表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/35

長官



 ーーー二ヶ月前【辺境領ノーザンクロス】


 「‥‥まったく、シャキッとしなさい。ハウンド。」


 マリリンことマリ‐ヴァレンチノが不機嫌そうに振り返り、しきりに何か言っているが、頭がガンガンしていて何を言ってるのかさっぱりわからない。

 マリリンはオレの態度がちょっとでも悪いと容赦なくしばいてくる恐ろしくも可愛い女だ。鉄鞭で叩かれる前に、とりあえず適当な返事をしておく。


 「‥‥あいあい、わぁってるよ。マリリン。」


 足元がふらふらするのでマウンテンの肩を借りてなんとか歩いてる状態だ。もちろん、マウンテンは今日も一言の文句も言わずに無言で肩を貸してくれている。

 

 (‥‥にしても昨日‥‥いや、今日の朝までか。とにかく飲み過ぎた。いや、飲み過ぎたというより楽しすぎた。あれは反則だ。あんな男の夢がまるごと詰まったようなハレンチな店‥‥‥オレちゃんじゃなくたって飲み過ぎちまう。)

 

 あのあと、どうやって帰ったかはわからないが、なんとか朝方シェアハウスにたどり着き、部屋で寝始めたところをすぐにマリリンに叩き起こされた。

 

 そして、今、石畳が敷かれた大通りを北へと無理やり犬のように引きずられて歩かされている。どうやら、オレ達は【ノーザンクロス冒険者ギルド本部】に向かっているようだ。


 (‥‥んまあ、オレ達はギルド本部所属の冒険者。チーム【ハウンド】だ。当然と言えば当然か。うん。)


 「‥‥ん?‥‥なにかしら。」


 マリリンが前方の黒だかりに怪訝けげんな顔を向ける。

 早朝にもかかわらず、ギルド本部前の広場は冒険者達と見物客でごった返している。なにかしらの事故か事件が起こったのかギルド本部の前で誰かが話してるのだが、すごい人だかりで全然見えやしない。

 

 とりあえず、目の前にいたチェーンメイルを着込んだ冒険者らしき男を捕まえて、無理やり話を聞く。


 「おい、いったい何があった?」


 「あ、ああ、取っ払いだよ。取っ払いが出たってよ!」


 (‥‥取っ払い‥‥特別緊急オーダーか。)

 

 【特別緊急オーダー】簡単に言うと、例えばAという国がドラゴンに襲われ場合。そのA国だけで対処できない時、そして緊急を要する場合、A国がB国、C国、D国といった周辺諸国のギルドにお金を払ってドラゴン討伐を依頼するシステムのことを言う。

 一般的なギルドオーダーとの違いは、このオーダーを受託できるのは本部支部にかかわらずギルド内で1パーティーのみであること、そしてギルドオーダーの場合、討伐報酬は参加者全員がもらえる分配方式だが、特別緊急オーダーの場合、報酬は第一討伐者のみ、つまり早いもの勝ちで報酬金がもらえる。

 そしてもうひとつの特徴として報酬金が超高額なことがあげられる。

 このことから冒険者達の間では、昔から【取っ払い】と呼ばれている。


 「‥‥バウンディはいくらついてんだ。」


 取っ払いはリスクがでかい。金をかけて討伐に行っても他の誰かにかすめ取られでもすれば、大赤字をくらう。


 「‥‥九十万ギリングだとよ。」


 「「!!?」」


 「‥‥‥‥き、九十万‥‥だと‥‥。」


 マリリンもマウンテンも驚いている。


 (そりゃそうだ。九十万つったらあれだ‥‥なんだ?‥‥なんと、金貨九十枚か。ウワオッ!ワオッ!酔いも吹っ飛ぶ!‥‥小さな家が建つぐらいの大仕事だ。)


 「ーーーマリリン、マウンテン。」


 咄嗟に、マリリンとマウンテンの顔色を伺う。

 二人の同意無しでは、これほどの【オーダー】は受けられない。


 マウンテンは腕を組んで小さくうなずいてくれた。おそらく、オレに任せるということだろう。

 

 マリリンはというと、少し考えるそぶりを見せ‥‥。


 「‥‥‥好きになさい。でも、もう誰かに受けられてるかもね。」


 (いや、それは絶対にない。)

 

