入学初日の受難 後と予想外の気苦労
「貴方は...メルフィーさん?」
「ええ、改めて自己紹介するわね。私はメルフィー=エルドリエ、公爵家の長女だけど、そこのレイスちゃんと同じであんまり気にしなくていいわよ」
「え、えとアインと言います、先日は申し訳ありませんでした!急いでたもので」
「気にしなくていいわよ、私もゴーンも怪我はないしね、そうでしょ、ゴーン?」
「ああ、何も問題ない」
メルフィーは彼女の背後にいる大男に声をかける。ゴーンと呼ばれた大男は黒髪短髪で右眉毛に傷を持つ、魔術師というより騎士に近い様な風貌だった。アインは彼のことを見るがよく覚えていなかった。じっとゴーンの顔を見つめてどこかであったのかと思い出そうとするが、やはり記憶にない。そんなアインを見て、メルフィーはクスクスと笑いだす。
「ゴーン、貴方忘れられてるみたいよ。アインさん私にぶつかった後にもう一度男の人にぶつかったでしょ?それが彼よ」
「ああ!すいません、あの時は急いでて顔も見てなくて...」
「いや、気にしなくていい。俺はゴーン=ラカゼット、騎士爵の次男だが、騎士爵など平民とそう変わらん。普通に接して構わない」
「は、はあ」
アインはこんなに偉い方々が気安く接してくれて良いのだろうかと思いつつ、断る事もできないので曖昧に頷く。
「彼は学院第三杖よ、こんな見た目だけど魔力の扱いが得意なの!」
「見た目は関係ないだろう」
笑いながら言うメルフィーにゴーンは不服そうな顔をする。確かにアインも見た目がthe漢という感じのゴーンにそんなイメージが湧かなかった。
「それで、わざわざどうしたの?第一杖と第三杖が何の用?」
アグリットが横から口を挟んでくる。それを見たメルフィーが笑顔で返答する。
「ちょっと彼女には縁がありまして、模擬戦をすると聞いたので見にきたんですよ。そしたら、面白い魔術の使い方をするし、学院長の弟子だと言うんですからつい興味が湧きまして」
アインはなんだが二人に嫌なオーラを感じた、何というか、こう背筋がゾクゾクする様な感じだ。アインが違和感を覚えているとゴーンが二人から逃げる様にアインの近くへ寄る。
「毎度アレには堪えるな...」
「もしかして、あの二人仲が悪いんですか?」
「ああ、同族嫌悪というやつだろう、顔を合わせるといつもこれだ。表面上では普通だがな、二、三年の中では知らぬ者はいない」
なるほどアインは思った。なんとなく感じていたが、雰囲気が二人とも似ているのだ。お互い立場は違えど学院のトップだ、タイプも似通っているのだろう。
「あとは強いて言うなら、彼女がレイスちゃんのルームメイトだからかしら」
「レイスちゃんはやめて下さい!」
「ええー、いいじゃない。昔みたいにメルフィーお姉たまって呼んで良いのよ?」
「いつの頃を言ってるんですか!人が多いところでそういう話はしないで下さい!」
レイスは顔を赤くしながら、反論する。公爵家同士、小さい頃からの知り合いなのだろうと何となくアインは理解した。
そんな珍しくレイスが弄られる状況に周りが不思議がっていると、咳払いが聞こえ、その方向にはケインがいた。
「皆さん、他の生徒が状況についていけずに混乱しています。それにリーラの容態も心配なのでここは一旦解散してくれるとありがたいんですが」
アインはハッと気がついて周りを見る。観客席にいる者たちはザワザワと騒ぎ出し、フィールドにいるメンツに驚いている様子だった。
「リーラさんは気絶しているだけの様です」
「そうか、申し訳ないがこの勝負は君の勝ちという事でなるべく早くここから出て行ってくれ、乱入者のせいで会場が混乱している」
そういってケインは 学院長やメルフィーたちを睨む。彼の貴族嫌いは筋金入りの様だ。
「そうね、すぐ退散しましょう。ケイン、ごめんなさいね騒がしくしてしまって。それじゃアインちゃんにレイスちゃんもさようなら!」
そう言ってメルフィー達は出て行く。残されたアインたちもそれに続く形で解散する事となった。
*
その翌日から、学院は二つの噂で持ちきりになった。一つはアインのことだ。入学早々特待生派の女子リーダーをハンデ付きとはいえ、倒したのだ。加えてあの変則的な戦い方と学院長の弟子という事もあって話は学院中に広まった。
