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とある見習い魔術師の受難  作者: オレオレオ
第3章 入学後によくあるテンプレのようなもの
15/21

閑話 休日

 二人は気分転換と精神休養のために大通りに来ていた。


「これなんですか?」


「ああ、これはな、こう使うんだよ」


「へぇ!すごいですね!」


「嬢ちゃん可愛いから安くしとくよ! 二十ミルでどうだ!」


「買いまs...っ!いったぁぁ...」


「すいません、まだ色々と見る予定なのでまた後で」


 レイスはアインの頭を叩いて店主に断りを入れる。そのままアインの手を引き、人通りの少ないところまで行くとアインに向かって説教を始める。


「なんで少し目を離すとフラフラと行っちゃうんですか! 貴方は子犬ですか!」


「...ごめんなさい」


 アインはこれだけ多くのお店が立ち並ぶ大通りで買い物するという初めての体験に浮かれまくっていた。生まれてこのかた、村から殆ど出ていなかったせいである。村では十歳以上にならないと近くの村以外は行ってはならない決まりだった。アインの村は街から離れていて森に面していたため魔物や獣が出やすかったため、モーリスが移住してくる前までは度々被害に遭っていた。大人でも命の危険があるのに、小さい子供を連れて街まで行くのは非常に危険だったのである。

 そしてアインは十歳からモーリスに弟子入りし、毎日魔術の修行に明け暮れていたため、街にすら行ったことがなかった。アインはたまに村の友人から聞く街並みの様子を聞いて、密かに憧れを抱いくようになっていた。そして遂に、国一番に栄えている王都の商店や屋台が立ち並ぶ大通りでショッピングが出来るのだ。アインが浮かれるのも無理はない。

 そんな大通りで目をキラキラさせている少女は売り手にとって格好のカモだった。一緒にいるレイスが目を離した好きに、さっきのように客引きに呼ばれるがままにフラフラとしていたのであった。


「はぁ、仕方ないですね。こうもフラフラとされては困りますから、はい」


 レイスは溜息をつきながらアインの前に手を出す」


「なにこれ?」


「手を繋ぐんですよ、そうすればフラフラされずに済みますし」


 アインはレイスの言葉に驚き、少し顔を赤らめる。女になって早一ヶ月、まだまだアインの中の男としての感情は強く残っていた。レイスの様な可愛い子と手を繋ぐということに、アインは少し心臓の鼓動がドキドキするのを感じた。


「いいの?僕なんかと」


 アインは人通りが少ないとはいえ、人がいる中で緊張のあまり一人称が戻ってしまう。アインの様子をレイスは察してか自らアインの手を繋ぎにいく。


「今の貴方は女の子なんですから、変に気を使わないで下さい。そういう態度だと、なんだかこっちまで恥ずかしくなるじゃないですか」


「...ごめんなさい」


 レイスはそのままアインの手を引き、大通りを歩いていくのだった。


 その日顔を少し赤らめながら手を繋いで歩く、美少女二人がいたと噂になったとかならなかったとか。



 *



 アインはレイスに手を引かれるまま大通りを歩いていた。一体どこに連れて行く気だとアインは思いながら歩いていると、レイスが一つの店の前に止まる。


「ここは?」


「王都にある有名な女性服のお店です。アインさん私服、あまり持っていなかったでしょう?せっかくですし買っていきましょう」


 レイスの言葉にアインは渋い顔をする。アインの持っている服は母の若い頃のお下がりと、村に来る行商人から買った一着のみだった。今着ている白いワンピースは行商人から買った外出用の一張羅といってもいい。これからの事も考えていくつか買わないといけない事はアインにも分かっているのだが、あまり気が乗っていなかった。


「私はいいから、レイスだけ入りなよ」


「何いってるんですか!今一番服を必要としているのはアインさんでしょう!」


「いやいや、だって女の子の服だよ? なんか生理的に違和感がさ」


「今の貴方は女の子でしょう、大体いまきている服だって女物じゃないですか!」


「本当はこれも嫌なんだよ!でもきて行く服がこれしかなかったの!」


 アインは逃げようとするが手首をレイスに掴まれ、引っ張り合いになる。店の前で一悶着やっていると店の者が二人の前に現れる。


「そこのお二人、大変お綺麗ですね! 良かったらお店に入って試着してみて下さい、学生の方なら多少お安く致しますよ!」


「是非!ほらアインさん、行きますよ」


 店員に捕まり、アインはめんどくさげな表情で中へと入っていった。



 *



「キャー!お似合いです!」


「そうですね、これもじゃあ候補に入れましょう。ではアインさん次はこれを」


 そう言って服を手渡してくるレイスに、アインは疲れた顔をしながらその服を受け取る。この店に入ってからかれこれ一時間以上、アインは店員とレイスに服を渡され着るというのを繰り返していた。


「まだ終わらないの?」


「残りの試着予定のものはこのくらいですね」


 店員の後ろにはずらっと服が並んでいた。それを見たアインはげんなりした様子でレイスに話しかける。


「もういいよ、これにするから」


「ダメです、アインさんはすぐ適当に選ぶんですから、ちゃんと一番似合うものを選ばないと」


「でもレイスも選ばなくて良いの?私ばっかり試着しているけど」


「私は家の専属デザイナーに作ってもらっているので」


 流石は公爵家とアインは思う。レイスの服装は線の入った白シャツに紺のカーディガン、濃い水色のストライプといった服装だった。レイスの着ている服はどれも素材が見るからに他の服とは違う、高級感が出ていた。


