双子
「ちんたらちんたらしやがって、いったい、どこほっつき歩いてんだ。おっぱいワキワキ野郎ォ!」
「お、おいっ、バニラ!!こ、こんなちっこい子達がいる前でェェ‥‥」
「‥‥‥心配したんだぞゥ‥‥」
恥をかかせた後に、上目遣いで優しいフォローを入れてくるあたり、この短期間でバニラは完全に僕の扱いを心得ている。
恐るべき学習能力。
「ごめん、ごめん、バニラ。それにしてもいっぱい連れて来たなーって‥‥ぅおいッ!!そのちびっこ達は大丈夫なのか!?」
バニラの後ろにいるちびっこセブン達ははまるで敗戦兵のように息も絶え絶えで地面にへたりこんでいる。
「だぁーから、昨日言ったろ。メシ食って無いんだよ。だから、三時間も歩いてここまで来たんだろ。このアホ助が!」
アホ助‥‥‥。シンプル。シンプルなだけに傷つく。
しかし、ほんとにやばいじゃないか。年端もいかない子ども達が何日もご飯が食べられないこの状況。
(‥‥まさか、疫病。それとも、天変地異の大災害。どちらにしてもバニラの村には、貧困と飢餓が蔓延しているのか?)
「うんにゃ。違うよ。タコ助。」
またもシンプル。
「うちの村はものすごく貧乏だけど飢餓とかはない。もちろん疫病も天変地異もおっぱい大魔王も降臨していない。まぁ、春先はいつものことだよ。冬の蓄えを食いつくして村は今、からっけつだ。からっけつ!!うわっははは‥‥!」
どこでつぼったのか知らないが自分のお尻を『パンッ!』と叩いて豪快に笑っている。
「‥‥‥わかった。わかった。今すぐ用意するからちょっとだけ、ちょっとだけ待っててくれ。」
急いで小屋に入り、七人分のカレーライスの準備を始めた。
夜明け前からコトコト煮込んでいたカレーは最高の出来だ。鍋の蓋を開けてぐーるぐるかき混ぜるとなんとも言えないカレー独特の良い匂いがした。
「‥‥ああ、良い匂ーい。さてさて、お米は‥‥‥んや!?」
「‥‥グルルルルルルルルーー。」
いつのまに入って来たのか、玄関の前に空腹で我慢できなくなったちびっこゾンビ達が目を爛々と輝かせて襲い掛かってこようとしていた。
「ぅああおい!?おい!‥‥ち、ちょ、ちょっと待て!【マテッ】!!」
(うん。ピタッと止まったね。)
ちびっこゾンビ達はピクリとも動かない。
(‥‥なにこれ?‥だるまさんが転んだじゃないよね。‥‥あれあれ?なぜか、バニラさんも交じっている。)
「お、おい!バニラ。なんでお前まで襲い掛かろうとしてんだ。」
「ぅえ!?‥‥あ、あれだよ、あれ。本能的なあれだな。‥‥う、奪い取ろうなんて思ってねーからな!」
(‥‥う、奪い取ろうとしていたのか。危ない。超危険な状況だったんじゃないですか。これは、ちょっと強気でいかないとやばいな。)
「ヨォーシ!チューモォーーーク!注目だ、注目しやがれ、犬ッコロどもォ!貴様ら言うこと聞かないと本気でカレーライスはお預けだからな!‥‥それじゃあ、いくぞォ、一列横隊ィィーーー【並べっ】!!」
『ーーーザッ!ザザッ!!』
一糸乱れぬ動きで、横列にささっと並んだ。
「よーし、よーし。いいぞ、いいぞ。‥‥それじゃあ全員、一斉にィィーーー【お座りっ】!!」
『ーーーペタンッ!!』
全員が一斉にペタンと手をついて座った。ちびっこセブンとバニラが一列に並んでお座りしている。
(‥‥あれあれ、なにこれ、ちょう可愛いんですけど‥‥こ、これは我慢できない。)
すぐに、スマートフォンを持ってきて写真をパシャパシャと撮りまくっていると‥‥。
「‥‥‥おい、ごらあぁぁッ!パルルッ!オレらにお座りさせて何やっとんじゃあああーーボケェェーーッ!!」
バニラがお座りの呪縛を今にも破りそうな勢いで激怒している。‥‥や、やばい。
「お、おう、わかった、わかったから、はやまるな、はやまるなよ。す、すぐに用意するからな。マテッ、マテッだぞ、バニラくん。」
すぐに、あったか大盛りご飯にカレーをたっぷりかけたカレーライスをちびっこひとりひとりの前に置いていく。
ちびっこ達は目を輝かせてヨダレを垂らしながら尻尾をブンブンとちぎれるぐらい振って、マテッの言いつけを守っている。
