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とある見習い魔術師の受難  作者: オレオレオ
第3章 入学後によくあるテンプレのようなもの
16/21

決闘 前

魔術は『』で表します

「起きてください、カイン(・・・)さん」


「...あと十分だけ」


「何言ってるんですか、往生際が悪いですよ」


 レイスはそう言ってカインの布団を取り上げる。カインは憂鬱そうな顔で体を起こし溜息をつく。


「ついに来てしまったか...」


 入学してから一ヶ月が経った。カインは女子生徒としての生活に慣れ始め、初めこそ模擬戦の一件から注目されていたが、段々とその波も収まり、それなりに充実した生活を送っていた。そして学院長の依頼である、一ヶ月に一度の男としての初登校日が今日であった。


「学校に行きたくない」


「不登校ですか、ルームメイトとしては見過ごせないですね」


「これから起こる事を考えたら誰だってそうなるでしょ」


「そこは否定しませんが、仕方ないでしょう。もう噂も広まってますし、行かないのは問題ですよ」


 カインがこの日に登校することは前もって学院長の手で学院中に伝えられていた。そのせいで最近は貴族連中と一部の特待生がカインに対し決闘を挑むと宣伝しているのだ。

 模擬戦と決闘は大きく異なる。どちらも戦うことには変わらないが、魔術師にとって決闘とは言葉以上の重要な意味を持つ。模擬戦はあくまでも訓練の一環、しかし決闘はその一戦が人生に大きく関わる。簡単に言うと勝敗が記録され、今後の人生にずっと付きまとうのである。魔術師は希少な存在であり、決闘の勝敗などはすぐ周りに伝わる。仮に負けると「奴はあいつよりも格下だ」という目で今後見られる事となる。希少な存在である魔術師にとって、それは最も屈辱的な事であり、魔術師見習いの生徒達にとってもそれは変わらない。要は其の者のプライドをかけた闘いなのだ。


「決闘のバーゲンセールみたいな状況ですね、今後の人生を大きく左右するものだというのをちゃんと理解しているのか、疑問に感じるレベルですね」


「僕そんな重要な闘いを今日何度もすることになるの?」


「ええ、一生残りますから。カインさんも男に戻った時に苦労しない様に頑張ってくださいね」


 カインは憂鬱そうな顔で再度大きく溜息をつくのだった。



 *



『幻影よ、我に纏い、現世の姿を惑わせたまえ!』


 カインが呪文を唱えると、幻影がカインの身体を覆い、髪を後ろに纏めた中性的な少年に変わる。


「うん、上出来ね。まさか本当に一ヶ月で出来るようになるとは思わなかったわ」


「ありがとうございます」


 カインは学院長室に来ていた。この一ヶ月、アグリットにイマジネーションを教わり続け、自分でも扱える様になっていた。イマジネーションは干渉系の魔術、基礎魔術の適性がないカインだが、魔力制御の高さのお陰で上級魔術のイマジネーションを短期間で覚える事ができたのである。カインはアグリットの評価を嬉しく感じながら、入学時に苦労した問題について尋ねる。


「それで、例のものなんですけど」


「ちゃんと用意してあるわよ、ほら」


 アグリットがカインに渡したのは飴玉の入った瓶だった。


「それ一つで半日はもつわ。かなり高価なものだからね、大事に使うのよ」


「はい」


 この飴玉は舐めると声を一時的に変える効果を持っている。入学式で話せないという問題が発覚したため、学院長に相談したところ、この飴を用意してくれたのだった。カインは策略家な学院長は入学式にはあえて渡さなかったのだろうと考えていた。アグリットは本当に察しがいいらしく、カインににっこりと笑顔を向ける。


「別にわざと入学式に渡さなかったわけじゃないのよ。これ凄く希少な材料で作るから時間がかかって間に合わなかっただけよ」


「...そうですか」


「そうよ」


 高価で貴重な飴をタダで融通してくれたのもあってカインはそれ以上問い詰めることはなかった。

 カインは話を決闘についてに切り替える。


「それで、いくつきてますか」


「貴族が三十三人、特待生が二人ね、最初は様子見が多いみたいね。貴族で実力がある子はあまり申請してないから。恐らく実家の権力で従わせた弱小貴族で実力を見ようって魂胆かしら」


「従わされる側はたまったもんじゃないですね」


「そうね、まあ決闘の重要性を理解しているからこその行動よ。ここで貴方が圧倒的な実力で倒せば今後挑んでくる貴族も減るんじゃないかしら。私としてはどんどん挑んでボコボコにされて欲しいのだけど」


「学院長の言うセリフじゃないですよ....」


「それだけ手を焼いているのよ、本当に自信があったら様子見なんてしないでしょう?結局貴族の中では実力があってもその程度しかないのよ。本当に実力のある者は学院十魔杖とごく一部だけね」


「それでもこの数はちょっと多いですよ、あとなんで特待生も混ざっているんですか?話が違いますよ!」


 カインはめんどくさげな顔をしながら言うとアグリットは苦笑しながら答える。


「大半の特待生は気づくか止められて申請してこなかったんだけど、その二人はなんというか問題児でね、実力至上主義って感じで貴族とよく問題を起こしているの」


 なるほど、つまり単純に僕と戦いたいってことかとカインは思う。


「だったら模擬戦じゃダメなんですか?わざわざリスクの高い決闘にしなくても」


「彼らはそこのところ無頓着で、戦えればそれで良いって感じで申請してきちゃったのよ。それに決闘なら絶対やれるからって」


 決闘は挑まれると強制的に闘わなければならないが、模擬戦は違う。両者の同意がなければ成立しない。だからこそ確実に闘える決闘にしたのだろうが、リスクと釣り合ってないだろうとカインは思う。