「ですがこう着る人が可愛らしいと迷ってしまいますね、お客様はスタイルがいいので大体の服が似合ってしまいますし」


「そうですね、まあ、時間はありますしゆっくり決めていきましょう。これもこれで楽しいですし」


「分かりました!新しい服お持ちいたしますね!」


「まだ持ってくるのか...」


 結局、お昼が過ぎまでアインは着せ替え人形と化すのだった。



 *



「やっと終わった...」


「もうお昼過ぎですからね、つい熱中してしまいました」


 アインは着た服の中から数着を選び、店員に渡す。店員はアインの着せ替えをレイスと十分楽しんだせいか、満足そうな顔でレジへと向かう。アインは村の魔物や魔獣退治などで得た素材を行商人と取引していたので懐はかなり暖かかった。今まで使い道が無かったため、結構な額が溜まっていたのである。

 アインはレジの方へ向かうと小物コーナーにある一つの髪留めが目に止まる。


「これは...」


 アインはそっとその髪留めをとってレジへと向かうのだった。

 アインとレイスは服を買い終えると、昼食にするために大通りで良さげな店を探していた。


「なかなかめぼしいところがないね」


「そうですね、お昼過ぎとはいえ混み合ってますし」


 大通りはさすが王都と言うべきか、昼過ぎでも飲食店は賑わいを見せていた。良さげな店があっても満席で入れないのだ。二人はどこか入れそうな店を探していると一つの店が目に止まる。


「あそこなんかどうですか?雰囲気も良さげですし」


 レイスが指した店はモダンな雰囲気のカフェだった。


「確かに良さげだけど、人がいっぱいそうだね」


「まぁ入るだけ入ってみましょう、もしかしたら空きがあるかもですし」


 二人が中に入ると給仕らしき女性がアイン達を見つける。二人の方へ近づくと申し訳ないような顔で二人に言う。


「すいません、ただいま満席となっておりまして」


「そうですか、仕方ありません別の店を探しますか」


 二人は少しガッカリしながら店を出ようとすると、テーブル席から声をかけられる。


「あら、レイスとアインじゃないですの」


「オリビアとカローナ、どうしてここに?」


「どうしてって、お昼に決まってるじゃん。二人もでしょ?よかったら相席する?」


「いいんですか?」


「問題ありませんわ、私達もちょうど入ったばかりですし、四人で昼食に致しましょう」


「それじゃお言葉に甘えて」


 こうして四人で食事をする運びとなった。



 *



 アイン達はその後、四人でブラブラと大通りを歩いて、気になった店へ立ち寄って一日を過ごした。途中でアインがまたカモられかけ、危ういところをレイスたちに止められるという一悶着もあったが、アインにとってはどれも初めての経験とあって非常に有意義な時間を過ごせた。そして四人は寮の門限が近づいてきたため、寮に戻るために学院に向かっていた。

 門を通り学院内に入ったとき、アインたちを待っていたかのように目の前にアグリットが現れる。


「学院長どうしてこんなところに?」


 アインは急に現れたアグリットに理由を尋ねる。アインの質問にアグリットは笑顔で答える。


「レイスにちょっと用事があってね。レイス悪いけど来て欲しいのだけど」


「分かりました、皆さんは先に戻っていてください。それでは」


 レイスは三人にそう言ってアグリットについて行こうとする。アインは行ってしまうレイスを慌てて呼び止める。


「待って!」


「何ですか?」


「これ!その、一週間色々とお世話になったし、これからも助けてもらうわけだから、そのお礼として」


 アインはレイスに小さな包みを渡す。レイスがそれを開けると中にはパステルカラーの黄色に白のレースで縁取ったシュシュが入っていた。


「可愛いですね...」


「服を買うときに見かけて、レイスに似合うと思ってさ」


「ありがとうございます、じゃあ私からはこれを」


 レイスは少し顔を赤らめて笑みを浮かべながらアインに小さな包みを渡す。アインがそれを開けると、銀色の蝶のアクセサリーが付いたヘアゴムが入っていた。


「本当は部屋に行ってから渡そうと思ってたんですけど、せっかくだから今渡します。前の模擬戦のような時は髪を縛った方がいいかなと思って、アインさんに似合うのがちょうどあったので」


「ありがとう!大切に使うね!!!」


 アインはレイスからのプレゼントに感激していた。女子から初めてのプレゼント、例えそれがヘアゴムで女子用だということは気にならなかった。お互いがプレゼントを用意していたことに二人は気恥ずかしさを感じ、甘酸っぱい雰囲気を醸し出す。

 が、それを止めるかのように、アグリットは大きく咳払いをする。


「おっほん!お取り込み中悪いんだけどそろそろ行かなくちゃ行けないから、レイス」


「はっ、はい! アインさん、それでは」


「う、うん。また後で」


 アグリットとレイスとそのまま別れると、完全に空気と化していた二人がアインに冷やかしにくる。


「貴方達そういう関係だったんですの?」


「ヒュー!水臭いなもう、言ってくれればいいのに!」


「ち、違うから!これは日頃のお礼とかそういうのだから!!!」


 寮に戻るまでアインは二人に必死に弁明を続けるのだった。

 



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