バニラまで全員分をよそったところで、あれだけ作ったカレーが底をついた。僕の分は無い。だが、それでも良い。これだけ喜んで食べてくれるなら、作った僕も嬉しくなってくるというものだ。
◇◆
「‥‥‥‥あーあ、食った、食った。やっぱカレーライスは最高だな。‥‥ちなみにおかわりはないのか二ャ?」
出た!バニラお得意の【二ャン語】、どれだけの男たちがこの二ャン語に騙されてきたことか。だけど残念だが今日は本当に無い。
無我夢中でカレーを食べていたちびっこセブンたちは、おそらくあまりの美味しさにだろう、スプーン片手にカレーがなくなってしまったお皿を見つめて全員放心状態。深刻なカレーライスロスに陥っている。
しばらくすると、カレーライスロスに陥っていたちびっこ達は、おなかがふくれて眠くなったのか、次々と床の上で丸くなって寝始めた。本当の子犬みたいだ。
「‥‥‥お前らは寝ないのか?‥‥【モナカ】【モカ】」
バニラが話しかける。二人とも十才くらいだろうか。ちびっこセブンの中では年長さんに見える。まだ幼なくて可愛らしい感じだけど、将来的にはとんでもない美人さんになるのは間違いないだろう。
おとなしくちょこんと座って同じような格好でお茶を飲んでいる。‥いやいや、同じような格好なんてものじゃない。二人はまるっきり瓜二つだ。
「あれ!?あれあれ‥‥君たちは双子なの?」
「「‥‥あい。双子なの。」」
(あぁ!ハモった、キャワゥイイッ!なんか、胸がきゅんきゅんする。)
そして、この可愛らしいハモリを聞いたとき僕の頭の中にひとつの仄の暗い考えが頭をもたげていた。
「‥‥‥うおい。パルル、お前また気持ち悪い匂いがしてるぞ。」
「え!!?」
「‥‥モナモカは超人見知りだから無理だと思うぞ。それにしても、ちびっこのモナモカに目をつけるあたりお前どうしようもない【マダオ】だな。」
(マダオって‥‥いったいどこで覚えたんだ。お前は‥‥)
バニラは超人見知りだから無理だと言っていたが、わりとあっさりと、どうにかなっちゃいました。
モナモカはオレンジジュース一杯であっさりと陥落した。
今は僕の両膝に二人ちょこんと座って尻尾をフリフリ、美味しそうにオレンジジュースを飲んでいる。
「お耳にさわってもいーい?」
「「‥‥ダメなの。お耳はダメ。」」
「尻尾はいーい?」
「「ダメなの。尻尾もダメェ。」」
そう言って、モナモカは同時にきゃっきゃと言って両耳を押さえる。シンクロしている。動きまでハモっている。僕はもうきゅん死寸前だ。
「うあっはははは‥‥だから言ったろ。クケケケケ‥‥‥」
バニラがバカみたいに大笑いしている。まあ、アホだからしょうがない。
「おい。バニラ。そこの引き出し開けて、中からポテチ取ってくれ。のりしおな。うんうん、それ、その黄色いやつ‥‥。」
バニラからポテチのりしおを受け取ってその場でバリバリとパーティー開けをして、モナモカの目の前に置く。モナモカも鼻が利く、匂いだけであからさまに浮き足立っている。
「うおおおォーーっ、なんじゃあ、こりゃあ!!」
モナモカよりも浮き足立っている方がもうひとり。
「‥‥これはポテトチップスのりしお味。カレーライスより美味しい食べ物。モナモカ、食べたいかい、食べたいだろ?‥‥それならわかるだろ、そうだよ、あれをあれして、アフンッ!!?‥」
(バンッ!!)とバニラにおもくそ叩かれた。‥‥い、痛い。
「お前はちびっこに何を言ってやがるんだ。この変態ハゲ!!モナモカ、食べていいぞ、こいつのことはオレに任せとけ。」
モナモカが飛びつくようにポテチを手に取り、一口食べて目を白黒させる。
「「‥!?‥‥おねいちゃん、これ!」」
二人とも目をぱちくりさせながらポテチを同時にバニラに差し出す。そして、それをバニラがバリバリと食べる。
「んっ!?‥‥‥ハルヒロ、こ、これ‥‥塩じゃねーか。」
「うん、塩だよ。うすしおじゃねーよ、のりしおな。」
だが、【うすしお】か【のりしお】かは全く問題じゃなかったようだ。