「とりあえず午前中に特待生二人と貴族数人、午後と放課後で残りを分けるって事で良いかしら?お昼は魔力回復の効果があるものを用意しておくから、大変だろうけど頑張って」


「...はい」



 *



「アイン心配ですわね...」


「...ただの風邪ですから大丈夫だと思いますよ」


 教室でアインのことを心配するオリビアにレイスは白々しく嘘をつく。身体が弱くて高等科から通うことになったという設定からか、オリビアとカローナはアインの容態を気にしていた。


「放課後、お見舞いに行こうか。レイス、部屋に行ってもいい?」


「構いませんが、例のカインさんの決闘を観てからにしませんか?」


 レイスの言葉に二人はなぜ?といった様子でレイスを見る。レイスは慌てて適当な理由を考え、2人に説明する。


「えっと、アインさんから代わりにカインさんの試合を観てきてと頼まれているんです。ほら、同じ十魔杖の弟子だから何か思うところがあるんでしょう」


「なるほど、そういう事ですか。ならアインの分までしっかりと彼の闘いを観ないといけませんわね!」


 レイスはオリビアの言葉にホッと息を吐く。これでカインの決闘が終わる前にお見舞いに行くことを回避できたと安心する。それと同時に、レイスは虚空を見つめながらカインのことを心配するのであった。



 *



 カインは第二訓練所に来ていた。目の前にはこれから闘う生徒たちがずらっと並んでいる。その中でリーダー格のような男が前に出てカインを睨みつける。


「十魔杖の弟子だからと言って調子にのるなよ、平民が!今から化けの皮が剥がれるのが楽しみだ」


 the貴族、というような金髪の男の言葉に後ろの取り巻きたちはクスクスと笑うもの半分、ビクビクと怯えるものが半分といった対照的な様子だった。おそらく無理やり従わされた者たちだろうとカインは思ったが、事実は少し違った。同じ十魔杖の弟子であるアインが特待生派閥のナンバー2を瞬殺した事から特別特待生枠のカインは更に強いのではという疑念も含めて怯えていたのだ。ちなみに残り半数はカインも強いとは限らないと舐めているか、この数なら魔力が足りなくなっていつか負けるだろうと思っている連中だ。既に一人では勝てないと彼等は内心では理解しているのだ。ただ自分の経歴よりも、今自分達よりも優遇されているカインを倒して見下したいという思いでいっぱいなのだ。もっとも、自分が負けたら意味が無いということに彼等は気づかない。完全に若気の至りというやつだった。


「退けよ、雑魚共が」


「弱いくせに粋がって、負け犬根性が染み付いてるな」


 そう言って貴族から少し離れた位置にいる二人の少年が馬鹿にし出す。それを聞きリーダー格の男は二人を睨めつけて怒鳴り散らす。


「黙れ薄汚い平民が!お前らの様な者が魔力を持つ事自体おかしいのに、この学院に私達の金で通っていると思うと虫唾が走る!!」



 リーダー格の男がそう言うと取り巻き達も続く様に口々に二人を罵る。しかし二人はどこ吹く風かといった様子で全く気にした様子を見せない。


「おおーヤダヤダ! 貴族でも癇癪は平民と同じで汚いねぇ」


「大体貴方達のそのお金も平民から徴収したものなのに、よく堂々と言えるな」


「黙れ黙れ!平民が貴族に尽くすのは当たり前だろうが!!」


 両者はどんどん険悪な雰囲気になっていき、カインは一触即発かと思ったが、アグリットが止めに入る。


「両者、落ち着きなさい!ここには貴方達が争うために来たわけじゃ訳ではないでしょう。そんな理由の為に授業を免除にしているわけではありません」


 今は午前中、授業の最中であった。決闘の際は授業が免除され、その見学も申請を取れば許可が出るようになっていた。よって、カインの実力を見ようと訓練所の観客席は多くの生徒が集まっていた。アグリットの言葉に両者は静かになる。


「いいですか?決闘とは魔術師にとって重要な意味を持つ闘いです。実際に闘う者は勿論、観客席で観ているものも、そのことをよく理解した上で 今後の糧としてください。それではまず、クレイ君、君からです」



「一番手かワクワクするぜ!」


 特待生のうちの一人、粗暴な見た目の少年がカインの前に立つ。


「別に勝った時の特典はいらねぇが、十魔杖の弟子がどんなもんなんか興味があってな。お前との勝負この一ヶ月ずっと待ってたんだよ!」


 血気盛んな様子の彼にカインは少しビビりつつ、目線を逸らさずにしっかりと向き合う。


「カインと言います。よろしくお願いしますね」


「クレイだ、入学式の時はいけすかねぇ奴だと思ったけど案外良いやつそうじゃねえか!」


「その節はすいません。 色々と事情があるもので」


 クレイは気安い様子でカインに笑いかける。カインはそんなクレイの言葉が胸に刺さりつつ、苦笑いしながら答える。


「どんな事情かは知らんが戦う時は手加減なんかしねえぜ?」


「分かっています」


「それじゃ、二人以外は観客席に行って、決闘を始めます」


 アグリットの言葉で他の生徒は観客席へ移動して二人だけとなる。アグリットそれを確認し、開戦の合図をした。


「それではこれから、決闘を執り行います。両者準備はいいですね?」


 二人は同時に無言で頷く。


「それでは始めっ!!」


 こうして、カインの初めての決闘の幕が切って落とされた。







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