「はあ、疲れた...」
アインはベットで項垂れていた。今週中はずっと噂のせいで周りから変な視線を送られて、初めての学院生活に加え、女子生徒としての振る舞いに気を付けながらと精神的な疲労がとてつもなく積み重なった所為である。
そして、何故か同室であるレイスも同じように下のベットに横たわり、疲れた表情をしていた。
「アインさんのせいでこっちまでとばっちりですよ、どうしてくれるんですか?」
「いや、僕のせいっていうか、メルフィーさんのせいでしょ」
「あの人が来たのはアインさんが原因でしょ」
「それは...」
レイスが疲れているのは、もう一つの噂のせいだった。その噂とは、一つ目とは違って、少し意外なものだった。
「あのアインっていう子のルームメイト、あのレイス=アーノルドらしぜ!」
「まじかよ、あの公爵家の<氷の鉄仮面>だろ、常に冷静で無表情でなんか近寄りがたい雰囲気の?」
「いやそれがな、小さい頃はメルフィー様のことを『めるふぃー、おねえたま! だあいすき!』とか言ってたらしいぜ!しかもその話をメルフィー様がした途端、顔を赤くしてプリプリ怒るんだよ、それがなんて言うかめっちゃ可愛いかったらしいぜ!」
「マジかよ!?想像できねぇな、でもなんかさ、あれだな...」
「ああ」
「「なんかすごく萌える!!!」」
これがギャップ萌えというやつだろうか、アインは都会ではそういうのが人気らしいとたまに村に来る行商人から聞いた事があった。普段と違う様子にグッとくるものらしい。
レイスのそれはまさに聞いたものの心に突き刺さった様で、学院ではあちこちからレイスに対し、
「レイス様におねいたまと言われたい!」
「あの<氷の鉄仮面>が顔を赤くしながら恥ずかしがっているところが見たい!」
「レイスたんに蔑んだ瞳で踏みつけられたい!」
という願望を持つ者が男女含め多く現れた。なお、最後のは前々から密かに言われていたらしい。
「ていうか、レイスって<氷の鉄仮面>って言われてたんだね」
「ちょっと黙っていてもらえますか?」
「すいません」
どうやら本人は気にしていたらしい。一週間共に過ごして分かったことだが、レイスはカローナとオリビア以外に親しい友人はいない様だった。彼女は基本無表情でアインも初め思っていたが、関わりの少ない者からしたら近寄りがたい様だ。中等部の頃から整った顔立ちと公爵家次女、そして実力もあったため、憧れる生徒は多かったが、近づいて来る生徒はほとんどいなかったそうだ。それが今回の件で大幅なイメージ革命が起こったらしい。多少噂に尾ひれがついたせいもあって学院内でレイスの人気はうなぎ登りだった。
「あとは僕もか、やっぱりスカートで身体強化のコンボは失敗だったなぁ」
そう、アインはあの模擬戦とき制服姿だった、つまり身体強化のコンボと後ろに発動した突風の影響で丸見えだったのである。
アインの清楚な見た目も相まってその場にいた男子生徒は驚愕し、たちまち噂は流れ、レイスと二人で天然清楚系とギャップ萌え鉄仮面として噂の拡大に大きく貢献していたのだ。
アインは学院に行くのが少し憂鬱になっていた。カインとして学校に行くと面倒ごとが起きる事確定なので、せめてアインとして通う時は平穏に過ごしたかったのだ。あれから目を覚ましたリーラが、もう勧誘はしないと名残惜しそうにしながらも約束してくれた。これで派閥争いに巻き込まれることは無くなったが、常に視線に晒されている状況にアインの精神はかなり参っていた。
「気分転換をしましょう!」
急にレイスが大きな声でそう言った。どういう事かとアインが尋ねると、レイスが説明を始める。
「私達は精神的休養が必要です、幸い明日は休日、街に出かけてショッピングをしましょう」
アインは街と聞いて体を起き上がらせる。入学前は忙しくて興味が惹かれるものがあってもよる事ができなかった店が多くあった。そこに行けるかもとアインは思い、乗り気の様子で二つ返事で了承する。
こうして明日は、息抜きのためのショッピングに出かける事になった。
次は閑話になります。誤字、脱字、おかしな所、感想等頂けるとありがたいです。
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