと思いつつもカインは最後の相手という事で気を引き締め治す。


「これより、本日最後の決闘を執り行います。両者、準備はよろしいですか?」


「よろしくお願いします」


「ふん!さっさと始めろ!」


「....それでは始めっ!」


『『展開せよ!!』』


「くたばれ平民!『炎槍よ』」


『惑え』


 炎槍がカインを襲うが、カインはそれを避ける事なく笑みを浮かべながら正面から受ける。その瞬間カインの姿が大きく歪み、消えて無くなる。


「なにっ!」


「こっちですよ」


 リュードレイが振り向くとそこにはカインの姿があった。


「そこか!『炎槍よ』」


 再びカインに炎槍が直撃するが、カインの姿は歪んで消えてゆく。




「...これは干渉系魔術の『イリュージョン』ですか?」


「正解よレイス」


 カインが使っているのは『イマジネーション』という魔術だ。クレイの時も火球の量を誤魔化すために使った様に、幻影を生み出す魔術である。


「でも場内が暗いわけでもないのに、どうして急に現れたり消えたり出来るんですの?」


 フィールドにはカイン本体の姿は見えない幻影とリュードレイのイタチごっこが繰り広げられていた。


「恐らく幻影で壁際にでも隠れているんでしょう、完全に遊んでいるわね、これは」


「それは誰が見ても明らかだね〜」





 カインは壁際でアグリットの視線を感じた。『イマジネーション』を覚える過程で覚えた『イリュージョン』の魔術だが、教えた本人にはバレバレだったようだ。よく見ると三人と一緒にいる事がわかった。


「まだまだだな」


 ボソリと独り言を呟くと、カインは自身の声がだんだん戻っていることに気づく。

 残りの飴は今は手元に無い、実力の違いを見せつける為の幻影だったが、あまり時間をかけていられる状況ではなくなり、そろそろ決着をつけようと姿を表すことにする。


「ここですよリュードレイさん」


「やっと姿を現したな、コソコソしおって臆したかと思ったぞ」


 彼の頭には遊ばれたという感覚はないらしい。


「そろそろ終わりにしましょう」


 カインは魔術ではなく、魔力を矢の形状に変化させる。

 丸一日何度も闘ったことでカインは自身の身体を守る結界について分かった事があった。一定の魔術を与えるだけでなく、一点に集中的に与えたほうが結界は破壊しやすいのだ。

 カインは魔力に矢の形状を保ちつつ魔力をさらに練り上げる。そして一定の魔力を込めた時カインはあることに気づく。このままだと結界を貫通してしまうのでは?と。それはまずいと思い、カインは慌てて矢の魔力を利用して魔術を付与して放つ。


『ね、眠りへ導け!』



 *



 リュードレイは常に内心焦っていた。幼い頃から刷り込まれていた貴族至上主義の考えと魔術師しての才能、親からは常に褒められ、自分は選ばれた存在だと錯覚していた。しかし、学院に入るとその考えは打ち砕かれた。同じ様な立場で自分よりも魔術が上手い存在がザラにいることを知り、更に今まで見下してきた平民にすら勝てないことを知った。だが、幼い頃からの刷り込みと彼のプライドがそれを認めることを拒否する。彼が貴族派の過激派になるのは必然だった。


「認められるか!こんな事!!」


 目の前のカインは魔力で矢を作り、膨大な魔力を込めている。あれを食らえば確実に自分は負ける。親を使って無理やり立場の弱い貴族に決闘させ、カインを疲労させたというのに、ここで負ければ親からの信頼すら失いかねない。


「くそ!平民の癖に生意気なんだよ!!!『炎槍よ!』」


 リュードレイは一本の炎槍を生み出す。先程までとは大きさが違い、彼が制御できる魔力がギリギリまで込められている。


「くらえ!!!」


 カインの矢とリュードレイの炎槍がぶつかる。が、あっさりと矢は炎槍を貫通しリュードレイの胸へと届く。


「ぐはっ! ...くっ!なにを...zzz..」


 カインの矢はリュードレイの結界を破壊し身体に当たると霧散していく。リュードレイはそのまま前のめりに倒れていく。


「そこまで、勝者、カイン!」


 審判の先生の掛け声が場内に響く。全戦全勝、カインの実力はこの場にいる者全員に知れ渡ることとなった。


  不味い!


  カインはそんな周囲の状況を気にすることなく、急いでリュードレイの容態を確かめに近づく。

 直前に『スリープの魔術で威力を軽減したが、カインはリュードレイの肉体がダメージを受けていないか心配だった。

 カインはリュードレイを抱え、周りに聞こえない程度に小さく声をかける


「大丈夫ですか?」


 リュードレイから返事はない、そのことにカインは焦り、より一層小声で声をかける。


「起きてください! ていうかお願いします目を覚まして!!!」


「んんっ....」


 カインが揺らしながら声をかけると、リュードレイが目を覚ます。どうやら『スリープ』の影響で眠っていただけのようだ。


「良かった。身体は大丈夫ですか?」


「あ、ああ..... お前その声は...」


「.....っ! 僕はこれで失礼します!」


「ちょっ!待て!!!」


 カインはリュードレイを起こして急いで立ち去る。声のことを指摘され、内心焦りまくっていた。

 ボロが出る前に離れないとっ!とカインは思いながら騒ぎ立つ訓練場を後にするのだった。



 *



「.....ってください!...........を覚まして!」


 リュードレイは誰かの声が聞こえて意識を取り戻す。矢を受けた途端、とてつもない睡魔に襲われ意識を失ったのだ。


 俺は負けたのか.....この大勢の前で...


 今まで決して認めてこなかった現実を遂に受け止めるしかない状況に、リュードレイは諦観していた。

 彼はゆっくりと現実を受け止めようと視界を開く。そこには驚いた事に先程まで闘っていたカインも姿があった。


「良かった、身体は大丈夫ですか?」


 先程闘っていた相手にかける言葉とは思えないカインの一言にリュードレイは狼狽えながら返事をする。そして彼の声に違和感を覚える。


「お前、その声は...」


 一体どうしたとリュードレイが言い切る前にカインは早口でまくし立て、去って行く。


「ちょっ!待て!」


 リュードレイはカインを引き留めようとするが、カインはそのまま去って行く。


 残されたリュードレイは一人、誰にも聞こえない声で呟く。



「...あいつ、可愛い声してるじゃないか....」


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