 九十万の取っ払い。

 こんだけでかい仕事だと受けられるのは、ノーザンクロス冒険者ギルドでも、懸賞金ランキング‐トップクランに限られてくる。ーーーつまり。


 エースナンバー【ハウンド】

 セカンド【アイアンフィスト】

 サード【クラン‐ウルフ】


 必ずと言っていい【アイアンフィスト】と【クラン‐ウルフ】は、オーダーを受けずにオレ達【ハウンド】の動向を伺っているはずだ。


 『ふうっ』と小さく息を吐き、意を決する。


 「おしッ!!やってやるか!」


 人ごみをかき分けて押し通ろうとすると。


 周りから‥‥『猟犬だ』『ハウンドだ』『ハウンドが来た』『おお、マウンテン!』『マリリン様マジ女神!』『よっ!ハウンドーーッ待ってました!』


 ーーー等々、口々にハウンドの名が呼ばれ始め、ギルド本部広場は突然現れたオレ達に騒然となった。

 そして、海が真っ二つに別れるように、オレ達の前に一本の道ができた。

 そして、その先にはギルド職員【ルナ‐マッキンゼー】がクールな笑顔で待っていてくれた。


 「ちゃんルナァ!その【オーダー】オレちゃん達ハウンドが受けるぜェッ!!」


 オレの言葉に少し面食らったような顔をしたが、すぐに書類に目を通して答えてくれた。


 「‥‥‥は、はい。えーと、ノーザンクロス冒険者ギルド本部規約十二条第二項、上位ナンバー特権行使によりチームハウンドの緊急特別オーダー受託を許可します。つきましては、詳細を三階会議室で‥‥長官がお待ちです。」


 「ち、ち、長官っ!?‥‥ちゃんルナ‥‥オヤジがいるのか?こんな早い時間に‥‥。」


 ノーザンクロス冒険者ギルド本部・長官【アーロン‐スノウ】

 

 「はい。この案件は昨夜遅くに持ち込まれましたので、スノウ長官が特別担当として着任しております。」


 「‥‥ま、まじか‥‥」


 アーロン‐スノウはオレ達ハウンドにとって、怖すぎる父親のような存在だ。正直、やりにくい。


 「‥‥それと、ちゃんルナではなく、私のことはマッキンゼーとお呼びください。悪しからず。」


 「かたい、固い。カッチカッチだよ、ルナルナはァ!オレちゃんとちゃんルナの仲で遠慮は無用だろ‥‥?」


 「いえ、遠慮は必要かと存じます。」


 「それよりさァ、この詳細はスノウ長官抜きで、ちゃんルナと二人きりで詰められないかな‥‥?」


 最高の笑顔で、こう提案してみる。

 

 「ちっ!うっぜぇ‥‥。」


 言葉使いに反して、ちゃんルナは貼り付いたような満面の笑顔。


 「‥えーと‥‥‥心の声が漏れてますよ。」


 「あ、これは失礼致しました。チャラ男様。先ほどご提案の長官抜きというのは、わたくしの方では判断しかねます。とりあえずご案内致しますので、どうぞこちらへ。」


 (あ、あれ、チャラ男様‥‥‥?)


 うん、でも、こういうところがちゃんルナの魅力だ。ツンはあってもデレはない。まったくブレることがない。まさしく、クールビューティー。


 ◇


 この後、会議室に通されたオレ達は、スノウ長官から今回の特別緊急オーダーの詳細を手短かに聞かされる。


 【場所】商業都市【ウェニスタ】。商業区及び第二居住区。

 【任務内容】ウェニスタに襲来した三頭の【エルダーワイバーン】の討伐。

 【報酬】ワイバーン一頭につき【三十万ギリング】。


 まあ、まとめるとこんな感じだ。

 

 場所はかなり遠いが問題ない。報酬も聞いていた通り三頭で九十万ギリングの取っ払い。

 しかし、エルダーワイバーン討伐というのは少々問題がある。ワイバーン討伐にはどうしても名人クラスの弓手が必要になる。そのことを長官に話すと、笑いながら、もう手配済みだと話してくれた。

 クラン‐ウルフに蒼弓の二つ名を持つ弓の名手がいる。その蒼弓とすでに話が通っているらしい。さらに、ありがたいことに、あらかたの装備品と馬車の準備もできていて、後は出発するだけという状況だった。スノウ長官がすべてを見越して昨晩から準備していてくれていたらしい。


 【特別緊急オーダー】を成功させることはそれだけノーザンクロス冒険者ギルド本部にとって最重要案件であり、ギルド本部の名誉にかかわることのようだ。


 そして、出発するときにスノウ長官からオレはこう耳うちされた。


 「‥‥もし、これで、ワイバーンを一頭も討伐できなかったら、もうノーザンクロスには帰って来なくていいから‥‥なァ、アッシュ~」

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